4項目 珍獣は見つけ次第確保だね?
◆??????
此処は何処?イヤ、分からないか。
じゃあどうなってるのさ?分かるわけないか寝てるみたいだし。
に、しても夢の中で自問自答が出来るってどーよ。
『――じょ』
は?誰よ?安眠妨害ならどっか行って。
『可愛らしいお嬢さん。私たちと遊ばない?』
男の声だ。確実に茂と晶ではない。
やだ。アタシは寝るの。分かるかしら。
『気持ちいいことをしてあげるから』
下心が丸出しね。恥ずかしく、ない、の?
あれ、おかしい。何か抗い難い衝動が。
駄目。意、識が、溶け、て、いく、トオイ、ナ。
『そうだよ。心に逆らっちゃいけないよ。さあ、起きて私たちと――』
アナタタチト
『――気持ちいいことをしよう』
キモチイイコトヲシヨウ
◆地下二十七階
此処からはエレベーターがあるようだ。
ホテルのグランドフロアーくらいの大きさの部屋がある。
「トホホ、エレベーターがあるのに素通りする事になるなんて」
聖の居所がソナー結果によって地下二十九階だと判明したため、あと二階程下に降りなければならない。
「聖を見捨てるという選択肢もあるが?」
「言語道断。んなことしたら出てきた時に聖に殺される」
茂がおどけて言う。
「それもそうか」
晶も苦笑しながら肯定する。
◆地下二十八階
未知の遭遇と言うのが漫画とかテレビとかであるだろうと思う。
二人は今、未知の遭遇をした。
「コイツは……」
「有り得ん……」
その未確認生命体は体が黄色く耳が長く、先は黒い。頬に赤い模様のようなものがあり、変わった形の尾をしておりそこそこ愛嬌がある。
一言で表すのなら――。
「何故こんなところにピカチュ○が生息しているんだ!」
晶はまじまじとピカ○ュウを見て
「よし、仕掛けは分かったぞ。だが……」
その手は震えている。
『攻撃出来ない……!』
恐るべしピ○チュウ。
種は細胞結合可能変化ウイルス。通称CCウイルス。
人工的に作り出されたウイルスで感染すると二つの症状を起こす事が出来る。
一つは他者の細胞の移植の際の拒絶反応の無視。
医療用に開発されたこのウイルスでの本来の使い方。
もう一つは細胞の変化。
感染した部位が全く違う物質になってしまう現象が起きるという報告がある。
あるキメラの実験中にこのウイルスにある電気信号を送った際に組織が変わったそうだ。
現在研究中の分野であり、完璧になれば絶滅動物や恐竜まで作れるやもと言った具合。
目の前の動物(?)は完全に後者のようだ。
『デチュー?』
「むう、罪悪感で攻撃出来ない……って茂よ、何しているんだ?」
茂はピカチュ○の近くで何かをしている。
「決まってるだろ、手懐けだ」
「……お前の珍スキルにはよく驚かされる」
○カチュウが仲間になった模様。
「しかしピカチ○ウじゃあ可哀想だな伏せ字だし」
「伏せ字?何のことだ」
作品上の都合です……。
「よし、お前は今から『スティーブ』だ!」
「なんでスティーブなんだ……」
『何でやねん!』
『………』
沈黙が降りた。
「うお、スティーブが喋った」
『喋るがな。自分、電気くらい発生出来るし声帯変えるくらいは分けあらへんがな。言葉はあらかじめ入力されていたから平気。何カ国語ぐらいはいける』
洗脳装置の一種や、とスティーブ(推定)が言った。
「じゃあ何て名前がいいんだ?」
しばらく考える素振りをしたあと、
『一応No.4649ってのがあったんやけど気に入らへんし、スティーブでええわ。下手に考えると変な名前なりそうやし』
「ヨロシク(4649)な名前……」
名前がスティーブ(暫定)に決定したところで先に進むことにする。
◆中二十八階
「時にスティーブよ。お前は敵か?」
『ほんまは敵なんやけど此処優遇悪いさかい、寝返るわ』
いささかあくどい○カチュウである。
「こっちも優遇悪かったら?」
『此処より悪い環境何てありまへんがな』即答だった。
「その言葉使いはエセ関西弁以外には出来ないのか?」
『出来ひんことはあらへんよ。あ』
「どうした?」
『この先はあれや、番猫おるさかい気ぃつけぇやー』
「番猫?何だよそれ」
『百聞は一見にしかず、や。ほら、来るで』
階段の下。そこにはライオンもどきがいた。
『番猫や』
「……この組織はライオンまでいるのか」
『ただのライオンとちゃいますで。CC細胞で凶悪に改造されおるよ』
ライオンもどきの体はみるみるうちに変形していった。
爪が刃になり、牙が更に鋭くなり、体毛が堅固になり、角まで生えた。
「変わり過ぎだ!」
『これがいっぱい居るんやで。ま、自分も似たようなモンやけどな』
ライオンもどきが突撃してくる。スティーブが攻撃体勢に入る。
『元祖実験動物の雷撃や。くらいや』
スティーブの額から雷撃の槍が迸る。
バチンと音がしてライオンもどきが一気に階段の下に転がり落ちる。
「スティーブ。頬から電気が出るんじゃ無いのか?」
どこぞやのゲームの話である。
『体の何処からでも出るわ。限定されてたら戦場じゃ死ぬで』
もっともな事を言うスティーブ。
『ただ、電気に特化してるからゴムかなにか、絶縁体を持ってこられたらどうにもならんがな』
とにかく下に行かねばならないのなら、あれらを倒して進む他ないのだと言う。
「何体待機してるんだよ、キメラ」
『そこまではちょっと分からんがな』
階段を降りきるとそこは、一面キメラの世界だった。
『は?』
◆地下二十九階
「侵入者及びサンプルNo.4649がサンプルNo.9434に接触した模様。交戦中です」
白衣を着た若い男が白衣を着た中年の男に報告する。
「データをとっておけ。あれらと戦う人間何かそう見れるものでもなかろう」
中年男の前には椅子に座った少女、聖がいた。
男は過術《侵入》の応用で催眠術をかけている。機械類又は脳などに侵入して操るといった芸等の術である。
中年男には邪な野望があって、実現するために催眠術を使う。
「くっくっく。もっと深くかかれもっと強く洗脳してやる」
部屋にはあと数人の男が居り、扉は外敵侵入防止と番猫遮断のために強く締まっている。
そのせいで内側からすぐに外には逃げれない。
少なくとも今までは逃げる必要がなかったのだから。
◆地下二十八階
「おいおい、こんなに多いなんて聞いてないぞ」
晶の過術《爆鎖》が発動。ニトログリセリンを内包した鎖がキメラに絡みつき、爆発する。
『ゆーてないからなー』
スティーブの腕から強力なスパークが散る。
「強いなスティーブ」
茂の過術《圧水》が起動。湧き出た水の圧力が深海レベルにまで達する。
飲み込まれたキメラの体がベコベコ歪んで潰れていく光景や凶悪なまでの電流で黒こげになる姿や爆発で中身をぶちまける光景は、はっきり言って食欲が減退する。
すざまじい勢いで数は減っていった。
『気持ち悪いがな……』
「俺らだってよかあない」
「やらなくて良いならしたくはない作業だ」
キメラの数体が集団で飛びかかってきた。
「捌ききれねえよ」
まず茂は正面の一体に《氷錐》を放つ。五本ほどの円錐形の鋭い氷が飛び、突き刺さるとともに一瞬にして凍結した血液が内側から飛び出る。
「だがミスれば死ぬぞ」
次に晶が《光断》を発動。クラス4レベルのレーザーがキメラに当たり続け、一気に焼き切る。
『そしていきのこらあかんのや』
スティーブの爪が電気信号により鋼鉄に変化。突進して来た左のキメラの足を切り落とす。
が、キメラの突進は止まらずスティーブに爪で攻撃。爪で受け止めるが体の小さいスティーブは競り負け、壁にぶつかる。
「大丈夫か!?」
スティーブは頭を撫でながら
『あたたたた、痛いがな。どうやらあいつら痛覚がないみたいや』
キメラを見ると血がダラダラ垂れているのに動きにくそうにもしない。
肉が露出しているのにも構わず床を踏み締めるだびに傷口からグジュグジュと痛々しい音が聞こえる。
「うげ」
そして襲いかかるキメラに雷撃の槍がぶつける。
「で、なんか出てきたし」
奥にある扉に行かねばならない(気がする)のに更にキメラは増える。
『此処はもう突破しかあらへんやろ。あれは野良猫を媒体にしとるさかいいくらでも出てくるで』
「猫なのか……ってどうした晶?」
見れば晶は俯き、ブルブルと震えている。
見て分かるのは絶対恐怖から来る震えではないということ。
「猫が媒体だと……?ここの研究者は……」
「お、おい?」
カッと目を開いた。
「正当に潰す理由を確保した。迅速に破壊・解体・処刑だ。ライオン改造ならまだしも猫を実験動物にするとは何様のつもりだ!?」
ライオンも猫科の動物である。
だがなんだかよく分からないが晶に火がついたようだ。
『……どないしたん彼?』
「壊れたみたいだ」
晶は泣きながら「成仏しろよ……!」とか言いながら《陥落》を発動。キメラの体内に一瞬、超重力場を発生させて破壊する。
続けて《爆鎖》《翔鉛》《光断》……気付けばキメラは居なくなっていた。
『かなり強いハズなんやけどな』
スティーブが唖然とした表情で言う。
「キレた人間ほど強いものはないのかもな。よし、聖が居るのはあの部屋か」
奥の扉に目を向ける。先ほどの騒ぎでも、壁と同様傷一つ入っていない。よほど重要なものがあるとみえる。
しかし重要箇所には大抵それなりのセキュリティーが設置されており、此処も例外なく電子ロックがかけられている。
解除しなければならない為に茂は《侵入》を使う。
「……解けたっと」
わずか二分。
「さて、開けるぞ」
ピ、バシャーという音がして扉が開き、階段を下りる。
微かに血の臭いがする。
と、そこには
『聖――!』
変わり果てた聖がいた。