空賊バレン、キャシル
「・・・ぃ・・・ぉぃ・・・」
「んぅ?」
エルヴァはゆっくりと重たい目蓋を開いた
目を開けたら城であった男に抱きかかえられていて、顔が近かった
どうやら自分は気を失ってしまったんだなと思い慌ててエルヴァは男から離れた
「す、すみません!私重かったですよね!?」
違うこういうことを言いたいんじゃなくて、とエルヴァは心の中で思った
本当はありがとうと伝えたかったのだけれど・・・
男はすっと立ち上がりエルヴァに近寄って頭を撫でた
そして、大丈夫だ気にするなと笑って返してくれた
男はルクス達の方へ行ってしまった。どうやら皆無事らしく
エルヴァは安堵のため息を吐いた
慌てて皆のもとに駆け寄ると落ちたときの傷や足を挫いてしまったなど
とても歩けるような状態ではなかった。エルヴァは一人一人に治癒術を発動し始め
傷を癒していった。あの時乗せてくれたグリフォンはどうなったのだろうか
「こりゃ、派手にやられたな」
「笑い事じゃないわよっ・・・ディメリア」
エルヴァが遠くから見てもディメリアと名を呼ばれるグリフォンの状態はわかった
所々に痛々しい矢が刺さっており、グリフォンは今は飛ぶこともできない状態だった
表情も険しい。グリフォンに寄り添っている女性はとても悲しい表情だった
エルヴァは怯えながらもグリフォンに近寄り治癒術を詠唱し始めた
「慈愛に満ちたる天の光よ、それは天使の息吹なり、全ての者を癒せ・・・エンジェルブレス」
エルヴァの治癒術がグリフォンを包み込んだ
グリフォンの傷はどんどん治っていった
グリフォンは元気になったのか、力強く鳴いた
エルヴァは良かった、と言うとその場に力なく座り込んだ
慌てて駆けつけたのはルクスだった
「エルヴァ大丈夫か?」
ルクスにそう言われると、うん大丈夫だよとルクスに笑った
本当は頭がクラクラするけどとエルヴァは思った
エルヴァは立ち上がると男と女性の方に向いた
「あの、お城ではありがとうございました。私はエルヴァといいます」
「俺はルクス」
二人は軽く自己紹介をした
男が挨拶をしようと思ったとき、後ろにいた女性が男の前に出た
「私はキャシル・・・その、さっきはありがとう」
女性キャシルはエルヴァに笑っていった
残るは後ろにいる男
「俺はバレンだ」
バレンは挨拶を済ませると、ルクスのほうに向いた
ルクスはその視線に気がついたのか、手の中にある城で盗んだ石を自分の背中に隠した
バレンは、はぁ・・・とため息を吐いた
「何?もう石のことは諦めたの?空賊バレンが聞いて呆れるわねっ」
「「空賊っ!?」」
「うっさい」
ルクスとエルヴァは声を合わせて驚いた
「く、くくっ空賊ですか!?」
「あ、あ、で、でも!この石は渡さねぇからな!!」
バレンは付き合ってられないというように
森の奥に入っていってしまった
後ろにいたキャシルはエルヴァにいった
「バレンはもうこりごりしてるのよ、その石は厄介事を招く石だってね」
それだけ言うとキャシルはバレンについていくように行ってしまった
グリフォンも翼をはばたかせ、何処かへ行ってしまった
ルクスとエルヴァも二人の後についていった
「あの、空では移動しないんですか?」
エルヴァはバレンに尋ねた
「空で移動したところで帝国の奴らがうようよいるだろうよ、また撃たれて落ちるだけだぜ?」
そうですね、とエルヴァも納得した
ルクスは・・・
「ところでさ、ここ何処なんだよ」
その問いに答えたのはエルヴァだった
「ここは多分、トレモアの森・・・じゃないかな?イゼリアから西の森だと・・・」
そうルクスに答えると、バレンがご名答と言った
「よく知ってるな、ただのお嬢様じゃないらしい」
「わ、私はそんなんじゃ・・・」
私ってそんなにお嬢様に見えるのかな?と心に思った
キャシルがそんな考え事をしていて最後尾にいるエルヴァに置いてくわよと言った
エルヴァはその声を聞くと駆け足で皆のもとまで走った
森がざわついている その森の中に一人の少女が足を踏み入れた
「トレモアの森よ、私を拒むか・・・」
少女の呟きは森の彼方へと消えていった
詠唱中に言葉があるとなんかかっこいい・・・