タイプδ戦2
タイプδは蠅鮫相手に打撃が効果無いことをようやく察したのか、口元をガパリと開くと、口腔にエネルギーを溜め始めた。
咄嗟にロクロムィスが地面へ潜る。
刹那、ありえない程の光の奔流が蠅鮫の群れを飲み込み、遥か遠くの山へと飛んで行った。
「やってくれる。これ以上こちらのデータを取られるとこいつへの戦いに支障が出るな」
地中に戻った首領はどうしたものかと考える。
今の一撃、下手をすれば正義の味方も全滅しかねない一撃だ。
多用出来るかどうかが問題になるが、一先ず先に潰しておく目標が出来たと言えるだろう。
クルナを使うか、現状維持か。
またもロクロムィスが地面から離されるとあの一撃が来て内部の首領たち諸共撃破されかねない。
向こうも、おそらくそのパターンを狙ってくるだろう。
地中を移動する首領はすぐ横にクルナを呼ぶと、いつでも言霊を発せられるように待機させる。
そして地上へとロクロムィスを浮上させた。
タイプδの真下に出現したロクロムィスは両腕でタイプδの足を掴み思い切り倒す。
足場を奪われたタイプδは無様に転倒するが、その拳によりロクロムィスの頭が削れる。
しかし、今は地面に接しているため、ロクロムィスはすぐに復活してしまう。
やはり打撃は意味がないと気付いたタイプδは左の拳をパカンと折り曲げる。空洞の手首から、にょきりと現れる丸ノコのようなもの。
耳障りな音を響かせ高速回転を始めると、それがロクロムィスの頭へと振り下ろされた。
さらなる音を響かせロクロムィスを両断し始める。
慌てて地面へと逃れるロクロムィス。
逃げ去ったロクロムィスを追うように地面を切りつけるタイプδ。
一文字の切り傷を地面に与え、身体を起こしたタイプδは周囲に視線を走らせる。
ガパリと口元を開き、地面に向けてエネルギー砲を発射した。
地面を穿つ奇怪な音が響き渡る。
身の危険を感じた首領がロクロムィスを地中移動させた刹那、先程まで潜伏していた地面を光の奔流が浸透して行く。
タイプδの砲撃が終わった時には、地面に底の見えない大穴が開いていた。
「正気かアイツ。地中でも攻撃を届かせるのか」
ロクロムィスのアドバンテージが消えたと言っても過言ではなかった。
「仕方あるまい。クルナ。そろそろ出番だ。準備しておけ」
「……はい」
首領は全く焦っていなかった。
下手を打てば殺されることは理解したが、それでもまだ勝率はこちらが高い。
余程のイレギュラーでもない限りは負けることなど想像すらできなかった。
何せ、一言発するだけで自由に動かせる者がいるのだ。奥の手としては最強の手札だろう。
しかし、敵の装甲は驚きに値するほどの力がある。
このまま壊すには惜しい存在でもあった。
バグリベルレではないが、巨大ロボとして入手できないかと思わず考えてしまう。
しかし、これについては彼女は既に予定がある。
バグレンジャーと別れた後でW・Bに第六世界に行く予定なのだ。
あそこは人型兵器での終末戦争を行っている。
つまり機械の一つか二つ手に入ると見ていい場所である。
ならば、こいつを無理に仲間にする必要はない。
完膚無きまでにスクラップにしてしまっても問題はあるまい。
クルナ曰く、相手に声が聞こえなければ命令は出来ないとのことなので、クルナを使う事になれば確実にクルナを囲っていることがバレるのだが、今回ばかりは自分の命が掛かっているので遠慮の必要はない。しかし、やはりバグレンジャーと敵対関係に陥るのは今は避けたい。
軽い板挟みで首領はクルナへの出撃命令を判断しあぐねていた。
「まだ、いいの?」
「なんとか、まだ持たせる」
再び地中へのエネルギー砲。
まるでロクロムィスがいる場所を適確に判断したかの様な一撃をなんとか避けるロクロムィス。
ただ、先程より若干ロクロムィスが避けた場所に近い場所が抉られた。
相手は機械。こちらの行動を先読みし始めているのだ。
このままパターン解析されればいつかは確実に命中させられる。
やはりクルナを投入すべきか?
判断するなら今のうちだ。
下手を打てば殺られるし、反撃が出来るとも思えない。
こうなった以上投入するのが一番のはず。
首領がクルナへ命令を行おうとした時だった。
突然、タイプδの動きが変わった。
なんだ? と思えば、ガパリと開かれた口から覗くエネルギー砲が、なぜか首領ではなくヘスティへと向けられている。
命令が変更されたのだ。
それに気付いた瞬間、再び浮上するロクロムィス。
両手でタイプδの足を掴み、もう一度引き倒す。
発射された光の筋はヘスティの上空をかすめ、空高く一直線に薙いで行く。
地面と垂直に入れられた切れ込みが虚空に消える。
一気に浮上したロクロムィスは地上に全身を出したと同時にタイプδの顔面に岩の拳を打ち込んだ。
ベキャリと口内の砲口が曲がる音がした。