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祇園で挽かれ続ける時間 ― 京都、ある茶舗の記録  作者: 百花繚乱


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第二章 台湾で、基準は試された

この会社が海を渡ったのは、好奇心からではなかった。

宇治で培った茶が、外の世界で通用するのか。それを確かめる必要があった。

向かった先は、台湾。

蒸し暑い空気、強い日差し、人の声が絶えない街。

市場では果物が山のように積まれ、茶葉は麻袋に詰められ、香りは通り全体に混じり合っていた。

この場所では、味ははっきりしている方が良かった。

甘みは強く、香りは分かりやすく、余韻よりも即座の印象が求められた。

客は正直だった。気に入ればその場で買い、違えば迷いなく去っていく。

合わせることは、簡単だった。

砂糖を足す。

火を強くする。

香りを前に出す。

そうすれば、結果はすぐに数字で返ってきた。

周囲からも勧められた。「この土地では、そうした方がいい」と。

だが、この会社は、まず臼を据えた。

回す速さは、宇治と同じだった。

石臼の感触も、音も、変えなかった。

暑さで茶が傷みやすくなっても、挽き急ぐことはしなかった。

理由は単純だった。

挽き方を変えた瞬間、良し悪しの基準が曖昧になるからだ。

売れ行きは、決して順調ではなかった。

分かりやすさでは、他にいくらでも選択肢があった。

「なぜ、そこまで頑ななのか」と問われることもあった。

この会社は、答えなかった。

代わりに、同じ手順を繰り返した。

葉を見て、選び、合組を考える。色を確かめ、香りを確かめ、最後に味を見る。

売れたかどうかではなく、基準を満たしているかどうかだけを確認した。

台湾での商いは、この会社にとって試験場だった。

成功するかどうかではない。

基準を持ったまま、外に出られるかどうかを試す場所だった。


ある時、この会社は気づく。

合わせれば売れる。だが、合わせ続ければ、戻れなくなる。

この判断は、紙に書かれたものではない。

数字で示せるものでもない。

臼の前に立ち、茶を口に含んだ瞬間にしか、分からないものだった。

やがて、帰る時が来る。

台湾で得たものは、売上ではなかった。

外の世界は、基準を壊すためにあるのではない。

基準が本物かどうかを確かめるためにあるのだと、この会社は知った。

戻る先は、京都。

次に選ぶ場所は、人の流れが最も激しく、雑音の多い場所だった。

静かな一杯が、最も試される場所。

外へ出たことで、この会社は強くなったわけではない。

自分たちが、何を変えられないのかを、はっきりさせただけだった。

そして再び、臼は回り始める。

湿度も、気温も、言葉も違う場所を越えて。

その音だけは、確かに持ち帰られていた。

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