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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
魔王軍 → 襲来
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魔王四天王、氷獣フィルメリオン・後編

 光が生まれる。

 王利を中心に生まれた光が、彼自身を包み隠す。

 それも一瞬。青白の吐息によって姿の見えなくなった王利に、エルティアが悲鳴を上げる。


 だが、青い霧を駆け抜ける一つの影。

 ブレスの中を凍ることなく動くソレに、フィルメリオンは怪訝な顔をする。

 晴れだした霧の中からは、凍った魔物の死骸と、フィルメリオンに肉薄する程近づいていた、異形の生物がいた。


 鉤状の爪を持つ腕。

 分厚い装甲。

 獰猛な熊を思わせる流線型のフォルム。

 背中からはうねる六つの尻尾のような線が生えていた。


「何ッ!?」


 凍結するはずの吐息から飛び出した王利に、フィルメリオンは驚きの声を上げる。

 王利は自らのフォルムを見て、次に右手を見る。

 四本の鉤爪の生えたその腕は光に包まれ、光はまさに剣のように、いやそれよりもずっと長く伸びていた。


 フィルメリオンは再び息を吸い込む。

 王利はフィルメリオン自身の身体を駆けあがり、フィルメリオンの真上へと舞い上がる。

 右手の剣を真っ直ぐに伸ばし、フィルメリオン目掛け落下する。


 フィルメリオンがアイスブレスを吐き付ける。

 直撃した王利に、フィルメリオンはほくそ笑む。

 しかし。


 真上から降ってきたのは、凍りついた物体ではなかった。

 五体満足の王利がフィルメリオンの額に降り下りる。

 フィルメリオンの眼に、ソレはどう映ったか。


「オオ、オオオオオオオオオォォォォォ――――ッ!?」


 自らに向かい近づく光の刃が、己が額に吸い込まれる。

 その光景に、知らず咆哮する。


 フィルメリオンの額に突き刺す刃を引き抜く王利は、フィルメリオンの顔を蹴りあげ背中に着地。

 さらに首元目掛けて右腕を突き刺した。

 声にならない悲鳴が轟く。


 やがて、青い巨体がどぅと倒れた。

 衝撃でフィルメリオンの首が砕けた。

 しばらく待ってみるが、立ち上がる気配がなかったので、王利はフィルメリオンから降り立ち、エルティアたちの元へと歩く。


 目視で確認したエルティアたちが思わず駆け寄ってくる。

 さすがにフィルメリオンのすぐそばは未だに凍っているようなので、王利の方が氷結範囲から出ての合流になった。


「さすが勇者様です。四天王の一人を倒すなんてッ」


「いやいや、この剣が予想以上に鋭利だったからだよ」


 本当に、たった二撃で倒せるとは思っていなかった王利としては魔法剣の力に驚いてばかりだった。

 それに、自分の身体のスペックにも驚きが行く。

 どうやら、王利を改造した科学者は、予想以上の天才であり、またバカだったらしい。

 実際に元になった生物の特性をかなり勘違いしていたようだ。


 王利としてもそれが命拾いになったので文句を言う気はないのだが、元の生物をそのまま模していれば、確実にアイスブレスで死んでいただろう。

 元の生物が幾ら最強と謳われていても、それはメディアに踊らされているに過ぎないのだ。実際にはたった少しの圧力で潰れる生物でしかないはずなのだから。


 異様な容姿の王利に少し怖々としながらも、エルティアたちが王利の周りに集まる。


「エルティア様、魔王軍の生き残りが居ないか調査してまいります」


「ええ。黒き御使いの使った毒に気を付けて。そこの兵士はお父様に報告を」


 兵士長に答えて、エルティアは案内をしてくれた兵士に再び城へ向かうよう指示を出した。

 少し嫌そうにしていたが、兵士はすぐさま城に向かい走り去って行った。

 今日だけで一往復半の全力疾走だ。彼に同情してしまう王利だった。


「あの息を喰らったように見えましたが、よくご無事で」


「ああ、まぁ、あの程度なら普通に動けるみたいだ。もう少し低い温度だったら仮死状態になってただろうけど」


「そ、そうなんですか……」


 すごいですね。と羨望の眼差しで王利の身体に近づくエルティア。流線形の外骨格に触れてくる。どうやらこの形態に興味を覚えたようだ。

 触り心地が気に入ったのかべたべたと触りだす。


「エルティア様ッ」


 兵士の悲鳴にも似た声が聞こえたのは、そんな時だった。


 王利とエルティアが何かと見ると、丁度フィルメリオンの頭が息を吸い込んでいるところだった。

 王利に向かい、最後の一撃と、凍れる息を吐きだす。


 咄嗟にエルティアを庇う王利だが、彼自身が無事であっても、エルティアがアイスブレスに耐えきれるはずがない。

 絶体絶命? そんな言葉が脳裏をかすめる。


 助けるにはどうすればいい?

 窮地を逃れるには?

 今ここからエルティアを逃がすには……

 自問自答しながら、王利の左手が知らず右手のブレスレットに伸びていた。

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