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【青春BL】王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。  作者: k-ing


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20.秘密の夜練

 バイトが終わると、いつものようにお店の前で朝陽先輩が待っていた。


「直のお母さん! 直を借りていきますね」

「あっ、今日からダンスの練習をするのよね?」


 そう言って、母さんは何かを持ってきた。


「動いたらお腹も減ると思うから、休憩に食べなさい」

「助かります!」


 容器に詰めた唐揚げと小さなおにぎりを朝陽先輩に渡す。

 最近は朝陽先輩が来るのにも慣れたのか、母さんもよく話すようになった。

 まさかそんなものを用意しているとは思ってもなかった。


「あれ? 朝陽先輩ってご飯食べてから来てるんですよね?」

「ん? そうだけど?」


 何食わぬ顔で母さんから唐揚げを受け取っていたが、相変わらず底抜けの胃袋は健在のようだ。


 僕たちはそのまま近くにある公園に向かった。

 ここで三十分から一時間ほど練習してから、買い物をして帰れば、ちょうど母さんが家に帰ってくる時間に間に合うだろう。


「じゃあ、早速始めようか」

「えっ、もう覚えたんですか?」

「事前に動画はもらっていたから、ほとんどは踊れるよ」


 さらっと答える朝陽先輩に驚く。

 同じ動画を見たはずなのに、どうしてあれだけで覚えられるんだろう。

 いくらスロー再生しても追いつけなくて、僕には無理だと思って諦めていたからね。


「最初はワックの動きから覚えようか」


 朝陽先輩は数字を数えると、ゆっくりと動きの見本を見せてくれた。


「こんな感じだけど……」

「もーっとゆっくり動いてください」

「くくく、わかった」


 ただ、ゆっくりと言っても、数える間に動きがたくさんあるから、僕からしたら倍速に動いているように見える。


「じゃあ、まずは腕を肩から大きく回して、ここで止める。それから反対に――」


 実際に見ると簡単そうなのに、いざやってみるとゆっくりでも全然違う。


「こう……ですか?」


 今まで動かしてこなかったような関節の動きをするから、腕が迷子になっている。

 それに勢いよく腕を回したつもりが、肘だけが忙しく動いてしまう。


「くくっ」

「笑わないでください」

「ごめん。どこかペンギンが羽ばたいてるみたいで」

「そんなにですか……」


 自分では真面目にやっているだけに少しへこむ。


「直らしくて可愛いよ」

「それって男子高校生に使う言葉じゃないです!」


 可愛いと言われて、喜ぶ男子高校生は少ないはず。

 でも、モテモテの朝陽先輩に言われると、どこか嫌ではない自分もいた。


「ほら、しっかり肩を使うんだよ」


 朝陽先輩は僕のすぐ後ろに立ち、ゆっくりと手を回してきた。


「えっと……」

「力を抜いて」


 そう言うと、朝陽先輩は僕の手首を軽く持ち、そのまま腕を大きく回した。


「肘じゃなくて、肩から」

「肩から……」

「そう。その軌道を覚える感じ」


 朝陽先輩の腕に合わせて動くだけなのに、不思議とさっきより動かしやすい。

 だけど、僕の背中に当たる朝陽先輩の胸の鼓動が背中に伝わってくる。


「できそう?」


 声をかけられ、視線を上げると朝陽先輩と目が合った。


「すっ……少しだけ」


 こんなに近くから見上げることはなかったから、あまりの恥ずかしさにすぐに視線を下げる。


「じゃあ、今度は一人でやってみて」


 朝陽先輩が離れると、僕は言われた通りに動かしてみる。


「おっ、今のはいい」

「本当ですか?」

「ああ。その調子」


 笑顔の朝陽先輩になぜか僕はドキッとしていた。

 その後も何度か同じ動きを繰り返す。


「今の良かったよ!」


 褒められるたびに少しずつ体が動くようになっていき、気付けば最初より腕も自然に回るようになっていた。


「最初はどうなることかと思いましたけど、なんとかなりそうですね」

「ただ単に体を動かすことに慣れてないだけだよ」

「そうなんですか?」

「うん。だから焦らずゆっくりやっていこう」


 その言葉だけで不思議と苦手なダンスも頑張れそうな気がした。

お読み頂き、ありがとうございます。

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