3項目 良く切れるナイフは危険だね?
◆?????
暗い部屋にモニターと人影が二つ。
片方は椅子に座り、もう一人は椅子の横に立っている。
「くそ、なぜこうも侵入者達は強いのだ!」
少し高いが男の声。少し興奮気味なのか声はでかい。
「ボス、悪役は最後に笑うものですよ。ゆっくりと待ちましょう」
こちらは女の声。宥めるように言う。
「分かっている!少し口うるさいぞ!」
怒りの矛先は女に向いたようだ。
「申し訳ございません」
「ふん、まあいい。次の階の者なら何とかしてくれる」
「ところで、この暗い部屋でモニターは視力が落ちますよ?」
「……趣味だからしょうがないのだ」
「そうでございますか」
◆地下二十八階
「後、一階でエレベーター……」
やや疲れ気味の声で聖が言う。
「このくらいでへばるとはな」
「だらしないなぁ聖は」
「何でアンタたちは涼しい顔してんのよ」
茂と晶には疲れが見えない。
「だって俺等はちゃんとトレーニングしてるし」
「勿論、毎日欠かさずな」
「えーえー。どうせ体力ありませんよー」
「そう拗ねるな。平均よりずいぶん上だろう?」
「そうそう。覚えてる過学式も多いし」
「そっちはある程度頑張れば誰にでも出来る事よ」
「体力もある程度頑張れば付くものだ」
「ぐ、どうせ努力不足ですよーだ」
聖が心にダメージを受けた。
そのとき右の壁が不自然にひび割れて崩れた。
刃が突き出て伸びた壁をぶった切る光景はなんというか、おかしい。
「今度は誰?」
「やりやすい相手希望」
「そりゃ無理だ。あの型のナイフを使う犯罪者はあんまりいないし」
煙が晴れて姿を見せたのは長身痩躯の男。
体にぴったりのスーツに上着。眼はどうやってモノを識別しているんだってぐらいに見事に両方共に白目。
手足も異様に長い。
その両手には奇妙な形のナイフが握られていた。
「刃渡り約二十三センチ、フランベルジュの様な形状の刃。特殊ナイフ『ピアース』ね。それを持ってる犯罪者、アンタは足達康貴か。数年前に脱獄したって事だけどこんなところに」
「だからアンタは何でそんなに詳しいのよ?」
「気にするな。来るぞ!」
足達はニヤリと口を歪めだらりとした体勢のままロクに構えもせずに消えた。
「何処!?」
「聖飛ぶときに何か防御系列の式を発動してから後ろへ!急げ!」
聖は指示通り後ろに飛ぶと同時に《空気層》を展開。
上から降ってきた足達は聖に向けて『ピアース』を振るう。
「んな阿呆な」
バターのように《空気層》が切断され、『ピアース』が減速。
結果、聖にぎりぎり当たらずに終わる。
動作を終えていわゆる『死に体』の足達に茂が《氷結槍》を放つ。完璧なタイミングで発射された液体窒素の槍が足達を捉えて終わる、ハズだった。
しかし足達はモーションし終わって動きにくいはずの体勢のまま再度消える。
「晶後ろ!」聖がそう叫ぶ。
晶は後ろに向けて《飛鉛》を放つ。先程作った筒から空気圧で鉛弾が飛び出す。
しかし後ろに足達の姿はなく、壁に被弾する。
晶が急いで前を向きなおすともう『ピアース』を振り下ろしている足達がいた。
「クソッ!」
とっさに金属棒を盾にしようとするが、カンッという音と共に簡単に切られてしまった。
「な」
当然斬られた棒の下には晶がいるわけで。
すっと『ピアース』が入り込み、出て行った。
なんの音も無く筋肉繊維を引き千切らずにナイフが通ったと言う事は切れ味とか気にするより当たるとマズイと考えた方がいい。
そして鮮血が迸る。
傷は浅くは無いようだ。肩から腹にかけて出血している。
「っ、う」
聖と茂が晶に寄る。
「大丈夫!?」
「じゃあ無いだろ。良かった内臓までは行って無いな」
「ああ、何とかな。バッサリいったな」
晶は自分に《治癒》をかける。皮膚に傷を負うと、そこに大きな電位差が生じる。活性化して、修復しようという動きに更に代謝を引き上げると言った芸当だ。
足達はナイフに付着した晶の血をいとも美味しそうに舐めとる。
「うげ」と聖。
「悪役かよ」と茂。
そして足達が初めて口を開いた。
「あ〜、美味しいな。やっぱり飲み物は血に限るよ」おおよそ顔に似合わない綺麗な声だった。
『……』思わず唖然とする三人。
「次は、ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な。……こっちっと」茂の方だ。
「いやいや、俺より聖のが美味しいよ!」
「なっ。アンタねえ人を身代わりに……!」
喧嘩が始まりそうな二人に
「美味しいか不味いかは俺が決める事だ」
『ごもっとも……』
「そして美味しければ残らず啜り、不味ければ八つ裂きだよ」
『それはおかしい!』
足達は前の悪人面に戻る。
「第二ラウンド開始だな」晶の傷も癒えた模様。 足達はまたしても前触れなく消えた。
「そこだ!」
茂は《水没》を展開して、水を作り出す。
首目掛けて飛んできた『ピアース』を間一発回避して更に水量を上げる。
「準備完了。うぉ、首痛てぇ」
「茂、首から血が出てる。動脈に傷が入ったんじゃないと思うから大丈夫。多分」
密度を下げて周りに拡散。床が三人を避けるように水浸しになる。
「攻撃を当てるにはどうするかじゃなくてどうすれば攻撃が当たるのか、逆転の発想。答えはこうだ!」
水に《発雷》を流した。床を高圧電撃が這い廻る。
足達は飛んで回避する。そのまま茂の上へ。
上から攻撃すれば水に触れる事なく殺せると踏んだ行動だったのだろう。
しかし茂は自ら高圧電流が流れる水たまりに飛んだ。
一見自殺行為に見える行動だったが着地点の水が、避けた。
「――ホント、魔法だよな」
変わりに足達の着地点は押し出された水に浸って行き、足が着いた。
「 、 !!」
高圧電流、数百万ボルトの電流が足達の体を蹂躙し、声にならない叫びが足達の口から迸り、途絶えた。
「死んだか?」
「さあな。だが動きはしていない。次に行くぞ」
「やっとエレベーターなのね!」やたらと元気な聖がさっさか登って行こうとする。
「おい、先に行くと何がいるかわからねえぞ」
「不用心な奴だ」
階段を登って行く茂と晶の目の前、数歩先を行く聖がいきなり消えた。
『は?』
事態について行けない二人は一瞬、ポカンとしてから我に返り聖が消えた地点に近寄った。
そこには落とし穴らしき仕掛けがあった形跡が。
「……落ちたのか」
「……落ちたんだろ」
壁やら床やらをいろいろ調べても一向に開く気配はない。
「しょうがない。何処へ落ちたかくらいは調べておこう」
「そうだな……って何だよその目は?」
晶がジッとこちらを向いてる。
「え、もしかして俺がやるのか?」
晶は『当然だ』と言うように首を縦に振った。
「ったく。しょうがねーなー」
茂はそう言うと過術《探査》を組んだ。指先からソナーが出て跳ね返って来たのを分析。
「滑り台みたいになってるな。下の方にまた部屋があるらしい」
「つまりはまた下に降りると……」
「あ、おい待てよ」
戻りかけた晶を茂が呼び止める。
「どうした?」
「いや、先に進まないといけない。滑り台に地図っぽいものが張ってあってそう書いてあったんだ」
誰が見るのかと言う突っ込みはない方向で。
「ふむ、なら従うか」
遅筆ですいません……