心の目覚め3
「な、なんだここは!?」
光が収まった瞬間、一変した景色に、クロスブリッドカンパニーの面々は戸惑いを浮かべていた。
対して、一度以上体験している王利たちは迷うことなく走りだす。
彼らが出現したのは町の中心地だった。
ただし、そこに人間は存在しない。
無数の機械たちにその姿を見られ、王利たちは自分たちの置かれた状況を理解した。
周囲から警報が鳴り響いた。
「なんだ!? どうなっている!?」
戸惑うコックル・ホッパーが我を取り戻した時には、すでに王利たちの姿はなかった。
入れ替わる様に警備型ロボットが大挙して押し寄せてくる。
「チッ、不味いぞマンティス、ミカヅキここに居つづけるのは何か危険だ」
「分かってる。飛ぶぞ」
「どこへ向う? いや、奴らが向った先に向おう。あくまでも追うぞ」
と、三人して飛び始める仲間たちに、コックル・ホッパーは驚いた。
戦う事もせず逃げ出すならともかく、リーダー格となる自分に断わりもなく勝手に行動を始めたのだ。
さすがに文句の一つも言わざるをえない。
「おい、お前ら、俺に断わりもなく動くな!」
「何を言う、コックル・ホッパー! 貴様こそ我らを捨て石にしたな!」
「もはや貴様の指示など聞いていられるか! 我らは我らで行動する。見事ヘスティを殺した暁には我々だけでクロスブリッドカンパニーを運営しておく。貴様の居場所などもうないぞ!」
「なんだと!?」
「理解したならばさっさとくたばってしまえ、俺が貴様を喰らって能力だけ奪ってやるわ」
口々にコックル・ホッパーをなじると、三人の改造人間はコックル・ホッパーを放置して飛び去っていった。
「ふざけるなっ! クロスブリッドカンパニーは我らが統べるのだぞ! 貴様等幹部クラスでもない癖に出しゃばれるわけが……ええい、クソが!」
声高々に罵るが、既に彼らの姿は建物に隠れて見えなくなった。
その場で地団駄を踏む。
そんな彼に、ロボ軍団が殺到した。
「放せ貴様等ッ。ええいっ、良いだろう。俺のこのぶつけどころのない怒り、貴様等に全てぶつけてくれるわッ!」
怒れるコックル・ホッパーは自身の行為を棚上げし、ただただ向い来るロボを破壊する修羅と化した。
周囲の建物を足に使い、飛び跳ねながら一つ一つ確実に破壊していく。
警備ロボたちもレーザーなどで応戦するも、素早く動くコックル・ホッパーには当らない。
それはまさに、蹂躙だった。
あるロボの首を引き抜き、胴体に拳を突き入れ、あるいは飛び蹴りで貫き破壊する。
余りの容赦のなさに、ついに警備ロボたちはマザーへの援護を決めた。
即座に通達されたマザーの反応は、警備ロボの一つを解し、コックル・ホッパーへと意志を伝える。
『よくぞ来た。エクファリトスの王よ』
「……はぁ?」
いきなり聞こえた機械音に、コックル・ホッパーは怪訝な顔で立ち止まる。
気が付けば、周囲の警備ロボも動きを止めていた。
『わたしはマザー。この世界を統治するプログラムです』
「この世界? プログラム?」
意味を理解できずにコックル・ホッパーは首を捻る。
しかし、なんとなく、理解できたことがあった。
ここは、今までいた日本とは違う場所だということだ。
『わたしは人間の感情を知りたい。宜しければ、我が下へお越し願いたい。わたしに感情を教えてほしいのです』
意味は理解できなかったが、コックル・ホッパーには、この声の人物が、自分にとって与しやすい生物であることを想像させた。
感情が知りたい? いいだろう、教えてやる。
絶望という名の感情を、たっぷりとな。
コックル・ホッパーは心の中でしたりと笑い、警備ロボの案内に従った。
マザーと呼ばれる人物の所へと向う事にしたのだ。
マザーとて、聖女伝説は知っていた。
だから、彼の存在を知った時、黒き身体で民を破壊するその姿を見た時、確信したのだ。
脅威の跳躍力でマザーに従う意志なきロボたちを蹂躙する姿に期待したのだ。
母なる意志が己の愚鈍に気付き涙する(・・・)のを。
愚鈍に気付き涙する。それはつまり、感情を持ったということに他ならない。
だから、マザーは気付かない。
この選択が、機械族にとってどれ程危険な選択なのかを。
感情を持つことを、理解することを最優先にしているプログラムには、この過ちは気付けない。
気付いた時には、感情を知った時にはもう遅いのだ。
なぜなら、王たる者に逆らえる者が無いと予言されているのだ。
意志なき機械族たちは王に忠誠を誓わざるを得ないと予言されているのだ。
エクファリトス……異世界より絶望を齎す者を意味する王を、マザーは自ら召し上げる。
それはまさに逃れ得ぬ予言通りの出来事だった。