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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
改造人間 → 勇者
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王城の隠し通路

「せっかく脱出できたのに戻ってくることになるなんて……」


 王利たちは魔王軍との戦いに備えエルフの王に戦争を行うよう説得するため、一路王城へと舞い戻る事にした。

 せっかく脱出できたのに一瞬で出戻りということで、エルティアは不満顔である。


「どうせこれからどうするとか考えてなかったんだろ」


「大丈夫、あたしが絶対守るからさ」


 エルフの城、ローエングロック城は、城下町にぐるりと囲まれた城で、城下町の賑わいが凄い。たとえ姫らしいエルティアが普通に歩いていても誰も気に止めないくらい人々が足早に移動しているのだ。


 城下町に住むのは殆どがエルフ。やはり気位が高いのかそこかしこで家族自慢や自分自慢の声が聞こえる。しかも話し合う者同士が同時に自慢するので、おそらく相手の話は聞いてないのだろう。


 一応、他の種族もいるらしく、耳の尖ってないオバサンや、手のひらサイズの妖精なども暮らしているようだ。


 周囲を物珍しく見ながら、王利たちは城門の近くへと辿りつく。

 城下町から見上げた城は、予想以上に巨大だった。


「先に言っておくと、城門にいる兵士が私を見たら襲ってくるよ。お父様から捕獲指令受けてるから」


 エルティアの言葉に王利はため息を吐きたい気分だった。


「王利君、エルフ族って強いかな?」


「普通の人間とそう変わらないと思うぞ。魔法とか使えるだろうけど」


 まさか城内に戻る為にエルフ族と戦闘しなければならないとは、面倒くさいことこの上ない無意味な戦いだ。


「なんとか楽にいけないかな?」


「飛んでいけばあの辺りまではいけるけど?」


「目立つよ。多分バルコニーに入ったとたんに包囲されるんじゃないかな」


 葉奈の提案を棄却して、エルティアは歩き出す。


「確かこっちに脱出用の道があったはず」


 と、郊外に向けて移動する。

 王利も葉奈も、エルティアに付いて郊外へと向かった。


 町から出ると森を分け入っていくエルティア。

 随分と手慣れているようで、木々に衣服を傷つけられることなく歩く。

 周囲から獣らしき声が聞こえるが、襲ってくる気はなさそうだった。


「この辺りのはずなんだけど……」


 木々を掻き分け地面に這いつくばる自称お姫様。

 体裁を少しは気にしてほしかった。


 時折見えそうになるデルタスポットに、王利は思わず覗きそうになる。

 そのたびに葉奈が過剰反応していたので実際に見ることはできなかった。

 彼女みたいな関係の女性が出来る事は嬉しいのだが、こういったチラリズムという男の嗜みが制限されるのは少し頂けない。

 王利は内心悔しがるのだった。


「あ、あった。これだよこれ」


 落ち葉を掻き分けた地面に、ようやく目的のモノが顔を出す。

 石のフタで閉じられた地下への階段だった。


「こんなとこに隠し地下室か」


「隠し階段って言った方がいいんじゃない?」


「それじゃ、入りましょう」


「それはいいけどこのままにする訳にはいかないだろ。せめてこれ隠せないか?」


「大丈夫ですよ。リーフゴーレムに任せるから」


 と、意味不明な言葉を呟きだす。


「EMETH」


 エルティアは最後に聞き覚えのある言葉を吐いて、枯葉に掌を向けた。

 掌を向けられた枯葉は、不自然な程に寄り集まると、まるで生き物ように頭が、身体ができて行く。

 すぐに人間のような枯葉の集合体ができあがった。


「すっごい。これって魔法ってやつ?」


「ゴーレム。私たちがここに入った後、上蓋を閉じて木葉で私たちがここに

来る前の状態に戻しておきなさい。仕事が済んだら自壊しなさい」


 リーフゴーレムは首を縦に振る。

 不思議な現象だった。


「ライトボール」


 次にエルティアは掌に発光する球体を作り出すと、頭上へと浮かび上がらせる。

 そのまま地下への階段を下り始めた。


「地下は暗いから、これで大丈夫。さあ、行きましょう」


 王利と葉奈は顔を見合わせ、魔法という名の奇術の凄さを互いに再確認するのだった。


 王利たちが階段を下りきると、遥か頭上で地下への扉が閉じられる。

 リーフゴーレムが己の命令をこなしたようだ。


「ここ、石造りなのね」


「秘密の抜け道とはいえ、城の中だから」


 松明や明かりといったものはなく、エルティアの頭上に浮遊する光だけが三人を照らしている。

 薄暗い石の道はとても狭く、冷たく、湿気た空気が充満していた。


「なんか、ヘンな病気にかかりそうな空気だな」


「カビ菌吸いこんで肺炎とか? あたしは大丈夫。毒粉吸っても危害がない

よう肺はしっかり改造されてるから」


「変身してないから俺が心配なんだよ。こういう事態は想定してなかったからな。説明聞いときゃよかった」


「大丈夫。その程度の病気なら魔法で完治できるから。常識よ?」


 王利と葉奈の会話に、不思議そうに割って入るエルティア。


「え、あ……そうだっけか」


「ど忘れ? ふふ、まるで魔法を知らないみたいだったよ」


 エルティアの言葉に、思わず反論しそうになって、王利は押し黙る。

 どうせ異世界から来たとか言っても信じないだろう。


 一応天から遣わされた勇者様と認識されるかもしれないが、王利はそんな柄じゃなかった。

 第一悪の秘密結社に属する一怪人風情が、世界を救う勇者などと、おこがましいにも程があるのだ。

 確かに、かなり昔の王利であったなら、喜んで葉奈を助けただろう。


 それこそ正義の味方にすらなっていたかもしれない。

 でも、規律に従って得る正義など、無かった。

 正義を求め正しいことを行おうとした者が夢届かず散った様をすでに体験しているのだ。


 力の足りぬ正義の味方など、理想に殉ずる短い一生など、意味は無い。

 ならば、どのような状況下でも、己だけは生き残る。

 そんな人生であった方がどれほどマシな生き方か。


 だから、怪人になったのだ。

 たとえ秘密結社自体が壊滅しようとも、己が生き残れさえすれば、正義の味方など駆逐できるのだと、それが王利が選んだ怪人に。


「後どのくらいだ?」


「距離的にはもうそろそろ城に着いてても良いくらいだけど……」


 つぶやくエルティアの前に、うっすらと階段らしき影が見えた。


「アレを昇れば国王の部屋に着くはずだよ」


「いきなり国王の間かよ」


「面倒なくていいんじゃない?」


 辿りついたのは国王が寝泊まりしている部屋の暖炉の奥。

 普通はおいそれと入れる場所でなく、王利や葉奈は今までのように生きるなら一生に一度すら入ることない場所だった。


「凄いベット……天窓っていうんだっけあれ」


「天蓋じゃないか?」


「変なとこ見てないで、こっちだよ。お父さんに会いに行くんでしょ」


「ああ、悪い」


 壮麗な部屋をもう少し見ていたかった王利と葉奈だったが、エルティアに着いていくことにする。

 せっかく潜入したのに装飾に目を奪われて兵に見つかるのも笑えない話だ。


「今の時間なら謁見の間にいるはずよ」


「こっからどう行くんだ?」


「そこの階段降りるだけ。でも兵士が沢山いるから気をつけて」


「わかった」


 兵士に見つからないよう周囲に気を配りながら、階段に向かう。

 途中何度かお手伝いさんと遭遇したが、エルティアはよく城を抜け出しているらしく、エルティア様に付き合って下さってすいませんねと、王利は謝られた。


「ねぇ王利君、あたし、別に堂々としてても大丈夫な気がするんだけど」


「まぁ、さっきの対応を見ればなぁ」


「あのね、メイドは雇ってるだけだから捕まえてきたりしないけど、兵士た

ちに見つかったら終わりなのよ」


 エルティアの言葉に、なぜか素直に頷けない王利がいた。

 もしかしたら、魔王云々はただの嘘で、じゃじゃ馬姫の遊びに付き合わされているだけなのでは?


 ようやくやってきた階段をゆっくりと下りる。この階段を下りた場所はすでに謁見の間である。

 そして、そこは……玉座の裏だった。


「って、後ろかよっ!?」


 思わず叫んだのは、玉座の裏側が目の前に来た時だった。

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