日常とママへの依存
「はぁ……」
暗い部屋の中、スマホの青白い光だけが俺の顔を照らしている。画面の向こう側にいるのは、今日も変わらぬ慈愛を湛えたあの人だ。
落ち着いたアルトの声、細められた柔らかい瞳。そのすべてを包み込むような、聖母のような空気感。
Vtuber――≪ママリス≫。
すり減った心が唯一、元の形に戻れる場所だった。
『今日、嫌なことがあって……』
震える指で、吐き出すようにコメントを打つ。膨大な流れの中に消えそうになったその一行を、運よく彼女は掬い上げた。
『コメントありがとう。……そう、辛かったわね。でも、無理しなくてもいいのよ。あなたは、そのままで十分なんだから』
耳元で囁かれるような、穏やかな全肯定。
『お疲れ様。あなたは、今日一日をちゃんと生き抜いた。頑張っていること、私は知っているわよ。大丈夫』
その瞬間、心に刺さっていた棘が抜けたような気がした。視界が急に滲んで、喉の奥が熱くなる。
俺――水瀬は、昔から「弱い」人間だった。
騒がしい教室では声を出すことすら躊躇い、誰かの視線を避けるように壁際に身を潜める。透明人間でいることが、自分を守る唯一の術だった。
だから、画面越しに与えられる強くて優しい‘‘ママ‘‘の言葉は、冷え切った現実よりもずっと、確かな体温を持って俺を抱きしめてくれる。
「ママ……」
縋るように呟いて、俺は重たい瞼を閉じた。
夢の中でなら、あの優しい声の主の隣にいられる気がして。




