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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
首領 → ラナ
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契約は成される

 ロクロムィスの体内は、とても暗かった。

 光が届かないのだから当然ではあるのだが、洞窟の中へと連れてこられた気分だ。

 内部は広さこそあるが、何やら物騒な物が沢山あって圧迫感を持っている。


 ラナを横たえたクルナはこれからここで暮らす事になるのかと、自分の不幸を呪っていた。

 しかし、ずっとそうやっている訳にもいかない。

 なぜなら、首領により命令されているからだ。

 ラナの身体の維持を。


「光よ灯って」


 クルナは言霊を使う。

 すると彼女のすぐそばに発光する光の球が出現した。

 この世界では魔力も存在するため魔法も言葉一つで行えるのだが、彼女らこの世界の住民にとっては当たり前のことなので、光が集まることに何の疑問もなかった。


「聞いた話だと、この中の食糧は自由に食べていいって言ってたけど……あ、これ?」


 クルナは見た事もない果実を見付ける。


「あなたは食べられる? 食べられるなら縦回転。 有毒なら横回転。 食べられないなら無回転」


 すると果実は縦に回転を始める。

 どうやら食べても大丈夫な物らしい。

 お尻に似た果実に自分から皮をむいて貰い、一口大に分かれて貰うと、食べられない種の部分にはロクロムィスから出て適当な場所に埋まって貰った。


 ラナの口内に果実を入れると、ラナは勝手に咀嚼を始める。

 彼女も首領に命令されているのだ。

 生命維持をせよと。

 なので、どれほど嫌がろうとも口に入れられた食事はしっかりと吐き出すことなく食べていた。


 それを見た事で、クルナの瞳から涙が溢れる。

 首領が出て行っても、ラナが動いている。

 それはつまり、ラナが完全に死んだ訳じゃないと言うことの証明だった。


「大丈夫だよ。ラナちゃん……あんな人、きっと許されはしないから。だから……待とう。必ず私たちを救ってくれる人が現れるから。だから……諦めないで」


 それは果たして、ラナに向けた言葉だったのだろうか?

 自分に言い聞かせるように呟きラナを抱きしめるクルナ。

 首領は許せない。許せるはずがない。


 でも、行動を封じられた自分ではもはや反逆すら出来ない。

 だから、彼女には頼るしかなかった。

 どこかのお人よしの正義の味方が、彼女たちの身の上を知ることを、首領を打倒し助けに来てくれるその時を。

 ただ、それだけを信じるしか、生きる希望などなかった。


『力が欲しいかァ』


 不意に、何かが聞こえた。

 クルナは弾かれたように起き上がりロクロムィスの入り口を見る。

 大丈夫、首領がやってきた訳ではないらしい。


「誰……?」


『ここだ。ここ。こぉこぉだァ』


 聞こえる声にクルナは周囲を探る。

 すると、本が無造作に積まれた一角から、件の声が聞こえて来ているのに気付いた。

 恐る恐る歩み寄る。


『下から三つめだァ。手に取りなァ』


 声を発する書物を言われるままに手に取る。

 書物自体見たことのないクルナはそれがなんなのかすら分からない。

 それは、鱗で出来た表紙を持つ魔導書だった。

 クルナは得体のしれない本に戦慄を覚えた。


 手に取ったはいいものの、全身が恐れを抱いている。

 未知の何かを手にしている様な恐ろしくも期待を抱いてしまう不思議な感覚。

 心臓が早鐘を打っているのがわかった。 


『迷宮の奥に封印されてよォ。折角持ち出されてシャバの空気吸えたってのになァ。こんな場所に他の本と埃塗れよ。哀れな本だと思わねぇかい? 嬢ちゃんよ、本ってぇのァ読まれてこそその存在が認められるってもんだ。なァ?』


「あなたは……誰?」


『裏に書いてあんだろォ? そいつがこの魔導書の名だぜェ』


 クルナはその本の裏を見る。

 そこには何かが書かれてあった。

 しかし、クルナの読める文字ではなかった。


「本。でいいのよね? 本、私に意味が理解できるようにして」


 言霊を使うがその文字は全く分かる文字に変わらない。

 どうやら本は別の真名を持っているらしい。

 真名が分からなければ生命を持つ者はクルナの言霊に反応してくれない。


『なんだよ。読めねぇの? 仕方ねぇな。じゃあよ、先に聞かせてくれや』


「何?」


『この魔導書にゃ多数の禁術が載ってる。それを読めるかどうかはこれからの嬢ちゃん次第だが、持ち主になれば他のヤツには読めなくなる。嬢ちゃん専用っつーやつだ。契約、しないか?』


「あなたと契約? して、どうなるというの? この現状をなんとかできる?」


『できるさ。何せこの魔導書はあいつらの言葉で言やぁ第十八世界に設置された第二十三世界……神々の遺物だからなァ』


 良くは分からなかった。

 でも、何とか出来るという、その言葉だけで良かった。

 溺れる者は藁をも掴む。クルナは迷わず本に伝えた。


「いいわ。契約する。そして本の内容を全て覚えて私は私の楔を引きちぎる」


『ククッ。いいぜェ。それでこそ復讐者だ。んじゃあ契約だァ。嬢ちゃんの血を表紙に垂らしなァ。後は言う通りの呪文を唱えるだけだァ。簡単だろォ?』


 ――ダメだよクルナちゃん。その言葉を信じたらダメ――


 クルナが近くにあった短剣で指を切り付け血を滲ませる。

 それを見たラナは叫ぶ。

 禍々しき魔導書に手を出すべきではないと、必死に告げる。


 しかし、彼女の言葉は言葉にならない。

 ただ、思考の中で叫ぶしかできない。

 友人が得体のしれない何かを受け入れるのを間近で見るしかできないのだ。

 やがて、クルナは契約を終えた。正体不明の魔導書の諫言に乗せられて、契約してしまった。


『そんじゃ、この魔導書ゲルムリッドノートはァ、今日より死ぬまでお前の物だァ。よろしくなァ主様あるじさまよォ』


「ええ。ゲルムリッドノートね。じゃあさっそく、ゲルムリッドノート、私に内容が理解できるようにして」


 暗い笑みを浮かべ復讐者は静かに動きだした。

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