11.いつもと違うお弁当
「今日、やけにソワソワしていないか?」
「そんなことないよ?」
悠人に声をかけられて、僕は首をかしげた。
「いや、さっきから時計ばっか見てるし」
「そうだっけ?」
「それに、そのリュック何回開けた?」
言われてみれば、お弁当が片寄っていないか気になって何度か中を確認していた気がする。
ロッカーには教科書が置いてあるから、リュックは机の横にかけている。
少し斜めになるから、無意識に気にしていたのだろう。
「ちょっとお弁当が気になって」
「直がお弁当を気にするなんて珍しいな」
悠人は不思議そうに笑う。
「新しいおかずでも入ってるのか?」
「まあ……そんな感じ」
嘘ではない。
今日はいつもより量が多いし、初めて母さん以外にお弁当を作ったからね。
「ふーん、それなら昼に少しもら――」
「悠人はミーティングがあるだろ?」
「おっ、そうだった」
そろそろ試合も近いから、休み時間もバスケ部の同級生たちと話している姿をよく見かける。
「それに授業に集中しないとダメなのは悠人だよ? テスト前に頼ってきても、何もわからないと教えられないからね」
「くっ……」
僕は授業中に悠人が何かやっていることを知っている。
悠人はどこか気まずくなったのか、そそくさと席へ戻っていった。
チャイムが鳴り、次の授業が始まる。
やはり足元にリュックが当たれば、自然と視線が向いてしまう。
唐揚げは冷めても美味しいかな。
卵焼きの味は大丈夫だろうか。
そんなことばかり考えていると、四時間目の終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
僕は自然とリュックへ手を伸ばす。
大きなお弁当箱が入ったリュックを背負い、校舎裏へ向かった。
昨日より少しだけ重いお弁当。
さすがにお弁当だけを持ち歩くと、周囲からの視線が気になって、リュックごと持ち出した。
中身が片寄っていないか少しだけ気になりながら歩いていると、見慣れた後ろ姿がベンチに座っていた。
「直!」
僕に気づいた朝陽先輩は、大きく手を振る。
「お待たせしました」
「全然。俺も今来たところ」
そう言いながら立ち上がる朝陽先輩だったけど、手にはいつものパンが握られていた。
「えっ、お弁当作るって言ったのに買ってきたんですか?」
「癖でつい買ってきちゃった」
袋を見つめながら照れ笑いを浮かべる。
「毎日買ってると習慣になっちゃってさ」
「もし心配なら朝に送りますよ」
「何を?」
「今日のお弁当はこれですって」
「……それ最高」
朝陽先輩はその場で握り拳を作って喜んでいた。
やはり王子様より食いしん坊って言葉の方が合っている。
「ふふっ、朝陽先輩らしいですね」
僕はベンチに腰掛け、お弁当箱を二人の間へ置いた。
「それにどれぐらい作ってくるのかもわからなかったから、直のお弁当を横取りしても悪いかなって」
「食いしん坊の自覚はあるんですね」
「でもその心配はいらなかったね……」
大きなお弁当に朝陽先輩は少し驚いていた。
重箱よりは小さいけど、普通のお弁当箱よりも大きいからね。
「おぉ……」
お弁当箱の蓋を開けると、朝陽先輩の目が一気に輝いた。
「唐揚げだ!」
子どもみたいに嬉しそうな声を出す朝陽先輩に僕は思わず笑ってしまう。
「昨日好きって言ってましたから」
「ちゃんと覚えててくれたんだ」
その言葉に少し照れくさく感じる。
僕はすぐにおにぎりを一つ取り出す。
「今日は食べやすいように、おにぎりにしてみました」
「なるほど! それにしても大きいな」
朝陽先輩はおにぎりをまじまじと見つめる。
僕の手よりも大きなおにぎりを朝陽先輩が持つと、どこか小さく感じた。
バスケットボールをいつも持っているから、手も大きくなるのかな?
「じゃあ、いただきます!」
そんなことを考えていた僕とは反対に朝陽先輩は口を開けて待っていた。
「……朝陽先輩」
「ん?」
「もうその食べ方が普通なんですね」
「あっ……直にはついつい甘えちゃうね」
一瞬きょとんとした朝陽先輩は、すぐに吹き出した。
「箸どうぞ」
僕が箸を渡そうとするが、中々受け取ろうとしない。
「いや、せっかくだし」
「せっかくってなんですか」
「ほら、両手塞がってる」
朝陽先輩はニヤリと笑いながら、おにぎりとお茶を持ち上げた。
確かに両手は塞がってはいるけど、いつの間にお茶を取り出したんだ?
それにお茶ってずっと手に持つものなのかな?
「ほらほら!」
口を開けて急かしてくる朝陽先輩。
「あーん!」
まるでご飯を急かすひな鳥にも見えてくる。
笑いながら唐揚げを一つ摘み、朝陽先輩の口へ運ぶ。
「んっ!」
一口食べるなり、朝陽先輩は幸せそうに頬を緩めた。
「これだよ、これ!」
大きく頷く朝陽先輩。
すかさずおにぎりも口に入れて、モグモグと食べていく。
「くくく、そんなにですか?」
「やっぱり手作りっていいよな。直が作るお弁当は本当に美味い」
その言葉に胸のあたりが少しだけ温かくなる。
朝早く起きて作った甲斐があった。
「じゃあ、僕もいただきます」
僕はおにぎりを一つ手に取り、隣でお弁当を食べていく。
いつもと同じ具材、いつもと同じ味。
それなのに今日は少しだけ美味しく感じた。
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