王位継承
コックル・ホッパーは監視施設に戻ってくると同時にゼルピュクネーたちに指示を飛ばしていた。
自分の護衛には三人いれば十分だと、十数体居る彼らを全員指示を出して立ち去らせた。
その中でも多いのはバグレンジャーとインセクトワールド合同軍の殲滅。
「そこのお前、タイプγを起動しろ。もはや遠慮はせん。持てる全ての力で奴らを確実に殲滅させる。行けッ」
残ったゼルピュクネーすらも指示を出して去らしてしまう。
結果、最後には護衛に残ったゼルピュクネーは一人だけになった。
「こうなったら試作段階ではあるがタイプεを起動させるか。最悪機械共に自爆を申しつけて……」
どうすればいいのか必死に考える。
しかし、蠅となったベルゼビュート・ハンマーシャークを殲滅する方法が思い浮かばない。
ゴキブリ同様、遥か昔より存在する蠅という生物は、その適応力の高さが一番のネックである。
なにせ殺虫剤を作ろうとも耐性を持つのはどの生物よりも上なのだから。
まさに腐食の王。彼らは全ての生物が息絶える状況でも耐性を覚え生き残って行く。
だからこそ、ガス攻撃で葬ろうとしても全てを殺しきることは不可能なのである。
ガス攻撃……その言葉に思い至った瞬間、コックル・ホッパーは天啓にも似た考えに一気に頭がクリアになった気がした。
「ふ、ふはは。そうか。そうだ。そうだったっ! 奴らは怪人とはいえ人間だ。ガスを使えばいいじゃないか。毒ガスを使えば奴らは死ぬ、機械達は生き残る。蠅の危険は確かに付きまとうだろうがどうでもいい。それは後々駆逐すれば済む問題だ。よし、お前にも任務だ。M-4を使用しろ。戦場一帯を毒ガスで満たしてしまえ」
「了解しました」
準備のため最後のデルピュクネーも部屋を去って行く。
これで勝利は確実だ。
予言は確かに成ったが、敵わないというだけで、コックル・ホッパーが殺されるという予言は全くと言っていい程にない。
ならば、恐れる必要はない。とにかくここで敵を屠り、後の事は後に考えればいいのだ。
そう結論付けて計画が実行されるのを待つことにしたコックル・ホッパー。
その耳元に、何かが聞こえた。
初め、気のせいだと思った。
しかし、すぐにまた聞こえた。
ブブブブブブブと耳障りな羽音が、耳元で鳴っている。
在り得ない。そう思いながらも確認する気になれない。
確認してしまえば確実に発見してしまうと、気付いてしまっているから。
それでも、確認せずにはいられない。
ゆっくりと振り向く。
絶えず聞こえる耳障りな音の正体。それを見極める。
そして振り向いた先には……無数に蠢く黒い悪夢が待っていた。
「王、タイプγの起動が完了しまし……?」
ゼルピュクネー01はいつものように命令をこなし、王の元へと舞い戻った。
次の指示を仰ごうと思っていた彼は、床に倒れたコックル・ホッパーを見付けて怪訝に顔を歪める。
何をしているのだろうか? と疑問を思いつつ、コックル・ホッパーに近づく。
「王、タイプγの……!?」
ゼルピュクネー01は初めて作られた王の側近であることから、常に王の体調管理を任されていた。
その為いつものように体調を調べる。
そして気付いた。
既に、コックル・ホッパーの鼓動が停止しているという事実。
ゼルピュクネー01は慌ててコックル・ホッパーに駆け寄り抱き上げる。
すると、コックル・ホッパーの身体から無数の蠅が飛びかかってきた。
認識したゼルピュクネー01はコックル・ホッパーに前もって与えられていた命令を忠実に行う。
すなわち、蠅の殲滅である。
火炎放射器に変化させた腕を使い、躊躇い無く周囲に散布する。
焼かれた蠅達が地面に落ちていく。
さすがに室内のためか逃げ場が無い蠅たちは、成す術なく焼死して行った。
「蠅、反応消失、安全を確認。マスターの死亡の確認を行います。脈拍……無し。鼓動……なし。体温低下中。状況ブラック。蘇生不可と判断します」
ゼルピュクネー01は緊急回線で全ての機械に通達した。
エクファリトスの王、死亡。
その決断と共に、さらに告げる。
「エクファリトスの王、死亡確認、マスター権限者の全死亡が確認されました。よって臨時ではありますが、マスターの遺言に従い指示を行います。異論はありますか?」
確認して来たが、もともと意思を知らない機械達はゼルピュクネー01に一任すると伝えて来た。
ゼルピュクネー01は同時に全ての機械に対するマスター権限を一時的に得る。
「全軍に通達。私は臨時でマスター権限を獲得、同時にマスターの思惑を私が解析して伝えます。全機械族は全力を持って蠅を駆逐せよ。蠅のデータを転送します。最優先事項に決定。第二優先事項、ヘスティ・ビルギリッテの抹殺。これはタイプαβγδεが行ってください。また邪魔になる敵はゼルピュクネーで相手をお願いします。M-4の用意は整い次第散布を開始してください」
新たな王となったゼルピュクネー01は即座に指示を飛ばして行く。
主を失った機械たちが、ついに暴走を始めようとしていた。




