戦闘準備と窃盗罪
準備を整える。
そう言って首領が向かった先は、機械族が経営するパーツ屋だった。
そこでロクロムィスから飛び出た首領はハルモネイアにパーツの説明を聞きながら必要な物を幾つか選び取る。
王利たちは邪魔になるそうなのでパーツ屋に入らず外で待機する様に言われた。
彼らはいぶかしみながらも遠くから首領たちを見守ることにする。
しばらくウインドウショッピングに来た友人のノリでハルモネイアと話し合う首領。
大したものではないが、ポリス型使う暴走機械族鎮圧用のスタン警棒や水素を取り込むことで爆発しながらエネルギーを作り出す心臓部、超巨大な遠距離砲撃用の換装腕パーツなどなど、ハルモネイアが使うにしてはかなり重量オーバーな物品を選び、ロクロムィスに乗り込む。
機械族の売り子が金品を要求して来るが、首領はこれに地面に沈み消えることで答えた。
つまり、窃盗である。
残されたハルモネイアは即座にバーニア吹かして王利たちの元へと飛んだ。
これも窃盗である。
さすがに予想外だったので王利たちは慌てて走り出した。
窃盗に気付いた店の機械族が警報ならしながら追ってくる。
これに町の住人が気付き、気が付けば王利たちは大軍の機械族に追われていた。
窃盗の仲間として王利たちの顔が認識される。
これはマズい。と思ったベルゼビュート・ハンマーシャークとマンティス・サンダーバードが飛行を始めた。
あ、ずるい。と王利が叫ぶが、すぐにヘスティも変身と共に飛行して逃げ出す。
エスカンダリオまで逃げた。
残ったのは飛べない二人とその隣を飛行しながら並走するハルモネイアである。
さすがに逃げたかった王利だが、ハルモネイアに捕まって逃げると、唯一エルティアが残ることになってしまう。
「ええい、ハルモネイア、エルティアを連れて逃げてくれ」
「了解でありまる」
エルティアを抱え上げ、ハルモネイアも上空へと退避した。
後に残ったのは、町中から集まるロボと、それに追われる王利だけである。
なんでこんなことに!? こんなことしてる場合じゃないと毒づきながらも懸命に走る王利のすぐ横に、岩蛙の頭が顔をだす。
「W・B。あのロボを殲滅させるぞ」
「はぁ!? マジですか首領」
「うむ。破壊した機体から我々にとって有利な物を作成する。時間が惜しい徹底的に破壊しろ。空に逃げた貴様等もだ! 一気に行くぞ!」
首領の無茶な要求に、王利は吠えるようにして一鳴きすると、踵を返して突撃を敢行した。
空中に逃れたヘスティも口からの怪光線で直線上に敵を殲滅する。
ハルモネイアも同様だ。銃口へと変化させた腕で無数の敵を一網打尽に打ち倒す。
少し遅れて炎が走る。
ベルゼビュート・ハンマーシャークによるフレイムブレイド。
量産型ハルモネイアとの戦いで懲りたのか、マンティス・サンダーバードはシザーズカッターを封印しての水弾攻撃。
相手が感電している所を見るに、水攻撃の方はかなり有効な手段らしい。
「光の聖剣」
エルティアの魔法が完成し、王利の腕が光に包まれる。
感謝しつつ王利は切り込む。
この戦い、唯一の接近戦組だ。
いや、首領が現れたので唯一ではなくなった。
そんな首領は大岩でできた蛙をロボたちの中央に出現させると思い切り両腕を振う。
たったそれだけで数十の機械族がスクラップと化した。
警備型ロボが狂ったように電撃付きの警棒で攻撃してくるが、土が全て受け流してしまいロクロムィスの内部に寄生する首領に届かない。
なすすべなく破壊されていく機械の群れに、さすが悪の首領だな、とまるで魔王を見るようなエスカンダリオが言葉を洩らす。
そんなエスカンダリオは風を操り重量の低い動物型機械族を空に巻き上げ落下させている。
うん、敵を倒すのは俺が一番少ない。
王利はそんなことを思いながらも攻撃を行えないエルティアを見る。
まだ、最底辺じゃない。
そんな思いは、見事打ち砕かれた。
王利の見ている前で、エルティアが魔法を行使する。
それは、本来補助、というか王利を助ける程度にしか使えない魔法だった。
「精霊の水流」
まさかの水流攻撃である。
水をただ出すだけの魔法だが、機械族には有効らしい。
かなりの広範囲が水浸しになり、機械族が感電による誤作動、暴発を一気に加速させた。
一瞬で王利が倒した数以上の敵が行動不能になる。
王利は泣いた。
攻撃手段はないと思っていたエルティアにすら負けたと自分が戦力外に落ちたことに嘆いた。
でも、嘆いたところで誰も慰めてはくれないので慟哭しながらも必死に光の剣を振りまわす。
小一時間後、追ってきていた機械族は全て沈黙した。
その中からえりすぐられたパーツを首領が楽しそうに集めている。
どうやら科学者としての血が騒ぐらしい。首領自ら何かを作り上げるそうだ。
最初に作ったのは、望遠レンズだった。