ママリス、配信を見る
一方、熱狂に包まれるミナの配信の裏で――。
ママリスは、暗い自室のモニターを見つめながら、陶酔したような吐息を漏らしていた。画面の中では、かつての弱々しい後輩が、不器用ながらも一生懸命に言葉を紡いでいる。
「水瀬くん……。ふふ、本当に……本当に可愛くなっちゃって……」
TS変異。それは彼にとっての悲劇だったかもしれないが、彼女にとっては天啓に等しかった。
震える高い声。必死に人と繋がろうとするその危うい姿は、彼女の心の奥底に眠る「何か」を激しく揺さぶる。
「やっぱり、私がちゃんと守ってあげないと。こんなに無垢で可愛い子、悪い狼さんに食べられちゃう前に……ね?」
実は、彼女もまたTS経験者だった。
そして彼女の場合、その変異に伴い、ある極端な性質が発現していた。
――『誰かを甲斐甲斐しく世話し、愛でて、支配したくてたまらない』という、肥大化した母性本能。
数年前からずっと気にかけていた、教室の隅にいたあの少年。
彼が同じ事務所に、しかも守るべき「女の子」として現れた。この運命的な再会に、彼女の母性はもはや限界突破を起こしていた。
「よしよし……もう大丈夫よ、水瀬くん。今度は、私があなたの全部を包み込んであげるから」
マウスを握る彼女の指が、画面の中のミナの頬を慈しむようになぞる。
その瞳は、配信で見せる「優しいママ」のそれよりも、ずっと深く、昏い色を湛えていた。




