三つ巴の戦い
俗に言う、ハウリングである。
超音波は壁に当り、反射した超音波とヘスティの超音波が丁度ベルゼビュート・ハンマーシャークを中心にして合わさった。
彼の場所にのみ、極大に強化された超音波が襲い掛かる。
その衝撃に、彼は全身から血を吹き出した。
何が起こったのか、彼は分からなかっただろう。
ただ予想外の攻撃を受け、無様に地面に突っ伏した事だけは気付けた。
立ち上がろうとするが、全身に力が入らないらしい。
驚いたマンティス・サンダーバードが駆け寄ろうとするが、王利を警戒しているのか近づけないでいた。
ベルゼビュート・ハンマーシャークは思わずヘスティを見上げる。
「何を……した?」
「貴方を中心に音波に音波をぶつけまシタ。さすがに死ななかったみたいデスガ、動けないでショウ?」
オノレと呟くが、彼にはもはや立ち上がる力すらなかった。
マンティス・サンダーバードが王利を蹴りつけ、反動でベルゼビュート・ハンマーシャークの元へと向う。
「無事か!?」
しかし、返事が出来ない。
マンティス・サンダーバードは返事が聞こえないと悟ると、共食いを発動させることにした。
両手の鎌でベルゼビュート・ハンマーシャークを持ち上げ口元に……
その瞬間、銃声が響いた。
一瞬、何が起こったと驚くベルゼビュート・ハンマーシャーク。自身が喰われると悟り人生を諦めかけた彼は、自分を捕獲していた鎌から解放され、地面に落下していた。
「ぐあああああああああああっ!?」
マンティス・サンダーバードの悲鳴が轟く。何が起こったと銃声のあった方向を見れば、警察型ロボが一体、ドアを蹴破り内部に侵入していた。
手にしている拳銃を構え、マンティス・サンダーバードに向けている。
「ろ、ロボット……貴様等、何をした!?」
「い、いや待て。アレは我らが下したロボではないっ」
驚いているのは首領も同じだった。
目の前にいる警官型ロボは本来、街中を警備しているロボである。
この施設に入ってくることすらありえない存在なのだ。
「いかんっ。エルティア、ヘスティを護れ!」
いち早く気付いた首領の言葉に。慌ててエルティアが魔法を唱える。
「反射の盾!」
魔法が完成したのと銃弾がヘスティ向けて放たれたのは、同時だった。
反射の盾により返された銃弾は綺麗に銃口へと戻り、拳銃と共に警備ロボの腕を爆破させる。
ぎりぎりだった。少しでも遅れていればヘスティも被弾していたはずだ。
先程の銃撃も、射線上にマンティス・サンダーバードが居た為に彼の身体で銃弾が止まっただけであり、銃口が狙っていたのはその先に居たヘスティだった。
つまり、この警備ロボは……敵だ。
「ハルモネイアッ、アレを何とかせいっ!」
「なぜ私? ……王利、アレ倒したら、褒める?」
「え? ああ、褒める褒める」
「ならやる」
王利にまた頭を撫でて貰えると知り、意気揚々走りだすハルモネイア。
「PA-212・警備型、通称チェイサーを敵性因子と認定。ジェノサイドモード起動」
右手をレーザーソードへと変化させ、ハルモネイアがチェイサーへと肉薄する。
「警告。LR320091。通称【ハルモネイア】、お止まりください。私は王の命を忠実に行っているだけです。本体への攻撃は敵意アリとみなし殲滅対象に指定されます。繰り返……」
チェイサーの警告に、一瞬戸惑うハルモネイア。
しかし、感情に目覚めた彼女には、王利に褒めて貰うという自身の優先すべき欲望に突き動かされ、チェイサーを袈裟掛けに切り裂いた。
「マザーが消えた今、敵対……上等でる」
せめてそこは上等です。で締めてほしかった。と王利は思うが、口調のおかしなハルモネイアには酷なようだ。
「ど、どういうことだ。貴様等の仲間ではなかったのか……」
「奴は貴様らの仲間、コックル・ホッパーの眷族だ。マズいな。奴らに見つかった。ここは危険だぞW・B」
「そもそもこいつらに見つかった時点でマズいでしょ首領。で、どうする蟷螂男? このまま一人で戦うのか?」
「それは……むぅ」
身体に二発の銃弾を受けた彼では王利とヘスティ、さらにハルモネイアの攻撃陣からは逃げおおすことも難しい。
唯一とすれば攻撃に参加せず指示しか行わない首領を人質に取り逃げるという選択があるが、本能がなぜか危険を発する。
アレに近づくのは得策ではないと、昆虫的野生の勘が告げるのだ。
「ふふ。どうだ? 二人とも、ここは共闘といかんか?」
「……なに?」
「先程の攻撃からも分かるだろう? コックル・ホッパーは貴様等をも狙っている。ヘスティともども消されかねんぞ。ならば、今は協力し、コックル・ホッパーを倒して向こうの世界に戻ってからというのはどうだ? このまま我らと敵対するよりはマシだと思うぞ?」
マンティス・サンダーバードは倒れたままのベルゼビュート・ハンマーシャークを見る。
困った様なその視線に、ベルゼビュート・ハンマーシャークは答えを返せない。
さんざん迷ったマンティス・サンダーバードは最後にヘスティを見る。
「良いだろう。ヘスティ・ビルギリッテを狙うのも止めても良い。しかし、一つだけ条件がある」
「ほう? なんだ?」
「我らがクロスブリッドカンパニーの代表となる手助けをしろ。そしてヘスティ・ビルギリッテに今後一切クロスブリッドカンパニーに関わりを持たせないと誓え」
降参する側のクセに無茶苦茶な要求だ。
と思った王利とヘスティだったが、次の首領の言葉に思わず目を点にした。
「ふむ。よかろう。エルティア。二人を回復してやれ」
当の本人たちも受け入れられると思っていなかったらしく、唖然とした表情で首領を見る。
そんな耳目を集める首領は、無い胸張って悪魔の様な笑みを浮かべていた。