バート夫妻
自警団とシルヴィ達は誕生日祭の一週間前から、少しづつ警備を強化しだした。
それは国王誕生日の三日前だった。
シルヴィが騎士の舞の指導を終えて、警備隊の詰所へ入って間もなくだった。
モリスが夫婦を連れて詰所を訪れた。
「いつも娘のシルヴィがお世話になってます。」
詰所に入ると夫妻は、そこにいた自警団のメンバーや警備隊員に挨拶をし頭を下げ、皆さんでとお土産を渡した。
シルヴィはそれがモリスの妻 メリッサの兄夫婦である事を悟った。
夫は人当たりの良い優し気な顔つきで、それに合った口調の上品な紳士だった。
妻はどこか母に似た雰囲気を持つ綺麗な人だった。
「お父様 お母様 連絡くれれば迎えに出たのに‥」
シルヴィは笑顔で二人を迎えた。
「いいんだよ。誕生祭の警備で忙しい事はわかっていたんだから‥誕生祭のパーティに出席がてらおまえの顔を見に来たんだよ。この辺は見る所も多いからちょっと周ろうと思って早目に出てきたんだ。」
「そうなんだ‥あっ 皆んなに紹介するね。あたしの父 リヨン・バート 母のフローラ 伯父のモリス・クラウド。」
続けて仲間達を紹介した。
「伯父様は知っているけど改めて紹介するね。ここにいるメンバー達‥それと要所 要所を固めているのは、あたしの素晴らしい仲間達…」
そう言ったシルヴィの顔は輝いていた。
それはその仲間達がどんなに素晴らしいかを物語っていた。
「いい仲間達が出来て良かったな。」
リヨンが言った。
「ええ…」
シルヴィは答えた。
「シルヴィをこれからもよろしくお願いします。」
フローラがもう一度 頭を下げた。
そこにいたメンバー達は、こちらこそよろしくお願いします。とかいつもお世話になっているのは私達なんですよなどと口々に言っていた。
シルヴィは家の鍵をリヨンに渡し帰宅時間を言い夕食の約束をし、それまで寛いで居てくれるようにと親子としての会話の中で伝えた。
仕事を終えたシルヴィが家に着くと 明かりが窓から漏れていた。
その明かりを見たシルヴィは何となくホッとした。
ドアを開けてただいまを言うとお帰りなさいと声が返ってきてた。ダイニングのテーブルの上には料理が並べられていた。
そのテーブルをリヨン フローラ モリス マリーが囲みシルヴィを笑顔で迎えた。
「ごめんなさいね。黙ってキッチンを使わせて頂いたの‥」
「いいえ いいんです。返ってすみません お夕食に招待したのに作って頂いちゃって‥でも嬉しいです。ありがとうございます。」
「シルヴィ様 改めてご紹介致します。義兄夫婦です。」
「リヨン・バートです隣が妻のフローラです。」
「シルヴィ・ローサ・シャインです。お会いできて光栄です。」
「こちらこそシルヴィ様にお会いできて感激しております。」
「お話しは食べながらにしましょう。せっかくのお料理が冷めないうちに‥」
シルヴィはそう促した。
テーブルの上に並べられた料理は、シルヴィの好きな物ばかりだった。フローラがモリスにシルヴィの好物を聞いて作ったようだった。
「お味はいかがですか?お口に合うといいのですが‥」
シルヴィが口に運んだのを見てからフローラが聞いた。
「とっても美味しいです。母の味に似ています。それにバート夫人は母とよく似た雰囲気を持っていますし、角度によって母の面影が重なります。」
シルヴィはちょっと目を伏せた。
それは病床への母へ思いを馳せているようだった。
開けてある窓から風が入りシルヴィの髪をフワッと持ち上げた。
シルヴィはフッと目を上げるとフローラを見た。
「バート夫人は母の血縁の方ですか?」
フローラはにっこり微笑むと答えた。
「ええ そうです。あなたのお母様の母方の従姉妹です。昔からよく雰囲気が似ていると言われるんですよ。ソフィアは夏の始まるこの時期になると、御両親と一緒にわたしの実家の近くにあるロドワサーグ家の別荘によく来ていたの。その間はソフィアとずっと一緒だったわ。だからよく知っているの。あなたの好きなお料理はソフィアも好きだったわ。きっと折ある事にお料理をしていたのね。」
「ええ お茶の時間のお菓子は必ず母の手作りでした。それから家族にとって嬉しい日‥例えば 誕生日や学校に入学した時、卒業した時など特別な日の夕食は母がキッチンに入って 皆んなの手を借りながら作ってくれました。」
「そうでしたね。そして奥様はそのお料理を家で働いている全員に振る舞ってくれたんです。私達の様に夫婦でいる者はその子供も招待して下さって、皆んなで一緒にテーブルに着いて皆んなで食べたんです。」
モリスは嬉しそうに言った。
「そして皆んなでワイワイ言いながら片付けて‥」
マリーが言った。
「楽しかったわね‥」
シルヴィが続けた。
「ええ‥」
マリーはにっこりと笑いながら大きく頷いた。
その様子を微笑みながら見ていたフローラが言った。
「充実した時間だったのでしょうね‥」
シルヴィとマリーがコックリと頷いた。
「シルヴィ様 それにしてもよくわたしが あなたのお母様の血縁だとわかりましたね。」
シルヴィが少し戸惑いながら答えた。
「それは…ただそんな気がしたんです。もしかしたらって」
「風が教えてくれたんですね‥さっきあなたの髪を揺らした風が…」
リヨンがシルヴィを優しく見ながら言った。
その言葉でシルヴィの顔から戸惑いが消えた。
「ええ そうです。たまにあるんですそういう事が‥それが今日のように風だったり‥水音だったり‥変わっているでしょ。」
「いいえ 少しも変わっていませんよ。それがあなたの中に受け継がれているロドワサーグの血なんです。あなたのお母様の実家ロドワサーグ家はこの国の隣国である ソーラ国の特別役職の家柄である事はご存知ですね?」
リヨンの問いにシルヴィは頷いた。
「伯父様は ソーラ国の神官ですわ。」
「そうです。でも普通の神官ではありません。大気を読み 雲を読み 風邪を読む‥そういう自然の力を感じ声を聞く事が出来る神官なのです。
ロドワサーグの家系からは神官だけでなく多くの優秀な魔法使いも出ています。あなたのお名前の中にあるローサとはその特別な血の力を受け継いでいるという証しなのです。だからあなたが風の声や水の声を聞いても不思議な事じゃないんですよ。」
「母にもそう言われています。でもその事は自分の中にしまっておきなさいって‥」
「それがいいでしょう。でもどうしても気になる事があったら私達に言って下さい。私達はあなたのお力になる為にあなたの両親と名乗ったのですから‥」
「有難うございます。それじゃあ今からはお父様 お母様と呼ばせて頂きますわ。」
「嬉しいわね あなた‥わたし達に娘がいるなんて何かワクワクしちゃうわ。」
リヨンとフローラはとても喜んだ。二人の間には息子しかいないのでとても嬉しいのだと言った。
皆んなで色々な話しをしていて、バート家は才能ある者を見い出し養子としてその才能に合った教育を受けさせ自立させていると聞いていた話しは事実だと改めて思った。ただ今回のように名前だけを貸すのは珍しいようだった。それも本家の主夫婦が両親を名乗るのは珍しいようだった。
メリッサから連絡をもらった時 息子が提案したようだ。ロドワサーグ家の血をひく それもその力を受け継いでいるという証しを持っている方ならバート本家の我が家の娘という事にしようと‥リヨンとフローラはそのつもりだったのですぐに決定したようだ。今日もリヨン 一人で来るつもりだったのにフローラがソフィアの娘のシルヴィに会いたいと押し切って一緒にきたようだった。
食事も終わり後片付けも手伝ってモリスとマリーは家へ帰って行った。
その頃 警備隊の詰所にジェラールが顔を出し シルヴィの両親が来た事を聞いていた。
ジェラールはバート家のことを知っていたので、シルヴィがバートを名乗った時 養子なのかと‥それとも名前を貸す事あるのも知っていたのでそちらなのか‥という疑念が浮かんだがそちらはすぐに打ち消していた。
しかし シルヴィの両親に会った者達の話しでは、母親とシルヴィが似ていたと言うので本当の両親なのかと思い直した。
父親がリヨン・バートと名乗り 誕生祭のパーティに出席すると言っていた事を聞いて、それがソーラ国のバート本家である事を悟った。ジェラールは前にリヨンにお世話になっていたので挨拶する為 シルヴィの家を訪れた。ベルを鳴らし名前を言うとシルヴィがドアを開けた。
「何か あった?」
「そうじゃないんだ。詰所で君の御両親が来ているって聞いて‥名前を聞いたらリヨン・バート氏だと言うじゃないか。俺 以前 バート氏にお世話になっているんで挨拶に来たんだ。」
「まあ そうだったの。入って‥お父様 お父様にお客様よ。」
シルヴィは奥のダイニングへ向かいながら呼んだ。
「わたしにかい‥?」
ダイニングのドアが開きリヨンが出て来た。
ジェラールの顔を見ると満面の笑みを浮かべた。
「ジェラール君 ジェラール・フォード君じゃないか。元気そうだな。」
「お久しぶりです。あの時は大変お世話になりました。お陰様で元気で過ごしております。バート氏もお元気そうで何よりです。」
二人は握手を交わし リヨンはジェラールに座るように勧めた。
「わたしがここにいる事が、よく分かりましたね。」
「はい 詰所の者に聞きました。」
その言葉を受けてシルヴィはジェラールが、この街で自警団の統括と茶々屋のオーナーとしてやっている事 今 誕生祭の警備を一緒にやっている事などを話した。その間にフローラがお茶を運んで来た。リヨンはフローラを紹介した。
ジェラールはフローラの顔を見て、改めてこの二人がシルヴィの両親だと思った。
それはシルヴィ達にとって都合の良い誤解だった。




