タイプγ戦2
「そういえば、自己紹介してませんでしたね。クルナです」
「LR320091。通称ハルモネイアでる。今回の共闘はよろしく頼みまる」
「そう……ハルモネイア……ではなくレゾンロリアス320091が正式名称なんですね。変わった名前ですね」
「機械族の製造番号でる。これは他の機械族も同じなので問題はありませる。すべてネットワーク上に情報がありまるので全ての製造番号はわかりまる」
「……それはつまり、今先行しているあの機械? というのも製造番号分かるの?」
「ネットワークに繋がれば問題はありませる。ただし、ネットワーク更新を行わなければならないため、私はエクファリトスの王の指揮下に入ることになりまる。つまり、敵になりまる」
そうなれば、首領たちにとっては本末転倒だ。
なのでハルモネイアも最近はまったく更新を行っていない。
更新した途端に、下手をすれば折角手に入れた感情を捨てざるを得なくなるのだ。絶対にそれはしたくない。
ハルモネイアは自分自身の決断で更新を行わないようにしているのだった。
「……お願いがあるの、更新を行ってあいつの製造番号を手に入れてくれないかしら?」
「無理でる。更新を行うとさっきも言った通り私は敵対することになりまる。それに、折角見つけた私の感情が……消えてしまいまる。それは……嫌」
「そこは問題無いわ。ええ、全く問題無いの」
言葉の意味が理解できずに首を捻るハルモネイアに、お姫様抱っこされているクルナは厳かに告げた。
「LR320091、更新を行っても、私に(・・)敵対しないようにしなさい」
「……はい」
クルナが真名を告げて命令した瞬間だった。
ハルモネイアの目から光が消えた。
クルナはそれを見て問題無く能力が掛けられた事を知る。
「LR320091、更新とやらを行って。ただし、あなたの感情は塗りつぶさないように、その手に入れた感情は不可進。どのような上書きを受けても絶対に失わない」
「……はい」
と、ハルモネイアは命令通りに更新を開始した。
クルナが彼女の感情を残すよう命令したのは、自分の復讐のために彼女の感情まで殺すのが躊躇われたからだ。
首領は憎い。殺してやりたいくらいに憎い。
でも、その周囲の人々は、首領の起こしたことを知らないのだ。
つまり、彼らに罪はない。
首領を庇うのならば遠慮する気はないが、それ以外の人物を巻き込んでまで復讐を行う気になれなかったからである。
それでも、打てる手は打っておく。
「それとLR320091。以後、真名を呼ばれての命令は私から以外は受け付けないようにして」
「……はい」
ハルモネイアはまさに操り人形のように頷きつつ、更新を始める。
今まで溜まっていた更新内容が彼女が有していた古き情報を上書きで消して行く。
最新情報取得。エクファリトスの王死亡。
代行者としてTP-882149。通称ゼルピュクネー01が指令を代行。
異議を唱える者無し、命令はエクファリトスの王が生前に伝えた指令。
最優先命令を受け取る。ヘスティ・ビルギリッテの抹殺。
邪魔をする者は何者であれ撃破すること。
第二優先事項、蠅の抹消。邪魔になるようなら率先して倒すべし。
作戦内容把握。
EC-01。通称タイプα。
EC-02。通称タイプβ。
EC-03。通称タイプγ。
EC-04。通称タイプδ。
EC-05。通称タイプεはヘスティ・ビルギリッテの抹殺。
TP-882150、ゼルピュクネー02からTP-882159、ゼルピュクネー10は敵対者の妨害。可能ならば排除せよ。
他の機械族は蠅の駆除を優先。
蠅についての詳細を入手。
EC-01。通称タイプαの破壊を確認。
EC-02。通称タイプβの破壊を確認。
EC-04。通称タイプδは機体損壊により救難信号を送っています。近くの機械族は回収に向って下さい。
LO-913・甲型、通称クレストガーディアンの破壊を確認。
LO-924・甲型、通称クレストガーディアンの破壊を確認。
LO-962・甲型、通称クレストガーディアンの破壊を確認。
LO-988・甲型、通称クレストガーディアンの破壊を確認。
PA-292・警備型、通称チェイサーの破壊を確認――……
……以上、更新完了しました。
「再起動しまる。この間この機体はバーニア噴射が一時的に止まりまる。再起動完了までしばらくお待ち下さる」
「ちょ、待って。そのなんとか噴射、止まったら落ちるんじゃ……」
「再起動開始まであと5・4・3・2・1……」
クルナが自身の危機を察知して焦るが、無情にもハルモネイアはカウントダウンを始めてしまう。
「0」
と、ハルモネイアが呟いた瞬間、彼女の背中からバーニアの火が消え去った。
そして、推進力を失くしたハルモネイアが自由落下を開始する。
「い、いやああああぁぁぁぁぁっ、LR320091。飛んでぇぇぇ――――っ!」
落下の途中、悲鳴を上げるよりすることがあるとギリギリで気付けたクルナは咄嗟に叫んでいた。
力を込めたその命令に、ハルモネイアはバーニア無しで飛び上がる。
初めからこうすればよかった。とクルナは吹き出た冷や汗を拭うのだった。