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【青春BL】王子様と呼ばれる先輩を餌付けしたら、毎日会いに来るようになりました。  作者: k-ing


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17/40

17.思い出の料理

 その日の夕方。

 僕は家で勉強していると、一通のメッセージを受信した。

 スマートフォンの待受には朝陽先輩と書かれていた。


『今日は応援しにきてくれてありがとう。もっと話したかったな』


 どうやら僕が応援に来てくれたことへのお礼だろう。

 きっと試合に来てくれた人たちにメッセージを送っているのだろう。


『県大会出場おめでとうございます! バスケの試合を初めて見たけど、迫力がすごかったです』


 僕はすぐにメッセージを送ると、すぐに既読がついた。

 あまりの既読の早さに、僕はびっくりしてしまった。

 人気者の朝陽先輩は連絡もマメな人なんだろう。


『ありがとう! 直はすぐに俺の話を流す』

「流す……?」


 流すってどういう意味だろう。

 そう思った瞬間、突然スマートフォンが鳴り出した。

 朝陽先輩から着信がかかってきた。


「はい、直です」

「あっ、本当に出た」

「いやいや、さすがに出ますよ」

「ふーん……俺の話は流すのに……」


 耳元でどこか拗ねたような朝陽先輩の声が聞こえてきた。

 さすがに急に電話がかかってきても、出れる状態なら誰でも出るだろう。


「どうかしました?」

「いや……? せっかくだから声が聞きたくて」

「あー、だから電話なんですね」


 直接県大会出場のお祝いの言葉が聞きたかったのだろう。

 確かにメッセージと電話じゃ違うもんね。


「県大会出場おめでとうございます」

「……はぁー」


 耳元で朝陽先輩は大きなため息を吐いていた。

 あれ? 何か間違えたのかな?


「違いましたか? んー、それならお弁当美味しかったですか? いや、これだと朝陽先輩の感想だし――」

「くくく、なんか直らしいなと思って」

「そうですか?」

「うん」


 なぜか朝陽先輩は電話越しで楽しそうに笑っていた。

 何が正解かはわからないけど、喜んでくれているならいいや。


「今日のお弁当も美味しかったよ」

「よかったです! 少しでも力になれましたか?」

「直のお弁当のおかげで勝てたようなものだからね」


 よほど勝てたのが嬉しいのか、今日の朝陽先輩は饒舌で冗談をよく言っていた。

 他愛もない学校の話や、お弁当の話、県大会の話。

 気づけば時計の針は20時を回っていた。


「そろそろ母さんも仕事から帰ってくるので、ご飯の準備をしてきますね」

「直とたくさん話せてよかったよ」


 そう言って、僕たちは電話を切った。

 スマートフォンに記載されていた時間は二時間を超えていた。

 こんなに長いこと電話をしたのは初めてだ。

 朝陽先輩と話していると思ったよりも時間が短く感じた。


 しばらくすると、玄関の扉が開く音がした。


「ただいま!」


 お店を終えた母さんが帰ってきた。


「おかえり!」


 僕はキッチンへ向かい、お味噌汁を温め直す。

 

「朝陽くんの試合どうだった?」

「勝って県大会に行けるみたい。それに悠人もレギュラーで出てた」

「悠人くんも出てたの!? よかったわね」


 母さんは部屋着に着替えながら、ふっと笑った。


「さっきまで電話してたんだけど、気づいたら二時間も話してたよ」


 温めたお味噌汁と親子丼を置いて待っていると、着替えを終えた母さんがどこか楽しそうに目を細めていた。


「最近、朝陽くんの話ばっかりね」

「そう?」

「直って良いことがあると親子丼を出すじゃない」


 母さんに言われて僕はハッとした。

 今までそんなことを考えたこともなかった。

 急いで作れるから親子丼を作ったつもりだけど――。


「私が仕事でご飯の準備ができない時のために、一番初めに教えた料理も親子丼よ」

「父さんが亡くなって、母さんが一人でお店を切り盛りすることになった時だっけ……」

「ええ。あの時は直を育てるのに必死だったからね。こんなに大きくなって」


 母さんはどこか嬉しそうに僕の頭を撫でていた。

 綺麗だった手も今では火傷の痕や手荒れで、胸が締め付けられる。

 僕ができることってお店を手伝うことぐらいだからね。


「それなのに朝陽くんに大事な直を取られて悲しいわ」

「そうなの?」


 母さんはどこか悔しそうな顔をして笑っていた。

 その言葉を聞いて、僕は首を傾げる。


「だって、今日も試合の話とお弁当の話、電話の話。それに昨日は買い物、一昨日はコロッケ……数えたらキリがないわよ」


 指を折りながら数えられて、僕は思わず苦笑いした。

 確かに最近は朝陽先輩のことばかり、母さんに話している気がする。


「毎日会ってるからかな」

「ふふっ。さぁ、早くしないと直の美味しい親子丼が冷めちゃうわ」


 なんだか意味深な笑い方だったけど、僕には何がおかしいのかわからない。

 僕たちは手を合わせて、久しぶりの親子丼に手を伸ばした。


「良いことがあったら親子丼を作るのか……」


 僕の中で朝陽先輩との時間は少しずつ特別なものになっていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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