26.二人三脚はハードな競技です
競技集合場所に到着すると、悠人はキョロキョロ周囲を見回していた。
すでに足首を紐で固定している人たちもいるから、僕が最後なのかもしれない。
「直、どこ行ってたんだ?」
「ごめん。トイレに――」
「長いうんちをしてたんだな!」
「おい!」
僕は悠人の口をすぐに塞ぐが、周囲の視線は僕に集まっていた。
「うんちじゃなくて――」
「小川、はやく準備するんだぞー」
「あはは……はい」
すぐに遅れた言い訳をしようとしたが、担任にその機会すら奪われてしまった。
隣でケタケタと笑う悠人の足を踏む。
「お前たち本当に仲が良いな。俺のためにも頼んだぞ!」
「任せてください!」
肩を組む悠人を引き剥がそうとするが、力が強く僕は渋々諦めた。
こんな状況で本当にどうにかなるのだろうか。
僕たちは急いで足を紐で固定する。
『次はチーム対抗二人三脚です』
「じゃあ、姿勢を正して入場しろよー」
放送部のアナウンスの合図とともに、僕たちは入場していく。
「直、行くぞ!」
僕と悠人は一歩踏み出した。
「うぉ……」
「おいおい!」
その場で倒れそうになる僕を悠人は抱き寄せた。
「右足からって約束しただろ!」
「いや、だから右足……」
僕と悠人はお互いに視線を合わせた後に、足元を確認する。
「「あっ……」」
そこでお互いに気づいた。
体育で練習している時と反対の足に紐が結んであることを。
「だから違和感があったのか」
「気づいてたら先に言ってよ」
すぐに結び直そうとするが、固く結んであるから中々外れない。
それに――。
「お前たち早く入場しないか!」
気づいたら入り口ゲートに僕たちだけが残されていた。
「ほら、行くぞ!」
「ちょ……」
悠人は僕の脇の下に手を入れ、足を上げた。
身長差があるため、若干浮いているような気もするが気にしていられない。
早くしろと視線が集まっているからね。
声を合わせて目的地に向かう。
「この走り方よさそうだな」
必死な僕とは違って、呑気な悠人は特に気にしていなかった。
『チーム対抗二人三脚リレーを始めます。同じクラスの仲間にたすきを繋げ、勝った順番でチームに得点が付与されます』
目的地に着くと、すぐに順番に並んでいく。
「俺たちは四番目だから、前の人が行ったら並ぶぞ」
「足を引っ張らないようにするよ」
「ははは、きっと直は転ぶだろうな」
悠人が声を上げて笑っていると、ピストルの音が鳴り響く。
各チームが走り出したと同時に笑い声が聞こえてきた。
「これなら大丈夫そうだね」
思ったよりもよろけながらあたふたとしている人たちが多かった。
前の組にたすきが渡されると、僕たちも肩を組んで列に並ぶ。
「テンポよく声を出して走るからな」
「ちゃんと合わせてよ?」
「任せろ!」
悠人は笑っているが、僕は心配で仕方ない。
運動音痴って運動が得意な人からしたら、想像もつかないからね。
しばらくすると、同じ色のTシャツを着た先輩たちがやってきた。
「悠人、頼んだぞ!」
「先輩、任せてください!」
どうやら同じバスケ部の先輩なんだろう。
たすきを受け取ると、先輩たちは僕と悠人の背中を軽く押した。
「あっ……」
「っえ!?」
僕は押された勢いでそのまま倒れていく。
悠人はその場で踏ん張っていたが、僕は地面に思いっきり転んでしまった。
「おい、直大丈夫か?」
「うおおおおお、大丈夫か? お前、気合い入れに押しすぎだぞ!」
「いや、俺そんなに押してないぞ!?」
悠人と先輩たちはその場であたふたとしていた。
周囲から笑い声も聞こえてくる。
僕は体を起こそうとするが、再びバランスを崩して倒れた。
だから、運動音痴を舐めてかかると危ないんだから。
さっきまで一番前にいたはずなのに、僕たちの横を他のチームの生徒たちが通り過ぎていく。
「おい、追い抜かれるぞ!」
「早く立て!」
先輩たちも手伝って立たせてくれるが、片足が固定されているから、中々立つのも大変だ。
悠人も僕と一緒に二人三脚をやったばかりに先輩に文句を言われ――。
「ははは、やっぱり転んだな!」
いや、悠人は僕が転んで楽しそうに腹を抱えていた。
さっきまでケガの心配をしていたのに薄情なやつだ。
「ちょ、笑うなよ!」
「だって、直が転ぶなんてわかりきってるだろ!」
そう言って、悠人は僕の体に手を回して引き寄せる。
「ちょっと俺の体に抱きつけ」
「抱きつく?」
僕はわけもわからず、そのまま悠人の体に手を回す。
すると、悠人は僕の腋と足から腕を通した。
「よし、これでいくぞ!」
「はぁん!?」
そのまま持ち上げると、僕の体はふわりと浮いた。
これでも普通の男子高校生並みの体重なのに、悠人は軽々と僕を運んでいく。
これって二人三脚と言えるのだろうか。
「ははは、お前らなんだよ!」
「いけいけ! ははは、頑張れ!」
周囲からも笑い声と応援する声が響く。
ただ、悠人のおかげで僕が転んだことはなかったかのように感じる。
気づいた時には悠人に運ばれたまま、同じチームにたすきが渡っていく。
「ははは、俺たち速かったぞ!」
「なんかごめんね?」
僕は悠人に謝ると、首を傾げていた。
「何言ってるんだ? 見てみろよ!」
悠人に顔を無理やりあげられ、周囲を見回す。
「みんなマネしてるぞ」
僕たちの格好をマネして、様々な方法で持ち上げて走る生徒たちが多くいた。
やはり普通に走る方が難しいのだろう。
「やっぱり運んだ方が効率がいいってことだな。それにしても、ちゃんと飯食べてるのか?」
悠人は僕の服をめくって、お腹をペチペチと触る。
「おい、やめろよ!」
「まあ、昔よりは肉はついているな」
どこか安心したように悠人は笑っていた。
しばらくすると、全チームの最終組が走り終わり結果発表となった。
『ただいまの結果……全チームが不正行為を行ったため、失格となりました』
放送部からのアナウンスが流れると、グラウンド中が笑いに包まれた。
あれは二人三脚でもないから仕方ない。
「やっぱりダメだったか」
「そりゃー、一人浮いてたらダメでしょ」
僕の言葉に悠人は笑いながら肩を組む。
「まあ、いい思い出になったでしょ!」
悠人の言っていることは一理ある。
あれだけ嫌だと思った体育祭で転んだのに、僕の中では楽しかったって感覚が残っているからね。
「悠人のおかげだな」
「ははは、いつも素直だったらいいのにな!」
そう言って、僕の頬を突く悠人。
「いつも素直だよ!」
僕は笑いながら、悠人の手を弾いた。
競技が終わったためみんな帰ろうとする中、僕たちはそのままグラウンドに立っていた。
「んー、中々外せないな……。よし、ちゃんと掴まれ!」
「えっ……!?」
紐は思った以上に固く結ばれていて、中々ほどけなかったようだ。
悠人は当然のようにさっきみたいに僕を抱え上げた。
「ちょ、ゆっくりほどけば……」
「ここにずっといたら邪魔になるから我慢しろ!」
周囲の笑い声を聞きながら、僕はそのまま悠人に抱えられてチーム席まで運ばれていく。
その時ふと朝陽先輩と目が合った。
だけど、朝陽先輩は笑っていなかった。
何かを考えるような表情のまま、僕と悠人から視線を外す。
「……朝陽先輩?」
呼んでも届くはずもなく、朝陽先輩はそのまま席を外して競技の待機場所まで歩いていく。
その時の僕は、朝陽先輩がどんな気持ちでその光景を見ていたのか、まだ何も知らなかった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします(*´꒳`*)




