世界を賭けた戦い2
「ええい。このままじゃマズいか。全員少しの間穴を埋めよ。ロクロムィス内にベルゼビュート・ハンマーシャークを匿う。応急処置だがすぐに終える。しばし待て!」
巨人に見とれそうになった王利たちに、首領は口早に囃したてると誰かが反応する前に彼をロクロムィスへと飲み込んだ首領が地中へと消え去った。
首領の声に他の面々が気付いた時には既にロクロムィスの頭部が地面へと沈み込む時だった。
「首領さん、私が魔法を使えばすぐに……って、もういない」
「ええい。そんなことはどうでもいいのです。アレ見てください。δなんてだっさい名前ですけど、どう見てもあれは巨大ロボ。しかも自立稼働式!」
メタリックボディのタイプδは10メートルはある巨体を現し、雄たけびを上げる。
獣とはまた違った機械じみたその声に、王利たちは戦慄を覚えていた。
あんな物に勝てるのか?
その姿は、かつての魔王の偽物を彷彿とさせた。
あれは生物だったから、体内で爆殺という方法で片付けられた。
でも、今回爆薬も無ければ堅い表皮を貫けるとも思えない。
「ちっ。随分とデカい物を拵らえたものだな。アレと戦うのは骨だぞ」
「それだけじゃなくあのαとβという奴らも一癖あるぞ。バグカブト、いけそうか?」
「ロクロムィスだったか、アレを巨人とぶつけるのが良いとは思う。蜘蛛型のα相手なら俺でもなんとかなる。βは難しいな、機動力は俺より上だ」
「機動力ならバグリベルレかバグパピヨン。ほたるんやハルモネイア辺りがいいんじゃないのか?」
王利の言葉に確かに。とバグカブトは頷く。
しかし、敵はその三体だけではない。
量産型ハルモネイアにクレセントガーディアン。
その他無数の機械兵団相手にこちらの人数は10人程度。
これ以上人数を裂けば自然とこちらが押されかねない。
ただでさえ首領とベルゼビュート・ハンマーシャークが抜けている。
これから三人以上裂くのは危険だ。
せめてその二人が戻ってくれればいいのだが、首領はともかくベルゼビュート・ハンマーシャークは復帰が難しいだろう。
「おい、この中では一番堅いのはお前だろうW・B。タイプδはお前に任せる」
「えぅ!?」
王利はバグカブトの死刑宣告に思わず呻く。
「タイプαは俺が何とかしよう。βは……」
「私がやろう。仇打ちだやらせて貰うぞ」
口を出してきたのはマンティス・サンダーバード。
これを聞いたバグカブトは、一瞬困った様子だったが、一任することに決めたようだ。
タイプα達への対応は決まった。
あとはロクロムィスが戦線に復帰するまで王利が耐えきる以外は、皆持ち場を持たせること、そしてあわよくばコックル・ホッパーを潰す事。
「っつかボクが忘れられてるんですけど!?」
ロクロムィスが地面に潜る際に置き去りにされたドクター花菱が叫んでいるが、皆それに対応する様な暇がない。
普段前線に立たないエルティアすらも魔法と弓を駆使して戦っている。
弓は組み立て式のエルフ製の弓らしく、緑色をしている。
色が緑なのは森の中で生活する事が多いためだそうだ。敵に見えにくくするためらしい。
矢の柄も同じく緑色なのもそのせいだ。
一方、地中へと潜ったロクロムィスの中で、首領はベルゼビュート・ハンマーシャークを介抱していた。
いや、それは介抱というものではない。
むしろ、彼が早く死ぬように、逆に死に易い、血が出やすい体勢へと動かしているのだ。
傷ついたベルゼビュート・ハンマーシャークは途絶えそうになる意識をなんとか繋ぎとめ、首領を睨む。
首領は菅田亜子の姿で彼を揺さぶりながらニタニタと笑っていた。
何を狙っているかは明白だ。彼を直すつもりであればエルティアに任せればいいのだ。
回復魔法一つで彼の致命傷は治るはずなのだから。
「やはり、貴様は敵か……俺を殺してどうするつもりだ?」
「ククク……いや、実はちょっと試してみたいことがあってな。まぁ、無理なら無理で良いのだ。お前は介抱はしたがあえなく死んでしまった。という事にしてしまえばいい。このままお前に危害を加えなければ問題は無いしな。私は何もせんよ。お前は勝手に死ぬだけだ。ただし、クルナ。任せるぞ」
首領の言葉に、ロクロムィスの奥から見知らぬ少女が現れた。
ベルゼビュート・ハンマーシャークはその少女を見て疑問を浮かべる。
なぜここに少女が? と思った瞬間だった。
「ベルゼビュート・ハンマーシャークさんに付いてる自壊装置? 出て来て」
少女が口を開いた瞬間だった。ベルゼビュート・ハンマーシャークの体内から何かがごっそりと抜け落ちる。
想像外の変化に一瞬目を疑った。
自分の身体から、不思議な機器が出現し、ロクロムィス内へと落下する。
「これは……まさか……貴様、手に入れていたのか!? あの世界の住人を!?」
「クク……クハハハハッ! その通りさベルゼビュート・ハンマーシャーク。彼女はクルナ。我が新生インセクトワールドの幹部になる女だ」
「ぐっ……貴様にこの力を持たせたままでいる訳には……外に、外の皆に知らせねば……」
「無駄だ。貴様が逃げる事を想定し、既にロクロムィスは地中に沈んでいる。脱出は不可能だ。さっさと死ね。そして、我が下僕として生き返るがいいベルゼビュート・ハンマーシャーク!」
ベルゼビュート・ハンマーシャークは悔しがる。
しかし、彼の傷は致命傷で、すでに死が目前に迫っていた。
首領の高笑いだけが、ロクロムィス内に響き渡るのだった。