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祝福の鐘

作者: 安藤博文

「祝福の鐘」



「わしは認めんぞ!」

20年間愛情を注ぎ、大切に育ててきたひとり娘と結婚したいという若者に、父は頑として反対しています。

「娘からはパチンコ好きだと聞いている。そんなやつに娘はやれん。」

一層険しい表情をして父が言います。


「いやっ、そ、その・・・、遊ぶ金額を決めて趣味の範囲でやっています。」

苦い顔をしながら娘を見て、若者はおそるおそる答えました。


「だいたいお前もお前だ、成人式を迎えて間もない者同士が勢いだけでやっていけるとでも思っているのか。祝福の鐘でも聞こえたのか?」


父は常々、娘に言い聞かせていたことがありました。人生の岐路に立ったとき、それが迎え入れられていることならば鐘の音が聞こえるものだと言うのです。父自身、進路を決めた瞬間、お寺の鐘が「ゴーン」と鳴り、就職先の内定が決まった時はテレビドラマで「リンリンリン」と、そして母にプロポーズした時はどこにあるのかチャペルの鐘の音がそよ風に乗って聞こえてきたのでした。

 娘はうつむいて首を横に振りましたが、すぐに顔をあげて嘆願するような眼差しで父を見ます。若者たちの真剣な表情に父はどうしたら諦めさせることができるのかを考え、ふとあることを思いつきました。


「ならば、お前の好きなパチンコで勝負だ。わしに勝てなかった時は潔く諦めるんだぞ。いいな。」

父は昔から勝負運が強く、ここぞという時は必ず勝ってきました。周囲も認める勝負強さを自負していましたので、負ける気はしませんでした。


「時間内に多く出した方が勝ちなのですね。がんばります。」

父の勝負強さは娘から聞いていましたが、認めてもらえるならばと、若者が娘の顔を見て微笑みました。


早速、近所にある「セブン会館」というホールにて対戦が始まりました。1時間後の7時の時点で出玉が多い方が勝ちとなります。


若者には何度もリーチがきましたが、なかなか勝利の女神は微笑みません。

一方父は昔の様相とは全然違う遊技台にしばらく戸惑っていたものの、持ち前の勝負強さで大当たりを連発。椅子の後ろに2箱分の玉を積んでいました。

 若者は大当たりが来そうで来ないハラハラドキドキを繰り返していました。


時間が経ち、まもなく終了の時刻です。残り時間を考えても既に勝敗は決まっていましたが、若者と娘は時間ギリギリまであきらめずにプレイしていました。対戦終了の7時になった瞬間、若者に最後のリーチがかかりました。二人は手を握りあって祈るように画面を見ます。

「きてくれー」

「お願い揃ってぇー」

二人の願いがかない、とうとう最後の最後に大当たりとなりました。

「最後にちゃんと当たって良かったね!!」

「うん、楽しかったなー!!」

それでもやっぱり父の出玉数には及びませんでした。しかし、父に負けたというのに二人とも嬉しそうな表情ではしゃいでいます。


ちょっと前まで父のそばを離れなかった娘が、今はずっと若者のそばで喜んでいます。

家では見せない楽しそうな表情の娘を父はただ黙って見ていました。


と、その瞬間、「おめでとうございまーす」お店のスタッフが駆け寄ってきました。

「本日7周年を迎えた、当セブン(7)会館で7時に大当たりを出した方に、スリーセブンのお祝いをさせていただきます。」

そう言って店内のスタッフが一斉に若者の周りに集まりました。

「記念すべきあなた様に、これからのご多幸を心より願い、スタッフ全員でエールを送らせていただきます! おめでとうございまーす!」「おめでとうございまーす」「おめでとう・・・」

スタッフたちの拍手とハンドベルの音につられて、周囲のお客様からも拍手が沸き起こりました。

「カランカラーン!カランカラーン!ぱちぱちぱちぱち!カランカラーン!カランカラーン!ぱちぱちぱち!」


 父がぼそりとしゃべりました。

「おいお前ら、一杯付き合え。

・・・でもまだ認めたわけじゃないからな。」

いつもの険しい表情が、ちょっと嬉しそうにも見えました。


カランカラーンカランカラーンと祝福の鐘が鳴っていました。

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