タイプδ戦3
「功を焦ったな阿呆め!」
なぜかは分からなかったが、タイプδだけでなく、周囲のロボも明らかにヘスティを狙い始めた。
おそらく焦れたコックル・ホッパーがヘスティだけでもここで始末して何らかの方法で元の世界へ戻ろうとしているのだと結論付け、ならばその隙を付いて一気に片付けてしまおうと首領はロクロムィスで全力パンチを連打する。
すでに顔面を破壊されたタイプδは、起き上がろうともがくが、マウントポジションを取られた今の状態では満足な迎撃も行えない。
攻撃を与えても、岩で出来たロクロムィスを破壊するに至らず、万一破壊してもすぐに修復されてしまう。
タイプδは即座にヘスティ抹殺の障害としてロクロムィス討伐を試みるが、一度命令の優先度を下げたせいで失ったアドヴァンテージは大きかった。
頭部が破壊され、サーモグラフィすら使えない状況に陥り、さらには口からのエネルギー砲も潰され、アイレーザーも破壊された。
もともと巨体に物をいわせて相手を押し潰すタイプだったタイプδにはこれ以上の攻撃は拳しかなく、マウントポジションにいるロクロムィスにはこれは殆ど効果が無い。
タイプδは考える。
脱出も不可能、撃破も不可能。
ならば行うべき行動は……もろともに破壊してしまうのみ。
決断すれば早かった。
タイプδの体面が赤銅色へと変化し始める。
異変に気付いた首領はクルナへ即座に指示を出した。
「クルナ、ロクロムィス口内前面でタイプδの自爆を阻止しろ!」
「……はい。自爆装置排除」
タイプδにしか見えない位置に顔を出したクルナの言葉で、タイプδは不思議な現象に戸惑っていた。
自身は自爆で敵を葬り去ろうとしているのに、身体は自爆への動作を止めてしまったのだ。
自爆するための装置が体内から消えている。
慌ててもう一度行うが、今度はうんともすんとも言わない。
仕方なく牽制行動を繰り返す。
こちらは問題無く動いた。
ならばもう一度、しかし自爆だけが行えない。
エラー表示もでないのでどこかの機器が損傷している訳でもない。
なのに、自爆出来ない。
まるで、初めからその装置が組み込まれていないかのようだった。
タイプδは生まれて初めて自身の行動パターンが行えなくなった。
疑問が疑問を呼びバースト状態に陥ってしまったのだ。
動かなくなったタイプδを、首領は遠慮することなく破壊して行く。
長い、長い長考からタイプδが戻ってきた時には、既にほぼスクラップと化した自身があり、身動きすら取れない状態になっていた。
もはやトドメを刺されるのも時間の問題。
タイプδは何千通りものデータを算出するが、どうあっても逃げ切れない。
それでも生き残る道を必死に探すタイプδに、巨大な岩の拳が高らかと振り上げられた。
「これでトドメだ木偶人形。死ねッ!」
タイプδはそれを無防備に見つめる。
壊れたモノアイレンズには、無数に割れたアイレンズから送られてくるぶれた拳の情報、タイプδの顔面を完全に陥没させた。
「ふん。顔を潰しただけではまだ動くか。完全に壊さねば安心出来んな」
首領はクルナを引っ込めロクロムィスを操りながらタイプδをスクラップへと変えていく。
両腕を破壊し、胴体部分のみにした時だった。
突然、背後にいたヘスティ達が苦しみだした。
「!? なんだ?」
血を吐きだしたヘスティにただ事ではないと、既に動くことすらできなくなったスクラップボディを放置して地中移動で王利たちの元へと急行する。
「W・B何が……」
「風に何か混じっている。おそらく毒だ」
エスカンダリオがロクロムィスに寄ってきた。それで首領はこの原因を知る。
「奴め、ついに手段を選ばなくなったか。仕方ない。クルナ、この者たちから毒素を抜け。決して死なすなよ」
「はい」
「エスカンダリオ、周囲の空気から毒素へ退けろ、治しても漂われては元の黙阿弥だ。W・Bにまで効くのか。厄介だな」
もともと風のエスカンダリオや死体を操る首領、機械であるハルモネイアやほたるんには効かないようだが、それ以外には例え怪人状態であろうとも有効な毒らしい。
毒持ちのバグパピヨンすら地面に落下して悶え苦しんでいる。
それが、空中散布されていた。
エスカンダリオが周辺から毒素のある空気を風で押し流す。
すると、ロクロムィスから一人の少女が歩み出た。
バグレンジャーは苦しみながらもそれを見て目を見開く。
今まで、見たことの無い人物がそこにいた。
腰元まである長い髪。愁いを帯びたやつれた顔。泣きはらした瞳は赤く、裸足の少女が現れた。
その少女は毒に苦しむ者たち全てを視界に収め、告げる。
「身体を蝕む毒たち! 無毒となって体外に排出されて」
たった一言、少女が高らかに告げただけだった。
それだけで、バグレンジャーを、王利を、ヘスティたちを苦しめる毒が消え去った。
「エルティア、全員に回復魔法をかけよ。ヘスティとドクターは特に急げ、そろそろヤバい」
言われたエルティアが弾かれたように動き出す。
それを見ながら、クルナはさらに告げた。
「周囲を漂う毒ガス。無毒となって消えて!」
それは第二十世界で見た言霊だった。
バグレンジャーの面々はその奇跡を見せつけられ、しばし呆然とクルナを見つめる。
だが、すぐに、バグカブトは気付いた。
首領が、インセクトワールド社の首領が、あの世界で必要なモノを、既に手に入れていたという事実に。




