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祇園で挽かれ続ける時間 ― 京都、ある茶舗の記録  作者: 百花繚乱


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第五章 速くしない、甘くしない

変えたのは、やり方だった。

だが、変えなかったものの方が多い。

茶を点てる手は、速くならなかった。石臼の回転も、昔とほとんど変わらない。

周囲がどれほど効率を求めても、この会社は、その速度に理由を見出せなかった。

速くすれば、確かに量は出る。回転は上がり、行列は短くなる。数字も整う。

だが、その代わりに失われるものがあることを、この会社は知っていた。

抹茶は、挽かれる過程で決まる。

葉が擦られ、熱を帯び、粉になるまでの時間。

その一瞬一瞬が、色と香りと味を形づくる。

急げば、濁る。速めれば、荒れる。

それは、誤魔化せない。

だから、この会社は速くしない。

それは意地ではない。基準に従った結果だった。

甘さについても、同じだった。

甘くすれば、分かりやすい。誰にでも届く。一口目で評価される。

だが、この会社は、甘さを主役にしなかった。

主役は、あくまで茶だった。

添えられる甘味は、茶を引き立てるためにある。

前に出すぎても、後ろに下がりすぎてもいけない。

口に含んだとき、最初に来るのは小豆の輪郭。

そのあとに、茶の苦みと香りが、静かに重なる。

その順番を崩さないために、甘さは抑えられている。

あんこもまた、基準の塊だった。豆の選び方、火の入れ方、練り上げる時間。

どれか一つを変えれば、全体が崩れる。

便利な方法はいくらでもある。安定させる手段もある。

だが、この会社は、変えなかった。

理由は単純だ。

一度変えたものは、元に戻らない。

変えないことは、守ることではない。毎日、選び直すことだ。

今日もこの甘さでいいか。

この香りでいいか。

この速度でいいか。

同じことをしているように見えて、実際には、毎日問い直している。

だから、手は止まらない。だが、急がない。

忙しい日もある。行列ができ、待ち時間が伸びる。

それでも、この会社は速度を上げない。待たせるためではない。

待つ時間も含めて、茶の時間だからだ。

座り、呼吸が整い、視線が落ち着く。

その状態で口に含む一杯と、慌ただしい中で飲む一杯は、別のものになる。

この会社は、その違いを知っている。

だから、速くしない。甘くしない。分かりやすくしない。

代わりに、揺らがない。

その揺らがなさが、やがて信頼になる。

信頼は、説明を必要としない。

気づいた人だけが、また戻ってくる。

ここで語られていることは、技術ではない。美意識でもない。

続け方の話だ。

基準を使い続けるということ。

便利さより、確かさを選び続けるということ。

この会社は、それを特別なことだとは思っていない。

ただ、今日も同じように挽き、点て、出している。

それだけで、十分だと知っている。

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