タイプδ戦1
「ふははははっ。ぬるいぬるいぬるいぬるいっ」
タイプδは巨人と言い表せる程に巨大な身体を持っていた。
さらに機械のボディを持っているため頑強さも売りである。
それでも、岩の塊であるロクロムィスが相手では、自慢の拳も岩を砕くだけ。
ロクロムィスの頭蓋を砕こうともそれは岩。
すぐに地面から土を補充して固まってしまう。
対するロクロムィスの攻撃は一撃一撃が岩の拳による攻撃。
その堅い拳に殴られ、さすがのタイプδの装甲もへこみを作らざるを得ない。
一撃二撃ではそこまで支障をきたさないへこみも、数を重ねるほどに動きを阻害し、また装甲を軟くしてしまう。
胸部装甲が音を立てて剥がれ落ちたのは、数十回目という一撃を貰った後だった。
こちらの攻撃は相手に有効打を与えず、相手は大した攻撃力ではないがタイプδを手数で壊しに掛かっている。
このままではタイプδが破壊されるのは時間の問題である。
タイプδは考える。
いかにこの邪魔者を排除すべきか。
まずは相手の特性を調べ上げるべきだ。
結論付けると同時にスキャンを開始する。
ウイークポイントを探るが未知の生物のため良く分からない。
しかし、ロクロムィスを殴った後は、必ずと言っていい程、周囲の土を吸収して補修してしまっている。
ならば、補修させないようにしてしまえば自分の攻撃は有効打になり得るのではないか?
タイプδは振ってきた拳を受け止め、ロクロムィスの腕を拘束。
そのままロクロムィスを真上へと持ち上げようとする。
驚いた首領はロクロムィスを操り抵抗するが、その身体がビキリと音を立て、周囲の大地ごと浮かび始める。
地中に隠れていた後ろ足部分が宙に浮かび、土の浮き輪をした蛙の様相で空中に持ち上げられたロクロムィスはじたばたと暴れ出す。
タイプδは片手を素早く離し、思い切りストレート。
ロクロムィスの顔面を砕く。
ロクロムィスの周りにあった土が吸収されて顔面が盛り上がる。
さらに一撃。
タイプδの拳がロクロムィスの頭蓋を破壊する。
すると、今度は回復することなく、頭部の岩が少し砕けていた。
タイプδは予想通りになった事で、機械的に相手の破壊を繰り返すことにした。
これに焦ったのは首領である。
まさかのロクロムィスの弱点を突かれた形だ。
空中ではロクロムィスにとって一番の能力、自動再生が使えない。
このままでは頭部を完全に破壊されて首領が、そしてクルナたちが衆人環視に晒される。
奥の手を使うかそれとも何かしらの回避策を取るべきか。
まさか無敵とも思えたロクロムィスにこのような弱点があったとは予想外である。
大地から離されるという事自体が今までありえなかったので分からなかったが、ロクロムィスの身体は岩蛙であり、その身体を地中に入れることで地面を移動できる特性と、周囲の地面を吸収して自身の身体を修復する自動回復能力を使えていたのだ。
しかし、その能力が今、使用不可となってしまった。
逃げる事もできなければ、反撃すら出来ない。
タイプδは掴みあげたロクロムィスに、まずは両腕の破壊を行った。
反撃を潰す作戦のようだが、回復能力を失ったロクロムィスには有効過ぎる攻撃だ。
慌てる首領だが、どれほどロクロムィスを動かそうにも捕まった蛙がじたばたしているようにしか見えない。
やがて両腕が完全に破壊された。
攻撃方法を失ったロクロムィスは、完全にサンドバッグと化し、タイプδの鋼鉄の拳で自身の岩を削られていく。
このままではマズい。出し惜しみしている訳にはいかない。
奥の手を出すしかない。
タイプδをなんとかするにはクルナかラナに任せるしか……
と、思った時だった。
黒い塊が、タイプδ向けて近づいてきた。
ブブブブブブと耳障りな羽音を響かせ、鮫の様な身体を持つ蠅の群れが、タイプδへと集りだす。
タイプδの装甲の隙間へと入り込み、内部を破壊し始める。
見れば周囲の機械族はほぼ壊滅しており、遠くの機械族を破壊し始めていた蠅達の内の一部が、今だ戦う機械、タイプδの破壊に乗り出したようだ。
彼ら蠅鮫に事前に与えた命令は二つ。
我が命令を最優先とせよ。
ほたるんとハルモネイアを除く機械族を一機残らず破壊せよ。
これだけだ。
この命令は、蠅鮫状態になる前のベルゼビュート・ハンマーシャークに告げたものだ。
なにせ蠅鮫状態になると彼の意識が無くなるらしいので命令を聞くかどうか疑わしかったのだ。事前に命令する方がいいだろう。
万一命令を聞かなくなっていようとも有利に動いてくれるよう、出来るだけ簡素に出した命令だ。
ガクンとロクロムィスを掴んでいたタイプδの腕が突如として下がる。
地面に戻ったロクロムィスは即座に地面と同化して自動回復を始める。
どうやら腕の動力回路を破壊したようだ。
うっとおしそうに蠅を追い払おうとするタイプδだが、彼の腕力では蠅を叩き潰すに至らない。
というよりは、速度の問題で避けられているようにしか見えない。
運悪く当った蠅鮫たちも、空中のため威力の殆どを殺しているようだ。
まさに形勢逆転。首領は息を吐くと共に、今は亡きベルゼビュート・ハンマーシャークに礼を述べた。