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愛に抱かれて  作者: 藍本 彩夢


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自覚

 国王誕生祭の警備は無事に終わった。

 市場や店の売り上げを狙った窃盗団を、全員 捕えるというおまけまでついて…

 これによってハーディの街の自警団と警備隊の名はますます人々に知れ渡る事となった。 

 シルヴィがハーディの街に来てから、一年が経っていた。ジェラールとシルヴィも一緒に行動する事が多くなり親交を深めていた。

 ある日 ルシアにお願いがあるからと言われ茶々屋で待ち合わせをした。

 約束の時間は午後九時 既に店にはジェラールが一人でいる時間だった。

 店にはルシアがセルジオと共に来ていた。

 二人は半年程前 騎士学校が近辺の街の要望で他の騎士学校でも併設している各種部門を新設した時、ダンス・社交ダンス部門の指導者として招かれていた。

 シルヴィはジェラールにコーヒーを頼むと二人の方へ行った。

 「どうしたの?二人揃って‥」

 シルヴィは二人の向かい側に座りながら聞いた。

 まもなくジェラールがコーヒーを持ってきた。

 「ゆっくり してけよ。」

 ジェラールは三人に声をかけるとカウンターへ戻った。

 「ルシア あたしにお願いって何かしら?」

 「今回 花祭りのイベントで各科目の競技会があり、そのエキビジョンで各学校の指導者が演技を見せる事になったの。今回 我が校はダンス・社交ダンスの演技をやる事になって練習していたんだけど、一人怪我をしてしまって人数が足りなくなってしまったの。」

 「当日まで 後 二週間しかないんだ。他の各種部門の先生方に聞いたら社交ダンスなら踊れるけど、ダンスは経験がないって言うんだ。」

 セルジオが言った。

 「それで皆さんがシルヴィなら踊れると思うとおっしゃって‥学校長に規定を確かめてもらったら、指導者の演技の場合 模範演技なので併設している騎士学校の指導者なら構わないそうなの。ダンスの経験がある人なら二週間あれば踊れるダンスなの‥シルヴィならダンスの経験がある訳だし、騎士の称号を持っているなら社交ダンスも踊れるし 協力してもらえたらと思って…」

 ルシアが言った。

 「いいわよ。あたしでよければ協力するわ。」

 「ありがとう 助かるよ。練習は授業が終わった後 五時から各種部門の方の第一ダンスホールで…」

 「わかったわ。」

 「それと演技者の名前を提出するのに、騎士学校の指導者が出る場合騎士称号を持っている人はそちらの名前で…っていうんだけど 俺達知らないんで教えてくれないか?」

 「ええ‥シルヴィ・アルフヘイム・フェアリー」

 シルヴィは静かに答えた。

 「アルフヘイム・フェアリーって‥女騎士 最高位の称号じゃないか‥指揮官としてではなく 君が望めば管理職にだってなれる…」

 「ええ でもあたしは管理職って好きじゃないの。いつでも多くの人と接していたいの。多くの人と接しているといろいろ学ぶ事もあるし、大きな視野を持っていられるでしょ。そして何より人の温もりが感じていられる‥それが一番ね。」

 そのシルヴィの言葉は彼女の人柄がでているなとルシアとセルジオは思った。  

 三人はそのままいろいろな話しをしていた。

 ふとカウンターを見たセルジオが言った。

 「おい ルシア。ジェラールと話しているの リーゼじゃないか‥」

 その声でルシアとシルヴィもカウンターを見る。

 ジェラールがカウンター越しに女性と親しそうに話していた。その瞳が優しくその彼女を見ていた。

 その二人を見てシルヴィの中で感情が騒ついた。

 「あら本当 リーゼだわ‥」

 ルシアはシルヴィに向き直ると声を潜めた。

 「内緒よ。彼女はリーゼと言ってジェラールの想い人だったの‥彼女もジェラールを好きだった。でもジェラールは自分の気持ちを告げなかった。そんなジェラールに彼女はついていけなくなったんだと思う。結局 他の人と付き合い出して、その人ともうすぐ結婚するって聞いたわ。その相手がジェラールの友人の一人だった。辛いだろうなって思う事もあるわ。でもね‥彼女の気持ちもよくわかる‥それらしい素振りは見せるのに はっきりと気持ちを伝えられた訳でもないし、自分にだけ特別 優しいかといえば他の女性にも優しい訳でしょ。自分の心がそんなふうに不安定な時に、いつも側にいて手を差し伸べてくれて優しくされたりしたら、どうしてもその男性に惹かれてしまう事って多いもの…その寄り添ってくれる男性がはっきりと気持ちを伝えてくれたら、わたしだってその男性を選ぶかもしれない‥」

 「そうね…」

 そう言いながらもシルヴィは自分の中で感情が大きくうねっているのを感じていた。

 (何であたしはジェラールに 好きな人がいるって考えなかったのかしら‥バカね‥そしていつの間にかあたしは‥ジェラールを好きになっていた。)

 シルヴィはそう思った時キュッと胸が痛かった。

 「もしかしたらジェラールは、まだ彼女への想いを抱いているのかしら‥だから彼女を作らないのかしら…」

 ルシアが呟くように言った。

 「それは どうかな…」

 セルジオが言った。

 「確かにあの頃のジェラールはリーゼを本気で想っていた。でもそのリーゼが選んだのはジェラールの友人だった。それは当然ショックだったと思う。だからといって その後 付き合った女性とも うまくいかなかったのはリーゼへの想いがあったからだとは俺は思わない…今はすでにリーゼへの恋愛感情はないと思う。友人としての感情はあったとしても…だからリーゼが原因で恋人をつくらないのだとは考えられない。

 あの頃のジェラールが想いを告げなかったのは彼の心が何か違うと感じていたからかもしれない‥今はそう思うんだよ。

 あれからジェラールは その精神力も器量も人間性も 一回りも二回りも大きくなった。そのジェラールの心を揺り動かすそういう女性に出会っていないだけじゃないかと思う。それに今のジェラールにリーゼでは役不足だ。ジェラールが仕事に力を入れられない‥それは俺達にとってもマイナスになる。」

 「そうね。ジェラールが仕事にも力を入れられて それを見守っている事の出来る女性か…難しいわね‥でもきっとジェラールに相応しい女性が現れるわね。

 「そうだな‥」

 「とりあえず わたしリーゼに声かけてくるわ。シルヴィも紹介するわよ…セルジオはどうする?」

 「ああ 俺も行くか‥」

 席を立とうとした時、ドアを開けて入ってきた男性がシルヴィを呼んだ。

 「シルヴィ‥」 

 「ロド‥」 

 シルヴィが駆け寄る。

 ロドと呼ばれた男性がシルヴィに耳打ちする。

 シルヴィは頷くと言った。

 「ルシアごめん。このまま帰るね。お先に‥」

 シルヴィは代金をおいてジェラールにご馳走様と挨拶をするとロドと外に出た。

 何か話すとロドはシルヴィの肩を抱き寄せた。シルヴィはそのまま寄り添うように歩いて行った。

 ジェラールはその後ろ姿をただ黙って見ていた。


 外へ出たシルヴィはロドニアスから、兄ライアンが行方不明になった事を聞き激しいショックを受け呆然と立ち尽くした。 

 そんなシルヴィを労るように肩を抱き寄せ支えた。詳しい話しは伯父さんの所でと促した。

 二人がモリスの家に着くとモリスがすぐに出迎えた。

 兄ライアンが行方不明になった状況を遣いの者から聞いた。

 ライアンは南の領地にいる祖父母の所を訪れながら、領地を視察しいつも通り船で海路の視察もしたようだ。祖父母の所への帰り道、乗っていた船の舵が急に操れなくなり大きく揺れ甲板に出たライアンが落ちたのだという話しだった。直ぐに船を止め捜索したが見つからなかったという‥今 わかっているのはその船に魔法の痕跡が残っていた事…詳しい状況は調査していると報告を受けた。

 落ち着きを取り戻していたシルヴィは、南の領地にいる者達に祖父母のまわりの警護強化の人数増加と近辺での兄の捜索の指示を出した。

 「モリス 花祭り後の休暇はリヨンお父様の所へ行きます。連絡しておいて下さい。ロド その時あたしと一緒に来て下さい。」

 シルヴィの声に はい と答えるとロドニアスは報告に来ていた遣いの者達と一緒にすぐに行動に移す為モリスの家を出た。




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