第一話 繰り返される退屈な日常
「はぁ…」
私は本日五回目のため息をついた。
いいことなんて一つもない。毎日、同じ退屈な日常が繰り返されているだけ。
日常に絶望している私は近藤花梨。高一。
私は今、部活をするために音楽室へ小走りで向かっている。
部活なんか、本当はしたくない。私は幼なじみの三月香苗に付き合って吹奏楽に入っただけだ。
その香苗はたった五ヶ月で吹奏楽をやめてしまった。なんか、練習が思ったよりきつかったらしい。
なんて、香苗は自分勝手なんだろう。まぁ、今回に限ったことではないが。
香苗とは、幼稚園から今までのずいぶん長い付き合いだ。その付き合いの中で、約束をすっぽかされたり、裏切られたりしたことは何十回もある。だから、今更これくらいで何とも思わない。
それより腹立つのは自分だ。
私も香苗に続いて吹奏楽を辞めたかったのに、他の人の目が気になって辞められずにいる。
あぁ、イライラする。
そんな事を思っているうちに、音楽室の扉の前についた。
「…はぁ」
私は本日六回目のため息をつくと、扉を開けた。
「…こんにちは」
私の儀式的なあいさつを、他の部員達はダルそうなバラバラなあいさつで返す。
で、それが終わると、私はさっさと部員指定の鞄の置き場所にカバンを置いて、自分の楽器を取りに行く。
私が吹いている楽器は、ユーフォ二アム。略してユーフォ。
金管で低音の代表的なチューバの小さいバージョンと思ってくれていい。ユーフォ自体は中音だけどね。
うん?チューバが何かわからない?
えっと、チューバはとにかくでかい。それ以外説明しようがないんだよな…。
うん。説明、以上っ。
私はユーフォが大好きだ。
メロディやソロがたくさんあるし、何より音が好き。
だけど…、吹奏楽は人間関係が難しい。
吹奏楽はかなり個性的な人達が集まるから、正直、私にとっては付き合いにくい人達ばかりだ。
だから、吹奏楽を辞めたいと思う。
「花梨ちゃん」
私が楽器ケースからユーフォを取り出していると、ホルンの三年の先輩で部長でもある━荒井美里先輩が声を掛けてきた。
「…なんですか?」
私はあからさまに話しかけて欲しくないという、雰囲気をにじませながら答えた。
荒井先輩はそんな私の様子にたじろぎながら、口を開く。
「いや、実はね…、吹奏楽に入りたいっていう一年がいてね…」
「えっ!?この時期にですか?」
いまは十一月。この時期に入りたいなんて…。
「うん。それで、ユーフォに入りたいって…」
私が顔をしかめたのを見ると、荒井先輩は慌てた。
「あぁ。だけどその子は経験者みたいだから、教えてやる必要はないし、大丈夫よ。で、その子明日の部活から来るらしいから。えっと、仲良くしてやってね。」
そう急いで私に言うと、荒井先輩はさっさと椅子に置いてあったホルンを持って練習場所に行ってしまった。
仲良くなんて冗談じゃない。
今までユーフォは私一人だったから、練習時間が心休まる時だったのに…。
最悪。どうしよう…。
「かーりんちゃんっ」
私の背後から甲高い声が聞こえた。
私が振り向くと、その声の主はにっこり微笑んだ。
彼女は一年でクラリネットを吹いている駿河美鈴。
長い髪を一つに束ねていて、その髪の毛先がくるんっとカールしている。顔は可愛い系だし、言動も可愛いから、男子にモテているらしい。
正直、話したことは数えるほどしかないのだが…。
「…駿河さん」
「もうっ。やだっ。駿河さんじゃなくて、美鈴って呼んでよ~。私と花梨ちゃんの仲じゃない」
だから、話をしたことあんまりないんだって。仲もクソもあるかい!
と、私はツッコミをしたが、無論口には出していないので、駿河さんは話を続けている。
「でさ、花梨ちゃん。定演の曲吹けてるぅ?」
定演とは定期演奏会のこと。私の高校では毎年三月に吹奏楽の部員達だけで演奏会を開いている。三年の先輩達にとっては最後の大舞台だ。
「うん。…まぁまぁかな」
「さっすが、花梨ちゃん。ユーフォ、うまいもん。経験者だものねぇ」
駿河さんは浮かれた声で言う。
そう。私は中学の時もユーフォを吹いていた経験者。だから、一人でユーフォを吹けた訳だが…。
部活のつらさを中学で十分わかってたはずなのに、なぜ香苗に合わせて入っちゃったのか…。
昔の私を呪いたい。
「だけどさぁ、ユーフォに誠くんが入るんでしょ?定演までに誠くん間に合うかなぁ…?」
「えっ、誠くんって誰?」
…まさか、男子?
「えぇ?知らないのぉ?清水誠くん。超イケメンじゃん。花梨ちゃんが羨ましいっ。同じパートだなんて」
いやいや、そんなに羨ましいんだったら代わってあげるよ。
男子なんて冗談じゃない。
イケメンだろうがなんだろうが嫌だ!
「でさっ、花梨ちゃんにお願いっ」
駿河さんは勝手に話を進める。
「誠くんが入部したら、メアド交換するでしょ?そのメアドを私に教えてくれないかなぁ?」
駿河さんは可愛らしく小首をかしげ、両手を合わせて私を見上げる。
私の顔に冷や汗を流れるのを感じる。
多分、いや絶対メアドなんて、聞かないと思うけど…。
「…うん。わかった」
私の口がそう勝手に口走っていた。
あぁ…。バカ。なんで断らないのよ。
そう思ったが、後の祭り。
「はぁ…、もう最悪…」
今日は何回ため息をつくんだろう?
私は一人、頭を抱えた。
こんにちは(^O^)/
はじめまして!桜坂 美雪です。
初めて小説を書くのでドキドキしています(・_・;)
まだラブっぽいところは全然ないですが…。
というか、それ以前に男子すらまだ出てきていません…。
こんな作者ですが、気長に付き合ってやってください(^_^;)