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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
ハルモネイア → 感情の芽生え?
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作戦勝ち

 クロスブリッドカンパニーの面々を相手取る形で、仮面ダンサースワンが一礼する。

 その姿は優雅にして流麗。

 それでいて背筋が凍らせるような動きに、コックル・ホッパーは言い知れない恐怖を覚えた。


 このままこいつの足止めに付き合ってはいられない。

 しかし、背を向けて逃げれば確実に殺される。

 それが理解できる。理解できてしまっている。

 つまり、逃げる事は封殺されている。


 ならば戦えるか?

 それも否。

 原始的な生物たるゴキブリの勘が告げている。


 目の前の生物と敵対してはいけないと。

 確実に訪れるであろう死に、改造人間として、生物として、原初の本能が危機を訴えている。

 目の前の化け物に抗ってはならないと。


 しかし、他の仲間たちは気付いていない。

 怪人であるはずなのに、背中を冷や汗が流れる気がしたコックル・ホッパーは、生存するための方法を考える。

 そう、彼だけは、仮面ダンサーへ敵対することよりも、自身の生存だけを考えていたのだ。

 だから、彼らから遅れてしまった。


 ニードル・スワロウが跳躍と同時に突撃する。

 ベルゼビュート・ハンマーシャークが上空へ逃走を開始する。

 ミカヅキ・メイフライが姿を消した。

 エリマキ・ガンナーが水弾を発射し、マンティス・サンダーバードがサンダー・ブレードを飛ばした。


 一瞬で起きた出来事だが、さらに次の瞬間、スワンを通り過ぎたニードル・スワロウが真っ二つに裂かれて散った。

 急上昇したベルゼビュート・ハンマーシャークに湾曲したナイフが突き刺さる。

 突き出されたスワンの拳に打ち抜かれ、ミカヅキ・メイフライが突然現れ吹き飛んだ。

 さらにステップを踏みながら華麗に水弾と雷の刃を避けてしまうスワン。


 周囲を魅せるような動きに、攻撃をしたエリマキ・ガンナーもマンティス・サンダーバードも、悪態も忘れて見入ってしまう。

 だが、次の瞬間、己の失敗を悟り即座に回避行動に移る。


 しかし、一瞬遅かった。

 エリマキ・ガンナーの頭蓋に突き刺さる歪曲したナイフ。

 さらに小型の投げナイフがマンティス・サンダーバードの左腕を切り飛ばす。


「バカな……」


 唯一逃げも攻撃もしなかったためだろうか? 無傷のコックル・ホッパーはただただ驚愕するしかなかった。

 その横で、ようやくふらつきながらジャスティスセイバーが立ち上がる。

 しかし、彼には誰も意識を向けはしなかった。

 当のジャスティスセイバーも、コックル・ホッパーへの反撃を忘れ、優雅に舞う乙女に思わず魅入る。


 そんなジャスティスセイバーとは真逆の感想を持ったのが、コックル・ホッパーだった。

 スワンは、反撃してみせただけじゃない。

 五人もの改造人間の攻撃と逃走に、全て対応して見せたのである。


 たとえ、絶好調のコックル・ホッパーであったとしても、そんな芸当はできるはずもない。

 まかり間違っても、姿を消したミカヅキ・メイフライを捉えられるなど、改造人間にだって早々できるものでもない。

 まして他の改造人間に対応しながらなどという無謀は、コックル・ホッパーにはまぐれでもない限りできるはずもなかった。


 敵対せずに、逃げるそぶりも見せずにこの場から速やかに脱出しなければならない。

 あまりの無理難題に、コックル・ホッパーは今回の作戦の失敗を確信してしまった。

 だが、その瞬間気付く。

 脱出の方法がないわけではないことを。


「全員、集まれ、指示を出す」


 コックル・ホッパーの言葉に、面々が命からがらコックル・ホッパーの元へ集まる。

 一網打尽にされなかったのは、スワンの慢心か、それとも情けか……

 どうやら彼女は本気でクロスブリッドカンパニーの面々を倒す気はないらしく、本当に殿しんがりを務めるだけのようだ。


「いいか、奴を倒すには個々で攻撃していては無理だ。全員で四方から攻撃するぞ! 幸いにも奴は武器を手放した。投げナイフだけに気をつけろ。攻撃力は高くないはずだ。違うかミカヅキ・メイフライ?」


 唯一打撃を受けたミカヅキ・メイフライに聞いてみると、どうやら彼も同じ結論に至ったらしい。

 すなわち、仮面ダンサースワンの攻撃力は、改造人間を打ち倒す程の威力はない。

 せいぜい普通の人間が人間と殴り合う程度のダメージがミカヅキ・メイフライに入っただけだ。

 何度も喰らえば危険だが、多対一でそこまで喰らうつもりはない。


「ああ。あの攻撃力ならなんとか耐えきれそうだ」


「マンティス・サンダーバードと俺とベルゼビュート・ハンマーシャークが三方に分かれる。お前は正面から気配を消して斜め前から攻撃を仕掛けろ。俺は背後に回る」


「ならばベルゼビュート・ハンマーシャークは左から、俺は右から攻撃しよう」


「いいだろう。必ず勝つぞ」


 四人は簡単な打ち合わせを終えて散開する。

 攻撃が来ると知ったスワンが身構える。

 カサカサと動き背後へ回るコックル・ホッパーは、一直線に駆け出す。

 それを皮きりに他の方角からも怪人たちが突撃した。


 さすがのスワンもコレには驚きを隠せない……と思いきや、不敵に微笑むスワン。

 いち早く近づいたベルゼビュート・ハンマーシャークの拳を自身に引き寄せひらりとかわし、マンティス・サンダーバードにぶつけてしまう。

 さらに前方からのミカヅキ・メイフライに対応して拳を打ち込み、背後に寄って来たコックル・ホッパーの腹部に蹴りを叩き込む。


 その瞬間、スワンが一瞬、怪訝な表情になる。

 コックル・ホッパーがガードしていたのだ。

 確かに、彼女の蹴りはそこまでの強力ではないが、絶妙のカウンターとして放った攻撃なのだ。

 ガードなどできるはずがない。


 そんな攻撃がガードされるということは、つまり、初めからガードすることを念頭に置いていたという事に他ならない。

 コックル・ホッパーは吹き飛ばされながらガラスを突き破り駅構内に吹き飛ぶ。

 しかし、それでは止まらず身を丸めてゴロゴロと転がっていった。


 その状況に、彼女は自身の失敗を悟る。

 コックル・ホッパーの目的は、闘うことではない。この場から脱出し、ヘスティを追う事なのだ。

 マズいと思いコックル・ホッパーの後を追おうとするが、他の三人の攻撃に反撃するので精一杯だった。さすがに三人から攻撃を受けているのを放置して吹き飛んだ敵を倒しにはいけない。


 そして、彼らはコックル・ホッパーが逃走したことに気付いていない。

 ただ、スワンに吹き飛ばされただけ、すぐに戦線に復帰すると期待しているのだ。

 だからこそ、諦めずにスワンに攻撃を仕掛けてくる。


 つまり、彼らはコックル・ホッパーが脱出するための、捨て駒にされたのだ。

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