タイプγ戦4
「何今の?」
『あん? ああ。何かあったかァ?』
「……いえ、何でもないわ」
大切な何かが消えた。それは理解したがクルナは魔力というものなのだろうと勝手に納得した。
しかし、それにしては違和感というべきか、自分にとって大切なモノを失ってしまった喪失感が強い。
余り魔法は使うべきではないのかもしれないと気付く。
この喪失感は余り味わいたくないものなのだ。
あの首領を追い落とすためならいくらでも使って見せるが、あいつのために使うのは絶対に阻止する。
その為には魔法を使っている姿を見せてはならない。
そしてゲルムリッドノートを自分が持っているという証拠も相手に見せる訳にはいかない。
「ままならないものね」
「タイプγは捕獲できましる。なにがままならないのでる?」
「……なんでもない」
ハルモネイアの言葉にどうでもいい返事をしてタイプγを見る。
風の鎖により空中に縛られたタイプγは必死にバーニアを噴かせているがそれ以上逃走は出来ていなかった。
「そろそろね。空中の毒ガスよ無毒に変わって」
クルナは何度目かになる同じ言葉を真言として吐き出す。
声の力が届く範囲に告げることで無毒にする事が出来るのだが、その範囲も時間経過と共に減って行き毒ガスが浸食して来る。
なので定期的に言葉を発しておかなければ毒を吸い込む結果になってしまうのだ。
いくらクルナといえども言葉が封じられる程に血反吐を吐く毒を受け取れば、そのまま死んでしまう。
そうなってしまうと折角危険を冒してハルモネイアに付いてきた意味が無くなる。
自身専用の仲間を手に入れる数少ないチャンスなのだ。
絶対に生きて帰る。クルナは決意を新たにタイプγへと接敵した。
「タイプγ、そこまででる!」
「邪魔をしないでください。私は治療を行うだけです」
と告げるが、当のヘスティはタイプγのせいで毒の空気を吸い込まされ、再び毒に掛かっているようだ。
血を吐きだしたのを見て、即座にクルナは真言を発動させていた。
「ヘスティ・ビルギリッテの体内を犯す毒、無毒に変わって。毒への抗体も作って」
「邪魔をするならあなた方を敵と判断します」
タイプγが無機質な声で告げる。
このまま戦っても良かったが、それだと折角の配下に傷を付けてしまう。
それを避けたいクルナは厳かに告げた。
「EC-03。エクファリトス王からの指令の全消去。加えて私とハルモネイアからの指令以外は受け取らない事。返事は?」
「……了解しました」
一瞬目の光が消えたようなタイプγ。すぐさま無機質な音で返答した。
「まずはヘスティさんの拘束を解いてくれる?」
「……了解しました」
解放されたヘスティ。しかし、空中で解放されたためいきなり自由落下を始めてしまった。
「ハルモネイアさん、ヘスティさんを!」
「了解でる」
即座にハルモネイアがヘスティを追跡するが、地面への激突までに追い付けない。
「ヘスティ・ビルギリッテ……浮けッ!!」
地面に激突するその寸前、クルナの真言によりヘスティの身体が浮き上がった。
ようやく追いついたハルモネイアがヘスティを抱きとめる。
ヘスティとクルナを持ちあげた状態が辛かったのか、ハルモネイアはすぐに地面に着地して二人を降ろした。
「さて……ゲルムリッドノート、まずはタイプγを縛ってる魔法を消すわ。どうすればいい?」
『放っときゃ数分で解けるだろォぜェ』
「ならいいわ。先にヘスティさんね」
ヘスティは毒のせいか既に意識混濁となっていた。
もしも意識があれば変身状態の今、彼女は自分の翼で飛び上がっていただろう。
毒は体内から除去されたが衰弱が酷い。
タイプγは見た限り医療用ロボだ。
普通に治せるだろうかとクルナは考える。しかし、タイプγは敵対状態で治療するとヘスティを連れ去った。
そう命令を受けたということは、タイプγのいう治療は致死性の高い治療ということになる。
任せるべきではないだろう。
「ヘスティ・ビルギリッテ、自己治癒能力最大。戦闘可能状態になるまで現状を維持、とにかく体調を整えて」
結局は真言で対処する事にした。
ヘスティが直ったら即座に自分の配下に加えておく。
首領が何かを命令してきたら掛かったふりで対処するように伝え、何においてもクルナの指令が優先されるように伝えておくのだ。
今は、それだけだ。
ヘスティが治る間に浸食する毒ガスを何度か無毒に替え、魔法の威力が切れてクルナの元へとやってきたタイプγに同じように指令を送る。
以後、ゼルピュクネー01の指令を完全に遮断し、クルナかハルモネイアからの指令だけを聞くように設定しておいた。
これでクルナは三体の部下を手に入れたことになる。
思わず笑みがこぼれた。
首領への復讐が少しづつ形になって行く。
その暗い笑みが、首領にどこか似ていたのを指摘する者は、ここには皆無だった。