脱出
「さて、早速だがこのまま脱出するぞW・B。奴らの狙いはヘスティ。奴らがここに来る前に逃げ切らねばならん。となれば、バグレンジャーやミカヅキ・メイフライの到着を待っておる訳にもいかん。一刻も早く、我々だけで(・・・・・)逃げ切るぞ」
首領の言葉に咄嗟には頷けないエルティアとヘスティ。ここでバグレンジャーに何の連絡もなく居なくなると言うのはいくらなんでも……
そうだ。と王利は思い付いた。
「ハルモネイア、全館に連絡。エクファリトスの王襲来に付き俺たちは先に逃亡する」
「了解」
パネル操作を始めたハルモネイアが全館放送を開始する。
その間にエルティアが怪人二人の回復を行った。
一言伝えるだけなのでそれほど時間的ロスもなく、王利たちは首領を先頭にして脱出を開始する。
そうして向ったのは、屋上だった。
エレベーターで一息に上がった王利たちは、屋上に躍り出る。
既に遠方から飛行ロボが迫っているのが見えた。
その数はざっと見ただけでも数千機。
前後左右満遍なく向ってくる姿はもはや絶望的としか言いようがない。
これはさすがにマズいと思ったのだろう。ベルゼビュート・ハンマーシャークもマンティス・サンダーバードも首領の言葉に素直に従い飛行を開始する。
王利は敵であるベルゼビュート・ハンマーシャークに、首領はヘスティ、エルティアはマンティス・サンダーバードに連れられて飛び上がる。
「目指すは海だ。さすがの機械共も海水までは向っては来るまい。ハルモネイアは……W・B抱えてやれ」
「問題無る。ブースターモード起動。飛行モードに入ります」
どうやらハルモネイアは自力での行動が可能らしかった。
王利たちの飛行速度に合わせて速度を調節している所を見るに、もっと早く飛べるらしい。
その証拠に、彼女と同型機と思われる存在が数百体、王利たち向けて飛んでくるのが見えた。
「嘘だろ!?」
「警告しまる。LR320092。量産型ハルモネイアでる。私との能力比較を行った場合、一体一体の実力は私の30%程であると報告しまる」
塵も積もればなんとやら。一対一ならハルモネイアの圧勝らしいが、さすがに奴らの数が多すぎる。
これはもう逃げの一手しかないだろう。
反撃に移る暇すらなく、アレに追いつかれた時点で俺達の敗北が確定してしまう。
「W・B。最悪転移を考えろ。転移場所は……エルティアの世界だ。秘密兵器を使う時が来たらしい。少々早いがやるしかあるまい」
まさか、アレを使う気か!?
思わず王利は首領を見る。
アレはマズいとは思うが、戦力が一人でも欲しい今ではアレを頼みにするのは確かにアリかもしれない。問題は……アレをあの子に見せた時だ。
下手を打てば、折角の同盟関係が確実に崩壊する可能性がある。
それだけではない。今首領を良く思っていないエルティアの心象までが悪化する。
最悪、また王利と首領の二人きりという結末すらありうるのだ。
絶対に使わせる訳にはいかない。それを使うくらいならもっと使える奴を……
待てよ。アレなら使えるんじゃないか?
王利はふと、ある者を思い出す。
「首領。ロクロムィスは使えませんか?」
「ほう、アレの骸をこちらに持ちこむのか。面白い事を考えたな。確かに奴なら十分だ。ついでにエスカンダリオのヤツも交渉してみるか。上手く行けば奴程適材適所な奴はおらんしな」
物理攻撃効かない風の生命体だしなアイツ。まだ生きてるんだろうか?
「でも、上手く説得できますか?」
「魔王がいない今、敵対しても無意味だろう。その辺りをとくとくと語って見るさ」
どの道、この状況ではヘスティのピンチはずっと続きそうだしやられる前に、飛んでしまうのもありか。
決意した王利は全員を自分に密着させるよう指示を出す。
異世界から異世界への移動は初めてだったが、王利は失敗など考える事もなくダイアルを回していた。
量産型ハルモネイアたちがレーザーソードを引き抜き、あるいは突撃銃のように構えた腕から弾丸を発射しようとした直後の出来事だった。
肉薄した量産型ハルモネイアたちが剣を振い、そんな彼女らを巻き込むようにして雨の様な弾丸が降り注ぐ。
しかし、次の瞬間彼らの攻撃は全て目標を射抜くことなく虚空へと消えて行った。
ただ、銃弾の直撃を受けた個体が数百体損壊したことだけは、彼らが認識できた。
といっても、認識したからと言って感情がある訳もなく、彼らはただ淡々と目的の人物たちを検索し、捜索する。
しかし、何処からも発見したという報告はない。
あまりに唐突な消失に、彼らは脳をショートさせつつも必死にヘスティという名前の少女を捜索する。
見つけ次第抹殺。その為ならどれ程の被害であろうと気にするな。
王に与えられた命令をこなそうと、ロボたちは壊れた者に見向きもせずに居もしないヘスティを探すのだった。