休学と孤独の音色
中学2年の春、架空都市リヴェルの空は淡い灰色に染まっていた。
紗綾は教室の片隅で机に顔を伏せ、外の桜の花びらが舞う様子を眺めていた。教室の中はにぎやかで、友達同士が笑い声をあげ、勉強に集中している。自分だけが取り残されているような感覚に、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
「どうして、私はみんなみたいに普通にできないんだろう…」
そう小さく呟く声は、誰にも届かない。周囲は気づくこともなく、日常は淡々と過ぎていく。紗綾はそっと机の引き出しからヴァイオリンを取り出した。親に買ってもらった大切な楽器。弓を握ると、なぜか少し心が落ち着く。
その日の夕方、母が学校からの連絡を伝えに来た。
「紗綾、医師の先生からね…少し休養が必要だって」
休学という言葉が紗綾の耳に突き刺さる。胸が痛む。友達と過ごす毎日、体育の授業、遠足や文化祭…すべてを諦めることになる。
「でも…ヴァイオリンはやめない」
心の奥で、小さな決意が芽生えた。
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休学生活の孤独
休学初日、紗綾は家の自室にこもった。窓の外には春の光が降り注ぎ、桜の花びらが風に揺れている。しかし紗綾の心は静かに沈んでいた。
机の上には学校の教科書やノート、そしてヴァイオリンケースが置かれている。手に取ると、弓の感触が柔らかく指先に伝わり、胸の奥に小さな光が差し込む。
孤独な日々の中、紗綾は中学から続く親友たちのことを思い出す。
弦楽合奏部で共に音楽を奏でた4人の友人。それぞれ性格が異なるが、音楽への情熱は同じだった。
•里奈:落ち着いていて冷静、的確なアドバイスをくれる
•美咲:おっちょこちょいだが笑顔が魅力、紗綾を励ましてくれる
•優衣:努力家で負けず嫌い、時に厳しい言葉も
•奈々:自由奔放で明るいムードメーカー
「みんな…元気にしてるかな」
スマホで連絡しようとするが、送る勇気は出ない。孤独は深まるばかりだ。しかし、ヴァイオリンを抱え、弓を動かすと、自分だけの世界が広がる。音が響くたび、心の奥の不安が少しずつ溶けていく。
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音楽がくれた光
休学してから数週間、紗綾は自分のリズムを見つけた。
朝は軽く体を動かし、昼は読書や学習、午後はヴァイオリン。
夕方には少し散歩に出て、桜並木を歩く。風が顔に当たるたび、胸の奥が少し軽くなる。
ある日、ヴァイオリンを抱えて弾いていると、近所の公園で小さな子どもたちが立ち止まって聴いてくれた。
「きれいな音!」
その一言に紗綾は胸が熱くなった。孤独は消えないけれど、音楽が誰かの心に届く喜びを知った瞬間だった。
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友情の再確認
休学中も、4人の友人たちは紗綾を気にかけてくれた。里奈からの手紙、美咲からの電話、優衣からの励ましのメッセージ、奈々のちょっとしたイラスト付きのハガキ。
それぞれの個性が紗綾の心を支えてくれる。
「私、ひとりじゃないんだ…」
そう思えた時、紗綾の中に再び勇気が湧き上がる。音楽を続けること、そしていつかまた友達と同じ舞台に立つこと。
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少しずつ芽生える希望
春が終わり、初夏の陽気が訪れる頃、紗綾は自室で弓を動かしながら考えていた。
「少しずつでも、自分を信じてみよう」
孤独な日々はまだ続く。でも、音楽、家族、友人が支えになり、紗綾の心には小さな光が灯っていた。
弓を動かすたびに、音は外の世界へ羽ばたく。孤独は完全には消えないけれど、紗綾は知っている。
どんな暗闇の中でも、自分を支えてくれる光が必ずある。
こうして紗綾の休学生活は、孤独と葛藤、そして小さな希望に包まれながら始まった。
未来への一歩を踏み出す準備は、少しずつ整いつつあった。




