執政官殺人事件
「ごめん、急に出てったりなんかして」
「全くどうしたのよ?アンタらしくないわね」
ルクスが長老の家を出てから数分たった
ルクスは落ち着きを取り戻したのか、皆にごめんと謝った
謝るルクスにキャシルは質問する
エルヴァも心配そうにルクスの顔を見る
「実は・・・その、さっきの話。戦争のことでさ」
皆は黙って聞いていた
「俺の親は10年前の戦争で亡くなったんだ」
エルヴァはルクスの発言にハッと気がついた
「長老様は私のお母さんが10年前の戦争に力を利用されて使われていた。ルクスの親・・・多くの人を殺したのは私のお母さんだから・・・っ」
お母さんは多くの人の命を手にかけたんだ、とエルヴァは思った
「エルヴァっ違う!悪いのはエルヴァの母さんじゃない!全部、全部帝国が悪いんだっ」
ルクスの頬からはキラリと光るものが流れていた
涙だ。ルクスの目からは涙がどんどん溢れてきている
ルクスはそのまま何分か泣いていた・・・
「さて、もう落ち着いたか?」
「ああ、ごめんバレン」
バレンがルクスが落ち着いたのを確認すると
今度はエルヴァのほうに目を向けた
「ここにはもう用はなくなったか・・・」
バレンが言ったそのときだった
「おい。隣の港町のヘイムアースで、執政官が何者かによって殺されたらしいぞ」
「それ本当か?誰だよそいつ」
「なんでも緑の髪の毛で黒いワンピースを着た幼い少女らしい」
ルクス達の横で2人の男のひそひそ声が聞こえた
その話を聞いたエルヴァは
「あの、そのお話詳しく聞かせてもらえませんか?」
エルヴァは2人の男に尋ねた、男は頷いて話を続けた
「なんでもその少女の外見にはもう一つ特徴があってな、ウサギの耳みたいなのが生えてるらしくて少女の周りになにやら変な魂みたいなのがうようよ浮いていたらしい」
「魂が?そんな馬鹿な、お前そんな情報どこで手に入れてきたんだよ」
「アピィが言ってたんだ、もちろんホントか嘘かわからんがな」
「アピィが?」
エルヴァはアピィの名を聞いた途端首をかしげた
「ああ、あいつは時々外に出て遠いところへと旅をしに行ってるからな、そこの赤い屋根があるだろ?あそこがアピィの家だ良かったら直接訪ねて聞いてみては?」
男はそれだけ言うと去っていってしまった
エルヴァは慌ててありがとうございますと頭を下げた
そして目の前の赤い屋根の家へと足を運ばせた
「んーっと、これをああしてこれがこで・・・」
「アピィいるかー?」
ルクスが大きな声でアピィの家を訪ねた
自分のことに夢中だったのか、うわぁ!と驚いた声を上げた
「あっ、な、なんだぁルクス兄ぃ達かぁ~、びっくりさせないでよ~」
アピィは頬を膨らませた
「あのアピィ忙しいところごめんね、すこし聞きたいことがあって」
エルヴァが訪ねるとアピィはエルヴァのもとに近寄り、なぁに?と首をかしげた
「実は、隣の港町ヘイムアースの執政官を殺した事件についていろいろと聞きたいんだけど」
「ああ、あの執政官の事件か・・・何が知りたいの?」
アピィは笑顔をこちらに向け質問してきた
「執政官がなぜ殺されたか、そして殺した子のことを教えてほしいの」
アピィはエルヴァの言葉を聞くと大きく頷いた
「なんかね、ヘイアームの執政官はそりゃあ酷い奴だったらしいよ?」
「酷い奴って・・・なんかしてたのか?」
ルクスが訪ねる
「港町の子供を誘拐したりして、無理やり魔物に襲わせたことが何回もあるらしいんだ。それと大人たちに無理やり働かせて逆らった者は問答無用で殺したらしいよ」
ひどい、とキャシルが呟いた
アピィが言ったことにエルヴァも顔を歪ませた
「そして、ある日一人の少女が執政官の目の前に現れたんだ。名前はわからないけどその子は顔を布で隠していて、黒いワンピースを着ていてウサギのような耳が生えていて、それと・・・周りには不気味な青い色をした魂が浮いていたんだって」
「(クローネス・・・だよね?)」
エルヴァは心の中で思った
「たまたま執政官の生きてた部下がその子の姿を見かけたんだって、なんかわからないけど大きな扉がなんとかって言ってたなぁ」
「その大きな扉って?」
「ん~、ごめんエルヴァお姉ちゃん僕もそこまでは・・・」
「そっか、ううん・・・とても役に立ったよありがとうアピィ」
エルヴァはアピィの頭を優しく撫でた
「エルヴァお姉ちゃんヘイアースに行くの?」
「んっと・・・どうだろう?」
エルヴァは少し顔を困惑させた
「ヘイアースに行こう、なにか手掛かりがあるかもしれないしな」
バレンはそう言うと外に出て行ってしまった
キャシルもバレンの後を追うように外に出る
「じゃあさ、エルヴァお姉ちゃん僕も連れてって!」
「え!?ア、アピィ?」
「子供をつれてくわけないだろ?」
ルクスがアピィに向かって言う
「子供扱いしないでほしいなぁ、これでも役に立つよ?この辺りは僕の庭みたいなものだからね、ほとんど何があるかわかるよ」
そういってルクスに笑いかけ弓と矢を持って外へ出て行った
ルクスとエルヴァは顔を見合わせ
「こ、これでよかったのかなぁ?」
「・・・さぁ?ま、いっか行こうぜ!」
ルクスはエルヴァの手を引っ張りバレンたちの後を追った
クローネスはオグニクス墓地で真っ暗な空を座って見ていた
「なにも見えない・・・真っ暗な闇」
クローネスは呟く
「あの光の子の存在が、私にとっては邪魔だ・・・あの子は私を狂わせる」
『姫・・・光を恐れていらっしゃるのですね』
アルシスがクローネスに悲しそうな顔で言う
「怖いさ・・・あの子が私に近づくと見たくないものまで見えてしまう気がするんだ・・・アルシス、お前はまたそんな顔を」
クローネスがアルシスの硬い顔に触れる
アルシスは申し訳ございませんと謝った
そして
「エルヴァ・・・」
『?・・・姫今何か仰いましたか?』
クローネスは自分が今言ったことに気がついていないようだった
「私・・・今何か言ったか?」
『いえ、何も』
アルシスは心の中で思った
もしかしたら、クローネスの記憶が戻り始めているのではないかと
暗い夜空星一つない暗い闇の空の下で、黒い竜は思ったのだった