それでもママはママ
頭の中が、ぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。
尊敬する先輩と、溺愛してくれるママ。その二人が同じ人間だったなんて。これからは、どんな顔をして接すればいいのか、どんな距離で隣にいればいいのか。
けれど、混乱の霧の向こう側に、一つだけ変わらない確かな光があった。
あの日、絶望の中で目が覚めて、自分の体が変わってしまった恐怖に震えていた朝。
すべてを失うのが怖くて、ネットの海を彷徨っていた俺に、生きる理由をくれたのは画面の向こうの彼女だった。そしてその彼女の正体は、かつて独りぼっちだった俺を、ただ一人見つけてくれたあの人だった。
「……俺は」
俺は、先輩が包み込んでいた俺の手を、自分から強く握り返した。
「俺は、先輩にも、ママにも救われました。あなたが側にいてくれることが、俺にとっては何よりも嬉しかった。……だから、これからもずっと、側にいてくれますか?」
その言葉を聞いた瞬間、先輩の瞳が大きく揺れた。
いつもの配信で見せる余裕たっぷりの笑顔が崩れ、一人の「人間」としての、泣きそうなほど切ない、けれど心からの喜びが溢れ出す。
「……もちろん。当たり前だよ。ずっと、ずっと一緒だよ、水瀬くん……ミナちゃん」
彼女の声は、もうママでも先輩でもなかった。俺を心から必要としてくれる、唯一無二のパートナーの声だった。
窓の外から差し込む午後の光が、二人の重なった手を白く照らし出す。
性別が変わって、名前が変わって、世界がどれほど姿を変えても。俺たちの絆だけは、もう二度と解けることはない。




