VS 量産型ハルモネイア3
首の無い身体がレーザーソードを振い攻撃して来る。
さすがにこれは予想外だったベルゼビュート・ハンマーシャークは焦りながらもレーザーソードを掻い潜り、拳を当てて行く。
超高温の炎を纏った攻撃は、しかし量産型ハルモネイアの装甲を熱くするばかりで大したダメージを与えきれない。
だが、それでも熱したあとで急速に冷える金属は徐々にその性質を変化させていた。
やがて、レーザーソード化した腕を払った瞬間、そのまま013985号機の腕がボキリと折れた。
急激な寒暖による金属疲労である。
しかし、視界を既に失くした013985号機は逆の腕をレーザーソードと化してベルゼビュート・ハンマーシャークへと襲い掛かる。
勝機が見えた彼は、その攻撃も逸らして炎の腕を当てて行く。腕の関節、肩、鳩尾。とあらゆる場所に熱しては冷まし、013985号機を弱体化させていく。
「くたばれ木偶人形が。フレイムブレイド!」
炎を纏った両手を擦り、さらに猛った炎を敵へと噴射する。
これで決める。と一撃を放った直後、彼は自身の直感とも言うべき危機を感じた。
即座にフレイムブレイドを中断し、上空へと緊急回避。
一瞬前に彼が居た場所に、二対の赤いレーザーが通過した。
射線を見れば、泣き別れた013985号機の首がある。
目からレーザーを発射して来たのだ。
ロボは切断しただけでは油断ならないと気を引き締め、まずは厄介ながら動くことのない013985号機の首目掛けて一気に急降下。超空からの蹴りを叩きつけ頭蓋を粉砕した。
さらに飛行しながら旋回し、013985号機の身体を背後から急襲する。
勢い付けた突撃は、視界を持たない013985号機の身体を難なく弾き飛ばした。
衝撃の余り残った三肢が千切れ飛ぶ。
まさにダンプカーにぶつかった車のように、013985号機がスクラップと化したのだった。
大きく息を吐いて地面に降りるベルゼビュート・ハンマーシャーク。
その表情は勝ったというのに喜ばしい物でなかった。
なにせ、たった一体の敵にこれ程苦戦を強いられたのである。
その苦戦した相手は量産機、しかも既に損傷していた敵である。
それを相手に危ない場面が結構あった。
もしもこれがこの先団体で押し寄せてくるとすると……考えるだに恐ろしい。
一息付いて、彼は戦場に視線を向ける。
どうやら一対一なら自分たちの方が有利なようで、他の面々も善戦をしている様子だった。
ただ、一人だけ、危うい奴が居た。
そう、自分と同じクロスブリッド・カンパニーの怪人、マンティス・サンダーバードである。
なぜ苦戦しているのか、それは明白だ。
一番動きの遅かったはずの13986号機が今は一番素早い動きをしているからである。
なぜだ? とベルゼビュート・ハンマーシャークは疑問に思うが彼の疑問の答えがでることはなかった。
マンティス・サンダーバードは戦慄していた。
まさか自分の雷撃を喰らった敵が、喰らえば喰らう程に動きを良くしていくのだから堪ったモノではなかった。
マンティス・サンダーバードの雷撃の鎌は、ロボット相手には相性が最悪らしい。
もはや彼の目でも捉えにくくなり始めた13986号機に、思わず舌打ちしていた。
下手をすれば、オリジナルのハルモネイアすら凌駕するんじゃないかと彼は毒づく。
そんな13986号機は片腕をレーザーソードに変えてマンティス・サンダーバードに打ち込み、即座に離れては銃口に変えて遠距離射撃を繰り返す。
そのパターン化した攻撃は、一見楽に対処できるように思えるが、今やその速度は人間の肉眼で反応できない速度。
マンティス・サンダーバードの複眼を持ってようやく動きを捕えられる程である。
まさか自分の攻撃で敵がここまでパワーアップするとは思わなかった。
完全な足の引っ張りである。
もし自分が負けた場合、誰かがこのパワーアップした量産型ハルモネイアを相手取らなければならないのだ。さすがにそれはマズい。
このままだとインセクトワールドに頭の上がらない程の借りを作ることになる。
そうなれば、待っているのはインセクトワールド社に実効支配されたクロスブリッド・カンパニーとい肩書だけのインセクトワールドロシア支部にされかねない。
故に、この13986号機はマンティス・サンダーバードのみ、あるいはベルゼビュート・ハンマーシャークを含めた二名で倒しておかねばならない。
そうでなければ対等な関係は築けない。
マンティス・サンダーバードは己の翅を極限まで震わせ電気を発生させる。
さすがにこれ以上は速くなるまい。
作り出した電撃を全て鎌に溜めこみ、極大のシザーズカッターを撃ち放つ。
パターン化した攻撃を放った後を狙っての攻撃は、見事13986号機に直撃した。
いや、むしろ彼女は自ら当りに向っていた。
彼女も自身の力を上げる攻撃だと気付いたようで、少し前から積極的に帯電しに向っていたのだ。
結果、13986号機は極限にまで強化された。
全身を巡る電力が異常なまでに全身を突き動かす。
許容値を越える程に溜めこまれた電撃で、まさに稲妻のごとき速度でマンティス・サンダーバードに向ってきたのである。