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【青春BL】王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。  作者: k-ing


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32.似たもの同士の二人

「まずはお味噌汁からですね。おだしを取るのは大変なので、だしの素を使います」


 僕は鍋の中に適量のだしの素を入れる。


「入れすぎると不味くなるので、気をつけてくださいね」

「たくさん入れれば、だしが濃くなるってわけではないんだね」

「苦みが出てくるというのか、化学調味料の味が強くなりますね」

「ほぉ……そうなのか」


 朝陽先輩は必死に覚えようと、スマートフォンに作り方をメモしていた。


「ある程度沸いたら、豆腐とわかめを入れて、少し煮たらお味噌を溶いて、ねぎを入れたら完成です」

「……それだけ?」

「うん。それだけです」


 お味噌汁って結構放置しておいてもできる万能なスープだからね。


「親子丼もそんな感じですよ。じゃあ、やってみましょうか」


 僕は後ろから作り方を指示して、朝陽先輩に全て作ってもらう。

 少しバタバタとしているが、慣れれば問題はないだろう。


「直は料理ができてえらいね」

「僕の場合は父さんが事故で亡くなったから、働く母さんのために作ろうと思ったのがきっかけかな」

「そうか……同じ環境なのに俺とは違うね」


 そう言って、朝陽先輩は仏壇の方に目を向けた。


「俺の父さんも小さい頃に亡くなっているんだ。まあ、病気が回復したり、再発したりを繰り返していたけど、母さんはそれを覚悟で結婚したらしいけどね」

「朝陽先輩も大変だったんですね」

「んー、そうなのかな。俺よりも母さんが大変そうだよ」


 そういえば、朝陽先輩とは家族の話をあまりしたことがなかったな。

 知っているのはお母さんが看護師で夜勤専属で働いているぐらいだ。


「俺がバスケをやり始めたのも父さんが唯一教えてくれたスポーツなんだ」

「お父さんはバスケが好きだったんだね」

「うん。元気な日に父さんに教えてもらったのはよく覚えているよ。だから、高校に行ってもバスケがしたくてね……」

「だからバスケの強豪校であるうちを選んだんですね」


 朝陽先輩は手を止めて、ただ一点を見つめていた。

 高校でバスケをすることで何かあったのだろうか。


「そうなんだ。だけど、お金がかかるから、母さんが夜勤専属で働いてるんだよね」


 どこか申し訳なさそうに話す朝陽先輩の手を僕はギュッと掴む。


「それならお母さんのためにも全国大会に行かないとダメですね」

「そうだな。直が応援してくれるから勝てそうな気がするよ」


 ふと、嬉しそうに笑う朝陽先輩に僕も微笑み返す。

 だけど、料理中に目を離したらいけないね。


「あっ、お味噌汁が沸騰してるよ!」

「おっとと……溢れずにすんだね」


 お互いに目を合わせて笑う。

 その後も料理を作りながら、僕たちの知らないことを話した。

 朝陽先輩の過去や普段の休みの過ごし方。

 そして、一番驚いたのは――。


「朝陽先輩って付き合ってる人いないんですね」

「ずっとバスケ一筋だからね。直は?」

「んー、僕はあまり恋愛のことわからないです」


 朝陽先輩に一度も恋人ができたことがないという事実になぜか嬉しくなった。

 ただ、興味があって聞いただけなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。

 きっと僕も誰かと付き合ったことがないからだ。

 朝陽先輩と同じだったことが、なんとなく嬉しかった。

 仲間意識ってやつかな?


「なんか……僕たち似てますね」


 ぽつりと呟くと、朝陽先輩は優しく笑った。


「ああ。だからかな」

「何がですか?」

「直といるとなんだか安心するんだ」


 その一言に胸がどくりと鳴る。

 料理の湯気で熱くなっただけ。

 そう思おうとしたのに、顔の熱はなかなか引いてくれない。


「朝陽先輩、もうできてますよ!」


 誤魔化すかのように、用意したお皿に盛り付けていく。


「あっ……朝陽先輩……」

「どうした?」

「ご飯って一人で炊けますか?」

「あっ……」


 朝陽先輩の動きが止まる。

 今日は朝陽先輩のお母さんが事前にご飯を炊いてくれていたけど、朝陽先輩が一人で料理するとなったら、自分でご飯を炊かないといけない。


「もしかして……」

「炊飯器の使い方よくわからないかも」

「えぇ……」


 炊飯器と睨めっこする朝陽先輩。

 不器用って言っていたけど、本当に不器用な気がしてきた。

 まさかそこからだったとは思わなかった。


「じゃあ、今度はご飯の炊き方を教えましょうか?」

「お願いします」


 朝陽先輩の顔がぱっと明るくなる。


「よかった。また直に料理を教えてもらえるね」

「そんなに楽しみなんですか?」

「うん」


 迷いのない返事にまた胸が小さく跳ねた。

 この気持ちはなんだろう。

 僕もまた朝陽先輩と一緒に料理をするのが楽しみになっていた。


「じゃあ、次はご飯の炊き方からですね」

「約束だからな」

「はい、約束です」


 そんな会話をしながら、僕たちは出来上がった料理をテーブルへ並べていく。

 料理を教えるのは一回きりの約束だと思ったけど、どうやら僕たちにはまだ次の約束が残っているようだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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