正体の告白
ママリスの正体が桐生先輩だと確信した翌日。俺は震える指先で、彼女――彼にメッセージを送った。
『……一度、配信を通さずに、直接会って話したいです』
送信ボタンを押した直後、まるで待ち構えていたかのように返信が届いた。
『分かった。ここに来てくれるかな?』
指定されたのは、オフィス街の隅にある、静かで人目のつかないカフェだった。
俺は逃げ出したい衝動を抑え込み、鏡の前で「ミナ」としての身なりを整えてから、目的地へと向かった。
店内の奥まったボックス席に、彼女はいた。
オフライン顔合わせの時と同じ、凛とした、けれどどこか現実味のない美しさを纏った姿。俺が向かいに座ると、彼女は注文していたコーヒーを一口啜り、ゆっくりと顔を上げた。
「突然連絡して、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。何かあった?」
その「大丈夫」という響きに、心臓が跳ねる。もう、聞き間違いなはずがない。
俺は膝の上で拳を握りしめ、消え入りそうな声で切り出した。
「……桐生先輩、ですよね。俺のこと、最初から分かってて……」
その問いに、彼女は表情一つ変えなかった。慈愛に満ちた「ママリス」の笑顔を浮かべたまま、静かに、けれど逃げ場を塞ぐような熱を帯びた瞳で俺を見つめる。
「ふふ……やっぱり、覚えててくれたんだ。嬉しいな」
肯定の言葉が出た瞬間、周囲の音が遠のいた。
そこからの先輩の語りは、告白というよりは、呪いの吐露に近いものだった。
「私もね、ある日突然、世界が変わっちゃったんだ。TSして、望まない姿になって……絶望したよ。でもね、この姿を生かして、君みたいに、落ち込んでいる人を助けようと思ったんだ。だからVTuberになったんだよね」
先輩は身を乗り出し、テーブル越しに俺の手をそっと包み込んだ。その手は驚くほど白く、けれどかつての先輩と同じように力強い。
「男だった時の私は不器用で、君に『頑張れ』とか『大丈夫だ』とか、そんな薄っぺらい言葉をかけることしかできなかった。……でも、今の私ならもっと違うやり方で、君を救ってあげられる。ミナちゃんが水瀬くんだと分かった時、私は決めたんだ。今度こそ、私の手の中で君を一生守り抜くって」
優しく微笑む先輩の瞳の奥に、昏い情熱が揺らめいている。
それは俺が夢見ていた「ママ」の慈愛とは違う、甘くて重い、檻のような愛だった。




