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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
首領 → ラナ
152/314

サルトレアの魔王

「なん……だ?」


 始め、宙に飛び上がったベルゼビュート・ハンマーシャークが何をしているのか分からなかった。

 だが、次第にその音が聞こえるにつれ、コックル・ホッパーは顔を青くする。

 ベルゼビュート・ハンマーシャークにのみ許された特殊な能力。

 蠅化だ。


 ブブブブと耳触りな音と共に、ベルゼビュート・ハンマーシャークの周りを無数の蠅が飛びまわる。

 蠅と言ってもただの蠅ではない。ハンマーシャークのアギトと尻尾を持つ凶悪な蠅だ。

 そしてそれは、彼の身体の一部でもある。


 つまり、この能力を使うという事は自身を削り取ると言っても過言ではない。

 一匹一匹はそれ程負担ではないが、彼の足が消えるように消失している。

 それでもまだまだ蠅達が増えていく。


 そして、そんな蠅の一部が機械へと突撃して行った。

 小さな襲撃者に抗える機械はおらず、皆無防備に装甲を貫かれ、その稼働を止めて行く。

 まさかの形勢逆転である。

 しかし、それはすなわち、ベルゼビュート・ハンマーシャークの身体の消失を意味している。


 まさか、自分がもう死ぬと知って自棄を起こしたか?

 王利たちも彼の行動を計りかねて止めに入れないでいる。

 そうこうするうちに王利を相手していたタイプδにロクロムィスが突っ込む。


「選手交代だW・B。タイプαとやらにハルモネイア、タイプβにはほたるんがフォローに入れ。雑魚共はベルゼビュート・ハンマーシャークとエスカンダリオが蹴散らす。後の者は討ち洩らしを破壊せよ。行くぞ!」


 出現早々、指示を飛ばした首領は巨大ロボと両手を掴みあう。

 土蛙と巨大機械が拮抗し、危険の一つが小康状態に陥った。

 王利はすぐさまエルティアの元へと戻る。


「エルティア、ベルゼビュート・ハンマーシャークの回復は出来るか?」


「今はさすがにちょっと。でも、敵の首魁を討ち取ればすぐにでも行います」


 敵が多過ぎて魔法を唱えている余裕がないそうだ。

 まぁ、アレだけ動けるのだからまだ大丈夫なのだろう。と勝手に結論付け、王利はドクター花菱とヘスティの護衛に回った。


 無数の機械に対応しているエスカンダリオが矢を放ち、その合間を縫って突撃する蠅の群れが幾重にも連なった機械達を穿って行く。

 ベルゼビュート・ハンマーシャークの身体は徐々に消え去り、その分蠅が戦場を飛び回る。

 その姿は、まさに蠅の王、ベルゼブブ。


 そしてベルゼブブは死体に群がる蠅たちから、想像上、死者たちの王と呼ばれることもある。

 死者たちの……王。

 その言葉に思い至ったコックル・ホッパーは、全身に油が吹き出るのを感じた。


 死者たちの王。その意味を持つもう一つの言葉を、最近調べなかっただろうか? と。

 そう、彼は知っていた。知ってしまっていた。

 この世界で、ベルゼビュート・ハンマーシャークが何と呼ばれる存在かを。

 その名は……


「サルトレアの……魔王」


 まさか、まさか奴が、奴が俺を倒す者だというのか!?

 コックル・ホッパーは思わず戦慄する。

 現に、蠅達の王はその従者たる己の一部を巧みに動かし多くの機械をモノ言わぬガラクタへと変えていた。


 その破壊速度は他のどの敵よりも格段に速い。

 なにせ数千数万という大軍に小さな蠅が、鮫のアギトを持ち高威力の突進で突っ込んで来るのだ。

 小さ過ぎて索敵出来ず、かといってむやみに攻撃しても蠅の速さで即座に避けられる。


 結果機械兵たちはまたたく間にその姿を消して行っていた。

 さらに、戦闘の中心部で動かなくなる機械が大量に出たため、そこが安全地帯となってしまっており、機械兵たちが辿りつけなくなってしまっている。

 なおも拡散する蠅たちにより安全地帯は広がって行く。

 王利たちに余裕が出来る程になるまで、いくらも時間はかからなかった。


 だが、それと引き換えに、ベルゼビュート・ハンマーシャークの身体が完全に消失する。

 全てが蠅へと変化した彼は、黒き悪夢となってさらに遠く離れた機械を蹂躙し始めた。

 滅びの時代が来る。間違いない。アレがサルトレアの魔王。

 自身を全て蠅に変えた以上、彼がこの世に復活する事はもうない。


 ふつうは自我を保つために上半身は残すべきところを、何を血迷ったかベルゼビュート・ハンマーシャークはその身体全てを蠅と化し、完全に蠅鮫の群れとなってしまった。

 あれではもう。エルティアの魔法を持ってしても復活など出来ようもない。


 コックル・ホッパーは戦慄する。

 確かに、アレには敵わない。

 何せ、一匹潰して終わりではないのだ。

 それこそ世界中の蠅全てを殲滅しなければ、サルトレアの魔王が死滅したとは言えない。


 怯えなければならない。

 この世全ての蠅を駆逐するまで彼はベルゼビュート・ハンマーシャークからの不意打ちに怯えなければならないのだ。

 折角手に入れた世界に、暗殺の危険が大量に放たれたことになる。


 さすがにマズい。蠅のいない場所に逃げるべきだ。

 そう思い踵を返そうとして。

 不意に耳元で、羽音が鳴った――――

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