タイプβ戦1
マンティス・サンダーバードは焦っていた。
ベルゼビュート・ハンマーシャークの様子がおかしいからだ。
折角治療を終えて出て来たというのに、何故かその身体を削って蠅化し始めているのだから。
あの秘義はベルゼビュート・ハンマーシャーク専用と言っても良い能力だが、実際は破れかぶれの最終奥義である。
アレを使うともう二度と蠅化した部分は戻ってこない。
そんな能力を、全身が蠅化するまで使おうとしているのである。
それはどう見ても、自殺でしかなかった。
止めに入りたい。
そう思うが彼女は動けない。
なぜなら対峙する敵がいるからだ。
下手に動けば敵が喜んで突撃して来る。
タイプβ。女性としか思えない容姿をした機械。
それはもう、ロボではなくアンドロイドと言うべきなのだろうか?
手はハルモネイアたちのようにソード化しており、あるいは銃器に変化してマンティス・サンダーバードを狙ってくる。
早く倒したいが早く倒すには敵が速く強い。
かといって冷静に対処していてはベルゼビュート・ハンマーシャークが完全に死んでしまう。
焦れば焦るほどに敵に有利になっていく。
だからついつい焦ってしまう。
まさに負のスパイラルだ。
もう、敵が強化されるのを覚悟して雷撃を叩き込んでやろうかとすら思い始めるが、量産型ハルモネイア相手に上手く行ったとしてもこのタイプβにまで熱暴走が効くかどうかは不明である。
下手をすれば相手を強化させるだけ強化させて敗北という結果すら存在しかねない。
「選手交代ですね。後は私にお任せください」
と、焦るマンティス・サンダーバードに近づいてきたのはほたるんと呼ばれる機械だった。
こいつの存在は良く分からない。
バグレンジャーでもなければインセクトワールドの怪人などでもないようで、いつの間にか奴らと行動を共にしていた人物だ。
ツチボタルの能力を使うらしいので、確かに人体相手にならかなり有利に戦えるだろう。
しかし相手は人間の皮を被った機械兵器だ。
なによりこいつ一人に任せて下がるなどプライドが許せない。
「ふざけるな。他人に尻拭いさせる気はない」
「ですが、首領さんからこちらを手伝えと言われましたので」
そうですね。では手伝います。と勝手に結論付けて隣に並んできた。
「私が奴の動きを止めます。トドメをお願いします」
「やれるものならやってくれ。ちょこまか動かれると邪魔だしな」
マンティス・サンダーバードは両手の鎌を振り上げゆっくりと歩きだす。
警戒したタイプβに、マンティス・サンダーバードを追い抜きほたるんが肉薄する。
慌てて下がるタイプβがバックステップと共にレーザーソードを振り上げる。
ほたるんはそれを読んでいたかのようにひらりとかわし、自身の髪を一本引きちぎりタイプβ向けて投げる。
玉串が連なった様なそれはわずかに発光しながらタイプβに襲い掛かる。
気付いたタイプβは腕を振り上げガードする。
すると、髪はタイプβの腕へと纏わり付き、まさに縄のようにぐるぐると腕に巻き付いた。
「っ!?」
ほたるんの行動理由に気付いたタイプβだが後の祭りだ。
腕を捕えられたせいで行動が制限されたようだ。
髪に捕えられた腕をなんとか引っ張ろうとするが、ほたるんも負けじと引っぱり一種の均衡が生まれた。
丁度いい具合にタイプβの意識もほたるんへと向い、マンティス・サンダーバードにとっては好機としか言いようのない状況が創りだされる。
当然、迷う事などなかった。
マンティス・サンダーバードは動きの止まったタイプβに飛び込むようにダッシュして鎌を振り降ろす。
が、ぎりぎりで気付いたタイプβは右腕を変化させ盾を作りだすと、マンティス・サンダーバードの鎌撃を受け流す。
さらに追撃の鎌。これも気力で跳ね返すタイプβ。
ぐっと身をかがめて飛びあがり、驚くほたるんの上を弧を描いて反対側へと着地する。
シールドから銃口へと換装し、ほたるん向けて嵐の様なマシンガン掃射。
さすがにマズいと気付いたほたるんは弾が当る瞬間髪を手放し飛び退いた。
「むぅ、こう簡単にはいきませんか」
「近づけば攻撃方法はあるが、さすがに迂闊に近づかせてはくれそうにないか」
「やはり一筋縄ではいきませんね。作戦を練らねばなりませんか」
「お前と協力しろと? 冗談だろう?」
正直な話、これ以上インセクトワールド社と馴れ合う気にはなれなかった。
なにより首領が胡散臭い。
ベルゼビュート・ハンマーシャークを治すとかいいながらもまるで彼を死地に送ったようにすら見える。
そんな相手にこれ以上協力する気にはなれない。
このままだとヤツに自分まで利用され殺されるのではないかといった不安が沸き起こる。
だが、現状ほたるんと協力しないことにはタイプβの撃破は叶わない気もしないでもない。
「仕方ない。さっさとヤツを仕留めるぞ。策があるならさっさと言え」
溜息を吐き、マンティス・サンダーバードはほたるんと共闘する事を決めた。