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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
マザー → エクファリトスの王
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第二十世界

 その世界は、科学も魔法も発展していない世界だった。

 なにせ、ただ自分がして貰いたい事を口にするだけで、目の前にあるモノが勝手に動いてくれるのだ。

 これでは自分から考えて科学や魔法を覚えようなどするはずもない。


 彼らはあまりにも無垢で、あまりにもチート過ぎた。

 魔物も存在はしていたが、彼らはただこう言えばいいのだ。

 「こちらに近づくな」と。

 それだけで、魔物たちは踵を返して森の中へと戻って行く。


 この世界の住民たちは平和に暮らし、互いに協力すらせずに無為に過ごしていた。

 自分一人で何でもできるのだから他人との繋がりなんて全くない。

 交尾相手を探す時位だそうだ。彼らが他人と関わるのは。


 それも、集落内で大体済ますので、身内の中でも母親と息子の子とか、その子と父親の子とか物凄い爛れた関係図が展開されているのだが、彼らにとっては近親なんたらというのは理解すらできないようだ。

 とりあえず、子孫を残せる者同士で子を成せればいい。

 その程度の認識で、その子供たちもこの思考を受け継いでいるのだから、まさに家族で集落を営んでいるといってもいい。


 もっとも、王利たちが出会ったこの村だけという可能性はある。

 なにせ村同士が離れている上に別の村には滅多に向わない。

 向う必要すらないのだから。


 何らかの事故で交尾相手が居なくなった時などにその相手を探しに向う程度だそうだ。

 それ以外には、文化も宗教も発展していないのだから他の村へと向う必要はない。

 食料に付いても、森に入って「食えるもの、集合」と声を掛けるだけで勝手に自分たちの元へと果物がやってくるのだから、飢える心配もない。


「しかし、これはなかなか面白い能力だな。使用者が自覚していないのが玉に傷か」


「だが、下手な欲望を持たない方がいいだろう。我々との邂逅で問題が起きればこの世界が壊れかねん。おい、W・Bだったな。さっさと次の世界に向え」


 首領の呟きに、バグカブトが過敏に反応する。

 これ以上ここに留まり首領が何かをやらかす前に、次の世界へ向えと言う事らしいのだが、王利がソレを行うより前に、首領はロクロムィスごと地中へと消え去った。


「っ!? おい、貴様等の首領はどこへ消えた!?」


「いや、俺に聞かれても困る!」


 驚くバグカブトに慌てる王利。

 ロクロムィスの地中内での移動速度はかなり早い。おそらく、既に数キロ先にすら届いているだろう。

 今更この周辺を探したところで無意味に近い。

 言い争う二人を見て、案内してくれた現地の男が頭を掻く。


「あの、さっきの岩の人をここに連れてくればいいのかな?」


「できるのか?」


「ええ。ただここに連れて来るように頼めば土が連れて来てくれますよ?」


 有機物無機物関係なく動かせるらしい。


「ならばインセクトワールドの首領、いやロクロムィスをここに連れて来てくれ」


「はい。では、大地よ、ロクロムィスを連れてこい」


 しばらく、何も起きなかった。

 だが、次の瞬間、あの岩蛙が地面からせり出すようにして姿を現す。

 しかし、それはただの亡骸だった。


「おい、中身がいないぞ?」


 バグアントがロクロムィスの中を確認して全員に告げる。


「おい、首領、インセクトワールドの首領を呼び出せ、今すぐに!」


「はい。大地よインセクトワールドの首領を連れてこい」


 しかし、今度は何も起きなかった。

 男は困ったように頭を掻く。


「あの、もしかしてインセクトワールドの首領さんって、名前じゃなかったりしますか? 真名が無ければ連れて来ることはできないのですが」


「真名? 真名……か。奴の本名など知らんぞ」


「菅田亜子ですよ……あ。これ秘密だった」


 バグカブトの言葉に反応したのはバグリベルレ。

 しかし、すぐに王利との約束を思い出して口を噤んだ。

 ただ、完全に後の祭りだった。


 ごめん。とばかりにバグリベルレは王利に左手を眼前で縦に開いてチョップ型にして謝るが、既に秘密にすべき本名が皆にバレてしまっているのでどうしようもない。

 ドクター花菱が菅田亜子。と何やら意味深に呟いていたが、すぐに顔を上げて男に注目する。


「大地よ菅田亜子を連れてこい」


 そして、菅田亜子が連れてこられた。

 いや、菅田亜子だった遺体が、ロクロムィスの横に地面からせり出してきた。

 当然、首領はそこに存在しない。

 なぜなら菅田亜子はこの遺体の本名であって首領の本名ではなかったからだ……


「って、首領は!!?」


 王利は知っていた。エルティアから聞かされた首領の正体。

 それは、相手の脳内を食い荒らし操る寄生虫のような存在。

 その本名が分からなければ、彼女を連れて来ることは不可能だった。

 つまり、首領という名の寄生虫が裸体で見知らぬ世界に放り出されたのである。

 見つけるのは……ほぼ不可能。


 ここにインセクトワールドの野望は、泡と消えたのだった。完。


「って、どうすんだよバグカブト! これじゃ首領どこにいるかすら見つけられないぞ!」


「し、仕方ないだろう。まさか奴の本名ではなくこの遺体の名だと思わなかったんだ」


「菅田亜子。思い出したよ。この子、菅田教授の娘さんだ。十数年前に行方不明になったって聞いたことある。そうか。インセクトワールド首領に乗っ取られていたのか」


 ドクター花菱がどうでもいいことを呟く。今は本当にどうでもよかった。

 そして王利たちは、首領探索のため、しばらくこの世界に留まることになるのだった。

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