エルフ日本を歩く
「あの……ここってどこ? 見覚えのない場所なんだけど」
道すがら、コンクリートジャングルに迷い込んだエルティアは周囲の街並みを見回し怖々と王利に尋ねた。
王利は一瞬何を言っているのかと思ったが、彼女の世界にビルやマンションなどは存在していないのだ。不安になるのは当たり前だった。
通りを歩く人の数も、ローエングロックの城下町とは比べ物にならない数の人間が行きかっている。
歩道の人が少ないのであまり目立ってはいないが、さすがにエルティアの姿は人目を引くのか、一部の人々が二度見したり写メを取っている。
話声を聞くに、エルティアの事はエルフのコスプレした女の子と誤解されているようだ。耳までリアルな再現だと感心した声がちらほら。
一部男たちが萌えがどうのとほざいているが、王利は無視する事にした。
「この巨大な建造物はなんですか? 塔?」
「まぁ、細かいこと言っても分からないだろうからさ、こういう建物とか道具を扱う日本人っていう種族が居ると思ってくれ」
「ニホンジン?」
と、不思議そうに首をかしげるエルティアの横を赤いメタルカラーに輝く鉄の塊が、轟音響かせ通り過ぎて行く。
さすがに目を丸くして驚いていた。
「あ、あれは……何て生き物?」
「車のことか? アレはただの乗り物だ。日本人が作り出した道具だよ」
「あんなモノを作り出すなんて……すごいのねニホンジン」
確かに、科学技術の進歩には王利自身驚きを隠せない。
一般公開されてないとはいえ怪人などという人類以上の力を持つ改造人間を作れるまでに昇華されているのだ。
エルティアの魔法世界と比べると、余りにも進むベクトルが違いすぎてしまっているともいえた。
王城であってもどこか長閑さがあったエルティアの居た世界。
彼女にとってこの世界は、性急すぎて不安を覚えるのだろう。
人々の行き交う大通りにでても、王利の裾を掴んだまま小刻みに震えるエルティアは、借りてきた猫を思わせた。
震えるように忙しなく周囲を見回すエルティア、ふと、あるモノを見つけて足を止めた。
「これ……服ですか?」
立ち止まったのはブティックだった。 ショーウインドウに飾られた服に見入っている。
「綺麗……」
確かに、キラキラとラメが輝いている。
高級感漂う赤いワンピース。多分エルティアには似合わない。
いや、でも、着れば着たで綺麗に見えるか?
買ってやるのもいいかと思った王利だが、値段を見て目を向いた。
なんと27000円の品が、閉店セールで19800円。
19800円とお買い得。
ちなみに王利の手持ちは500円。本来ならば今日の夕飯に消えるお金である。買えるはずもなかった。
「あ、あの、これはどうすれば手に入りますか?」
「え? あー、その……」
言葉に詰まる。お金がいると説明して理解してくれるだろうか?
エルフ族に通貨の概念があるかどうかすら分からない。
結局、別の話で煙に巻く事にした。
「ま、まぁそれは後にしよう、これから、俺の上司に会いに行くんだ。出来るだけ早く向った方がいいし、今手持ちがないし。そ、そうだ、相手も王族みたいなものだから、出来るだけ丁寧な対応をしてくれよ。説明は俺からするから、聞かれたら答える程度でいいよ」
「わ、わかったけど……その、王利さんみたいに姿が変わったりするの?」
どうやら話に乗ってくれたようだ。
王利は安堵の息を吐きだして言った。
「ああ。インセクトワールド社の社員は全て改造人間だ」
「わかった。覚悟しとく」