大爆発
「いかん、来るぞ!」
首領の焦った声に王利たちは全力で駆ける。
しかし、溶けながら滑空し始めた013986号機は、すぐさま彼らに追いついて来た。
高熱化した腕をレーザーソードに変えるが、高熱過ぎたためにレーザーが断ち消えてしまう。
それに気付いた013986号機は首を捻って銃口に変える。
しかし、その腕自体が今度は融解してしまった。
さらにその身体が真っ赤に輝き始め、膨張を始める。
「エルティア、魔法はッ!?」
「む、無理です勇者様っ、間に合いません!」
「ええいW・B。転移、転移しろっ!」
首領に言われて王利は慌ててダイアルに手を掛けようとするが、その瞬間、013986号機がついに膨れ上がった。
刹那、全ての音が消失する。
全員、自分の身を守る事すら出来ず、ただただ013986号機に視線を向ける。
破裂した013986号機から強い光が溢れ、全てを包み込む。
思わず目を瞑り片手で塞ぐ王利。
自分の全てがはじけ飛んだような感覚。
次いで耳を劈く程の轟音が轟いた。
ホワイトアウトした世界で、王利は気付く。
自身が吹き飛び消え去っていないという事実に。
それはつまり、自分は死ななかったということに他ならない。
慌てて全身に意識を向ける。
五感はある。五体も感じられる。
そればかりか地面に足が付いていて、片腕を上げて目を塞いだ状態のままだと気付かされる。
なぜ無事なのか? 疑問に思うが光が強すぎて目を開けられない、腕を退かしてしまえば目を閉じていても失明の危険があるためコレもどかせない。
光が過ぎ去る数瞬後まで、王利はただただその状態を維持し続けた。
ようやく光が収まってきたと思えた頃。薄眼を開き徐々に目を慣らす。
ぼやけた視界に、爆炎を見た。
未だに爆発中なのだ。
013986号機は最初の大爆発で中心部から吹き飛んだのだが、それでもまだ収まらず、連続の爆撃を自身の心臓部である動力源が引き起こしていた。
既に彼女の姿は欠片すらない。
ただ爆発し続ける何かがひたすらに自爆を続けているだけだ。
しかし、その爆発は、王利たちには届かない。
彼らと爆発を隔てるように、風が不自然に爆風を吹き流しているからである。
なぜ? と思って良く見ると、顔があった。
風の中に見えたその顔で、ようやく自分たちを救った人物に思い至る。
「エスカンダリオ!?」
「ん? どうした勇者?」
「あ、ああ、いや。助かった」
「ん? ああ、この程度は助けた内に入るまい? ただ我が巻き込まれて吹き飛ばされそうだったのでな。風の壁で全て向こうに流してやっただけだ」
自分を護るためかよ。と思わず言いそうになった王利だったが、結果自分たちまで救われたので黙っていることにした。
下手な事を言うと風の壁とやらを解除されかねない。
解除してしまえばインセクトワールドはここで完全に壊滅してしまう。
そうなればエスカンダリオは自由の身である。
まぁ、異世界ではあるのだが、この世界でならエスカンダリオはほぼ無敵だろう。
何せ、物理は無効の風であるわけだし、魔法という概念が無いこの世界では彼を倒しうる存在がいないのだ。
それに気付かれないように王利は黙っていることにした。
彼にはせいぜい首領やヘスティ、エルティアたちを守って貰うことにしよう。
それにしても、と王利はエスカンダリオに歩み寄る。
「あいつ、何時まで爆発し続ける気だ?」
「確かに、終わりがまるで見えないな。アトモスフィアバーストでもあれほどの連撃は無理だぞ」
「ふむ。強制的に終わらせられんかエスカンダリオ? ああも続くと迷惑だ」
王利たちの会話に、首領が加わって来た。
エスカンダリオは少し思案するような顔つきになり、ふむ。と声をあげた。
「とりあえず海に捨ててみるか」
「なるほど、それでいいだろう。任せる」
周囲の自然環境への配慮は一切なく、エスカンダリオと首領は即座に決めた。
風を巧みに操りながらエスカンダリオは爆縮地点を移動させていく。
やがて、海に向って行ったのだろう、エスカンダリオの姿が見えなくなった。
そして、辺りに静寂が訪れる。
マザーの存在していたその場所は見事に荒れ地に変化し、今では瓦礫が少し残っている程度、あとのほとんどが爆発に巻き込まれ粉々に砕かれていた。
エスカンダリオが守った方向だけは無事だったが、自宅でトイレの入り口以外全部吹き飛んだ様なものである。
残っている施設などあってない様なものだった。
「ふむ。エルティア、蟷螂男はどうだ?」
「危ない所でした。後少し遅れていたら死んでいましたが、なんとか無事です」
「思わぬ弱点が発覚したな。いや、むしろあの電撃をハルモネイアに使えばブーストができるのか……」
と、首領がなにやら考え込み始めたのだった。




