配信活動と挑戦
退院後、紗綾は自宅で静かに深呼吸をした。
鏡に映る自分の姿はまだ完全ではない。体重は増減を繰り返し、鏡に映る輪郭を見るたびに心が揺れる。
それでも、紗綾は決意を固めた。
「私は…もう一度、自分の声を外に届けたい」
以前から温めていた考えが、現実に変わる瞬間だった。配信アプリで歌とヴァイオリンを披露すること。
孤独や不安と向き合う中で、自分の音楽が誰かの心を癒すかもしれない――そう思ったのだ。
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初めての配信
初めてカメラの前に座った日、紗綾の手は震えていた。
画面の向こうには見知らぬ人たちがいる。コメント欄に流れる文字はまだ少ないが、そのすべてが彼女の存在を待っている証拠のように感じられた。
「こんにちは…今日は歌とヴァイオリンを…」
声が震える。胸が高鳴る。
弓を握り、弦に触れると、音が心を貫く。孤独だった時間が蘇るが、同時に小さな光も差し込む。
初めての視聴者からのコメントが流れた。
「きれいな音!」「勇気をもらいました」
紗綾の胸に熱いものが込み上げた。
「私…やってよかった」
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挑戦の連続
配信は思った以上に過酷だった。
夜遅くまで練習して、声のトーンや音の響きを整える。編集も行い、観てくれる人が心地よい時間を過ごせるよう工夫する。
しかし、時には批判のコメントや無理解な言葉も届く。
「下手」「つまらない」
紗綾は一瞬心が折れそうになるが、深呼吸をして言い聞かせる。
「大切なのは、私が音楽を届けること。誰かが喜んでくれる瞬間のために」
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偶然の出会い
ある夜、配信を見ていた視聴者の中に、ミセスグローバルアースのOGがいた。
彼女は紗綾の演奏と歌声に惹かれ、直接連絡を送った。
「あなたの輝きを、ステージで見せてほしい」
紗綾は迷った。再び舞台に立つ自信はまだ完全ではない。しかし心の奥で、挑戦したい気持ちが燃え上がった。
「やってみよう…」
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オーディションの緊張
オーディションの日、紗綾は背筋を伸ばし、舞台袖で深呼吸した。
照明の熱、観客の視線、審査員の目。すべてが圧倒的で、心臓が破れそうに高鳴る。
最初の音を出す瞬間、過去の孤独、努力、挫折、希望が一気に脳裏を駆け巡る。
弓を動かし、声を重ねる。
演奏が進むにつれて、紗綾の心は一つにまとまる。
結果は…東海地方準グランプリ。
そして日本大会のファイナリストにも進出が決まった。
舞台上で輝く自分を見て、紗綾は初めて心から感じた。
「私には、ここに立つ価値がある」
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新たな挑戦の予感
しかし、紗綾の挑戦はまだ終わらない。
舞台の裏には努力、練習、悔しさ、涙があり、それを乗り越えたからこそ得られる達成感がある。
配信でのファンとのやり取り、舞台での緊張、オーディションの経験…
すべてが紗綾をさらに強くし、自分を信じる力を育てていく。
「まだまだ…私はもっと輝ける」
そう呟き、紗綾は再びヴァイオリンを抱えた。
光の差し込むステージの向こうには、無限の可能性が広がっている。




