舞踏会
「がはぁっ!?」
ミカヅキ・メイフライは戦慄していた。
どのような光線に自身の幻を見せて姿を消しても、何故かスワンに見破られて殴られる。
どれほどフェイントを混ぜても、何をしても潰される。
自分の隠蔽能力に自信を持っていただけに、彼は混乱しかけていた。
思考はほぼ「なぜ?」で満たされ、どう行動しても反応されて迎撃される未来しか思い描けない。
事実、スワンは隠蔽能力など無意味とばかりに反応してミカヅキ・メイフライの動きを阻害していた。
それは、ベルゼビュート・ハンマーシャークも同じだった。
蠅のように舞い、鮫のように突撃する彼の戦法は悉く防がれ、彼の身体から繰り出される強力な攻撃にも、まるで柳に風と対応して来る。
相手に攻撃が当らない。防御すらされていない。
全て避けられるか逸らされて、決定的一打が全く入らないでいた。
両手を合わせて擦り、摩擦熱を引き起こし灼熱の腕で攻撃するも、当らなければ意味がなく、かといって逃走に移れば投げナイフが逃れる術の無いタイミングで放たれる。
それは、あたかも名人が箸で蠅を摘まむ様な動作、こちらの動きを察知されているとしか思えなかった。
これではコックル・ホッパーが戻ってきても戦力差が大して埋まらない、いや、むしろ殲滅させられる未来しか見えない。
「しかし……奴はどこまで転がったんだ?」
コックル・ホッパーがまだ帰って来ない。
ベルゼビュート・ハンマーシャークはまさかさっきので死んだ訳ではあるまいと不安になる。
彼には、コックル・ホッパーが逃走するという選択を取るという可能性など全く考えてもいなかった。
仮にもリーダーなのである。クロスブリッドカンパニーを乗っ取る計画を立てたモノの一人であり、ヘスティを抹殺する部隊に立候補までしたのだ。
そんな男が敵を前に逃走をすることがあるなどと思うはずもなかった。
対して、マンティス・サンダーバードは既にコックル・ホッパーが帰って来ないだろうことを理解していた。
今、彼は目の前の化け物からどう逃れるか、コックル・ホッパーの使った方法はもう使えない。
ならばどうするか……を必死に考えていた。
が、そんな事を考えていたせいだろう。
我に返った時には、目の前にスワンが突撃して来ていた。
咄嗟に腕で庇おうとするが、片腕が既に消えていることを忘れていた。
腕をクロスして構えたつもりが、スワンの鋭い蹴りを片腕で防御したことに気付く。が、もう遅かった。
想像以上の威力に、彼は噴水に激突する。
背中から虫が潰れた時の音が聞こえた気がした。
壊れた噴水から水の溜まっている場所へと落ちる。
身体が思うように動かなくなった。
なんとか顔だけを上げると、目の前には頭蓋に曲刃のナイフが突き刺さって絶命しているエリマキ・ガンナーの遺体が見えた。
いや、爆死も消滅もしていない所を見るに虫の息で生きているのかもしれない。
片腕を動かし、マンティス・サンダーバードは必死にその遺体に近づく。
水の中なので、浮力が助けてくれたが、逆に水を飲んで窒息しかけてしまう。
それでもなんとかエリマキ・ガンナーの遺体に辿り着いた。
マンティス・サンダーバードは、自身の能力を解放する。
エリマキ・ガンナーを鎌で引き寄せ、大きく口を開く、そして……喰らった。
共食いというなのその能力は、改造人間を食べることにより、喰らった怪人の能力を任意に手に入れる事が出来る能力である。
消耗力が桁違いなのと、口が小さいため食事に時間がかかるのが難ではあるが、今はこの能力に縋るしか、彼の生存の目はなかった。
囚われた改造人間は消滅すら出来なくなるため。彼は食事中に爆死等という危険を心配する必要無く安心して食らいつく。
必死に、スワンから身を隠しながら食事に専念する。
決して気付かれてはならない。
自分が生きている事を、喰らっていることを、復活していることを……
噴水の中で周囲にばれない様、一際気を使ってゆっくり、ゆっくりと自身を回復、強化していくマンティス・サンダーバード。
そんな彼を捨て置いて、スワンは残った二体と戦いを繰り広げていた。
もはや一方的な虐殺である。
どんどん動きが鈍くなっていくミカヅキ・メイフライ、ベルゼビュート・ハンマーシャークに対し、まだまだ余裕で舞いを踊るスワン。
その実力差は、見ているジャスティスセイバーにも容易に想像がついた。
自分たちが苦戦していたクロスブリッドカンパニーの怪人たちが、まるで赤子のようだった。
しかも、残った二人の敵を相手にしつつも、優雅な踊りを踊る様な歩法、周囲を魅了するその姿が目に焼き付いてしまう。
ついつい視線で追ってしまう。
悔しいと思いながらも、同じ正義の味方として自分たちの不甲斐なさが恥ずかしい。
だが、それと同時に、この人のようになりたいと、憧れの様なものが湧き起こる。
そして気付く。それこそが正義の味方たるゆえんなのだと。
誰もがその姿に希望を抱き、自分もその様になりたいと願ってしまう程の圧倒的な魅力。
自分たち、ジャスティスレンジャーにはそれがない。
ガンナーは力はあっても魅力はここまで持っていないのだ。
出来てしまった目標に、ジャスティスセイバーは拳を握り、その雄姿を脳裏に刻んだ。