異世界転移6
第十六世界。そこは魔王もいなければ戦争も起こっていない平和な世界だった。
それもそのはず。住民全てがレベルカンスト、ステータスMAX状態なのだから、戦争などする意味がない。
なかなか決着がつかない上に、決着がつく頃には周囲の地形が変わっているのだ。
ただの喧嘩でそれなのだから、戦争などすれば星が壊れかねない。
だから、どれほどムカつこうと誰かの暴走で星を壊して死滅エンドになってしまうので戦争など行えないのである。
虫を捕まえようとしても力が強すぎて潰してしまうし、魔物も雑魚。一撃死である。
力が強すぎるから武器ももてない。どのような武器も柄を持った時点で破壊である。
なので、大工さんは鉋もハンマーも鋸も使わず、全て手刀で行っているのを見せつけられた。
こんな世界では首領が支配できるはずもなく、ここにはもう来ることは無いだろう。と結論付けて王利たちは次の世界に飛ぶことになった。
第七世界にこいつら連れて行くのもアリだなとか次の世界に来た時首領が呟いていたが、聞かなかったことにした。
第十八世界は魔法世界ではあったが、遺跡や迷宮が多く、何に使うか分からない古代兵器が数多く存在していた。
なので迷宮の一つに王利たちは入り込み、探索を行ってみたのである。
結果は先述の通り、正義の味方と怪人、ロボの組み合わせを止める罠や魔物は存在しなかった。
数多くの秘宝を持ちかえり、ここにはまた来たいとの感想をいただいての次世界である。
第十九世界。魔法だけじゃなく科学も同時発展したこの世界は、王利たちの居た世界など及びもつかない程のハイテク機器を扱う現代世界。
スマホ片手に空を飛ぶ人々を見上げながら、転移ゲートを使って世界各地を回る事すらできた。
外国では王国も幾つか存在し、アメリカは魔科学砲などという超絶兵器を開発に成功したとか、日本が陰陽道の大国になっていたり、イギリスが魔法国家になっていた。
サイクロン式掃除機で空を飛ぶ姿は脱帽モノだった。
ドクターが思いの外気に入ったらしく、そのまま数カ月居座った訳だが、その後、ようやく次の世界へと旅立てた。
それが、第二十世界。今、王利たちがいる世界である。
そこは、何もない平原でありながら、少し離れた場所にけもの道ができていた。
全員周囲を警戒しながらけもの道に辿り着き、多数決で右側に向ってけもの道を歩いていく。
しばらく歩くと、集落の様なものが見えた。
そこは文明の利器を使ったビルもなければ、魔法世界のような中世的建築物も存在しない。
ただ、その場に存在する岩を適当に組み合わせたような家が点在する広場だった。
王利たちが村に近づいていくと、けもの道と広場の境目に立っていた男が王利たちに気付いた。
「やぁ、見ない顔だね。私達の集落にようこそ」
「ああ。遠くから来たんだ。ところで、この石の家はどうやって作ったんだ?」
率先して首領が語りかける。こういう交渉事は全部首領任せだ。
やはり容姿はアレだが説得力とカリスマ性はこのメンバー内で随一なのだから彼女に任せるのは順当だろう。
ロクロムィスのままではあるが。
「アレですか? アレはこう、家よ建て!」
と、男が言った瞬間だった。
石積み場とでもいえばいいのか、広場の一角に置かれていた巨大な岩が幾つか勝手に宙に浮かぶと、勝手に家を形作っていく。
「と、言う感じです」
意味不明である。
もはや何がどうなっているのかすらわからない。
ただ、家が立つように言葉を吐いただけで家が出来るとか。
「ほぅ。面白いな。他にどんなことが出来るのだその力は?」
「力? よく分かりませんけど、これは生まれた時から皆ができることですよ? 親御さんに教わりませんでしたか? 水よ集まれ」
男の言葉で空気中の水が彼に集まり幾つかの水球を作る。
「どうぞ。長旅で疲れたでしょうから水でもお飲みください」
ふよふよと漂ってくる人数分の水球。
王利は手に取ると、ソレで舌を湿らせる。
……毒は無い。というよりもただの水にしてはとてもおいしい。
「今のは?」
「水を集めただけですが? こう、言葉を紡ぐ時にどうしてほしいといった意志を込めるんです。石よ、どけ!」
男の言葉に反応し、道端に存在していた一つの石が突然蛙のように飛び跳ねる。そして少し離れた場所にどいた。
代わりに、男がその場に足を踏み出す。
「皆さんもコツを掴めばできますよ。この世界では常識の事なのですから」
と、笑う男。残念ながら王利たちには出来そうにない。
なぜならこの世界とは理が違う存在だからだ。
だが、もしもこの力を手に入れる事が出来たなら……
首領とドクターだけじゃない。クロスブリッドカンパニーの二人もこの能力の有用性になんとか覚えたい、あるいはこの世界の誰かを自陣に引き込みたいと考えていた。