表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
首領 → ラナ
140/314

首領の新たな身体

 解き放たれた首領が「悪」過ぎる。

 ちょっとやり過ぎましたかね?

 さらに数話、暴走します。

 初め、押し潰されて死んだと思った。

 しかし、彼女の自我はまだ存在していた。

 ならばやるべきことは一つだけだ。


 首領は自身の小さな身体を蠢かせ、ひたすらに前進し続ける。

 運のいい事に石と石の間に難を逃れていた首領は無傷で生きていた。

 身体がもう少し大きければ確実に潰れていただろう。

 今だけは小さ過ぎる自分の身体に感謝していた。


 そして、全く気付く気配の無い哀れな獲物へと近寄っていく。

 身体が小さいせいで動きが遅い。

 遅々として進まない身体に焦燥感を募らせながら、ひたすらに生に執着する。

 気が付けば、足の裏が目の前にやって来ていた。


 身重の女は気付いていない。

 だが、このまま身体に上がればどこかで気付かれるだろう。

 口か鼻に入るには位置が遠い。せめて眠っていればと悔しく思うが、賽は投げられている。


 こうなれば下の口に向って出て来る赤子に寄生してしまうか。

 そう思って動きだした瞬間だった。

 急に、周囲が暗くなる。


 何かと頭上を見上げれば、巨大な口が迫って来ていた。

 マズい。と思って逃げ出すが、身体が小さ過ぎて逃げ切れない。

 結果、首領は何らかの生物に喰われた。


「あら、ポチ? 何か食べた?」


 身重の女がポチ、ドーベルマンに似た犬の様な生物に視線を向ける。

 しかし、ポチは答えることなく家を出て行ってしまった。

 身重の女は首をかしげつつも、自身に課せられた使命の為。その場でゆっくりと横になる。


 これから半年、彼女は殆ど動くことなく子育てを行うのである。

 そんなことなどどうでもいいと、ポチは石造りの家から外へと脱出する。

 その瞳は、芋虫のように膨れ始めていた。


 ポチはしばらく村を歩く。

 村の人々はポチの姿を見て声を掛けて来るが、ポチの目を見て、あれ? ポチじゃない? と首を捻りながら遠巻きに眺める。

 しかし、その犬モドキはいつも通りの散歩を行っていて、目がおかしい以外はポチと変わらなかった。


 やがて、ただの病気か何かだろうと結論づけた子供たちがいつものように一緒に遊ぼうと近づいていく。

 ポチも元気よくワンと答えて一緒に駆け出すのを見て、周囲の大人達もああ、いつものポチだ。と安心して自分たちの作業に戻っていった。


 だから。誰も気付かない。

 既にポチは存在していないことに。

 そのゾンビを操る生物だけが、ほくそ笑みながら子供たちと戯れ、自らの肉体に相応しい幼女を吟味する。


 彼女を止める者はいない。

 誰もいない。

 そして彼女は迷わない。

 だから……


「ポチ、今日はね、ほら、お花で冠作ったよ。あげるね」


 花が咲くような笑みを浮かべた可愛らしい少女がポチに花の冠をかぶせる。

 周囲にいた子供たちは少し離れた場所で追いかけっこを始めている。

 誰も、その少女に視線を向けていなかった。


 そして、ポチが少女の顔を舐める。

 その行為はありがとうを意味しているようで、少女はくすぐったいよ。と笑っていた。

 だが、ポチの舌が突如、彼女の口に突っ込まれる。


 驚く少女。慌ててポチを放す。

 何するのポチっ! と怒った顔をする。けれど……

 その時、既にポチは彼女の言葉を聞いていなかった。

 聞けるはずなどなかった。


 なぜなら、既に死んでいたから。

 両の目玉が萎むように消え去り、舌をだらんと垂らしながら花畑に横倒れしているポチの姿を見て、少女は思わず息を飲む。

 まさか、自分が突き離したことでポチを殺してしまったのだろうか?


 否。それは否。である。

 ポチは、既に死んでいた。

 死体をヤツが操っていただけだ。

 そして今、寄生する怪人は、静かに、確実に、次の獲物を支配しようとしていた。


 少女は自身の中に異物を感じた。

 え? と信じられないといった面持ちで自身を抱く。

 脂汗が吹き出て来る。


 何かがいる。

 それが分かる。

 自分の大切な何かが奪われようとしている。


 思わず助けを呼ぶ。

 呼ぼうとしたが口が開かない。

 代わりに、声が出た。

 自分の意図しない声が出た。


「悪いな娘よ。お前に恨みは無いが、我が身体としてお前を使わせて貰うぞ」


 誰? 思わず呟こうとするが声が出ない。

 抵抗しようにも身体も動かなくなっていた。


「あまり喰うと目が飛び出てしまうからな。このくらいで生かした方が素体も長持ちするものだ。クク。なかなか面白いな。この世界の人間の構造はこうなっているのか」


 既に言語中枢も身体の操縦も奪われていた。

 少女は絶望に声を上げるが、声帯は既にナニカに握られ、声として発されることはない。

 そして、少女だったものは静かに立ち上がると、子供たちの輪へと違和感なく加わった。

 そこに、少女は存在しない。

 少女だったナニカが擬態する少女が、子供たちに混じって遊び始めただけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ