採用決定
数日後。スマホの通知音が静かな部屋に響いた。
震える指でメールを開くと、そこには信じられない一文が躍っていた。
【一次審査通過のお知らせ】
――厳正なる審査の結果、貴殿を一次通過といたしました。後日、対面での面接を行います。
「……えっ、まじで?」
一瞬の歓喜は、すぐに底知れない恐怖へと変わった。
俺なんかが、面接? 教室の隅で石像のように固まっているこの俺が、業界の大人たちと対面で話すなんて、土台無理な話だ。
辞退の文字が頭をよぎる。けれど、その時画面の端に映ったのは、いつものママリスの配信アーカイブだった。
「……っ、もう、どうにでもなれ! ママと同じ世界に行けるなら、魂だって売ってやる!」
半ば自暴自棄な決意を胸に、面接当日。
慣れないヒールのある靴(なぜか玄関にあった)に苦戦しながら、俺は事務所の門を叩いた。
正直、緊張で頭は真っ白だった。志望動機を聞かれて何を答えたか、自分の名前を噛まずに言えたかすら怪しい。
ただ、「ママリスがいかに素晴らしいか」「彼女の言葉にどれだけ救われたか」を問われた瞬間だけ、何かが吹っ切れた。気づけば、酸欠になるほどの熱量で推しへの愛をぶちまけていた――それだけは、地獄のような記憶として残っている。
「……終わった。絶対引かれた……」
抜け殻のようになって帰宅し、不採用通知を待つだけの数日間。
しかし、届いた返信はあまりにも予想外なものだった。
【採用通知】
おめでとうございます。慎重なる検討の結果、採用が決定いたしました。
採用の決め手は、『声とルックスが規格外に良すぎたから』です。
水瀬様には今後、VTuber≪ミナ≫として活動していただきます。
「…………は?」
あまりにもストレートすぎる採用理由に、思わずスマホを落としそうになった。
あの早口のオタク語りはスルーなのか。それとも、あの熱意すら「キャラ」として評価されたのか。
とにかく、止まっていた俺の時間が、猛烈な勢いで動き出した。
≪ミナ≫。それが、女の子になった俺の、新しい名前。
「……やるしかない。初配信までに、完璧に準備しなきゃ」
不安よりも、ママに一歩近づけた高揚感が胸を支配していた。
運命の初配信に向けて、俺――ミナの物語が幕を開ける。




