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愛に抱かれて  作者: 藍本 彩夢


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プロローグ

 「いつも いつも好き勝手な事をして、我が家の名に泥を塗りおって‥シルヴィ お前 それでもシャイン家の娘か…勘当だ!出ていけ!!」

 「言われなくても出て行くわ‥シャイン家が何様だって言うの…治めている領地の領民達の暮らしを守るどころか、苦しめている。上に立つ狡くて自分達では何もしないどうしようもない奴らばかりが、得をして満面の笑みを浮かべている…それこそがおかしいのよ。領民達が笑顔を浮かべて生活してこそ その領地は豊かになるのよ。何故 それが分からないの!いえ 分からなくなってしまったの!父様‥」

 「シルヴィ 何を言っている。家風は代々伝わってきたものだ!シャイン家の家柄を考えろ!」

 「本当にそうかしら?家風が一体何よ!家柄が何よ…父様がそれ程まで大事にしている家風だって 誰が作り上げたものなのか分からないものね‥誰かさんの都合のいいようになっている‥そう思わない?ねえグロウ。」

 それは意味深な言い方だった。

 「何を言っているんだ!家に落ち着いていた事もないお前に 我が家の家風の何が分かる!!」

 「そうですね。私利私欲に全て繋がっている‥そんな家風なんて分かりたくもありませんわ…父上は父上の信じる道をお歩み下さい。私は私の信じる道を歩んで行きます。それでは失礼致します」

 シルヴィは踵を返すとカツカツと靴音を高らかに響かせて出て行った。

 玄関をでた所で声を掛けられた。

 「シルヴィ 何を考えている‥無茶な事をするんじゃないぞ‥」

 「兄上 ご心配なさらないで下さい。この方が自由にいろいろな事を調べられます。それより兄上の方こそお気をつけ下さい。グロウにとって目障りなのは兄上です。自分の思うようにならないのは、兄上だけですから…」

 「ああ 俺も十分注意するよ‥」

 「そうして下さい。」

 シルヴィは 兄 ライアンに笑顔を見せ家を後にした。

 次にライアンと会うのに何年もの月日が かかる事になるとは知らずに…

 

 シルヴィはその足で 北の居館で療養している母の元を訪れた。

 シルヴィの母は一年前突然倒れそれ以来 口もきけず身体の自由さえままならない。時々意識も朦朧としているようだ。

 シルヴィが母の側に行くと、その手を少しずつシルヴィの方へ延ばした。シルヴィはその手をしっかりと握った。

 「母様 お元気でしたか? なかなか来られなくてごめんなさい。今日は暫くの間のお別れに来ました。あたしは父様に勘当されました。」

 母の目が寂しげに笑い シルヴィをじっと見た。まるであなたが そう仕向けたのでしょと言うように…

 「母様にはわかっていらっしゃったんですね。そうです‥あたしがそうなる様にしました。このままこの家にいたら、母様をこの状態から救う事も…父様を元の父様に戻す事もできないと思ったから…本当は母様を一緒に連れて行きたいけど、今のあたしには何も出来ないから‥母様の身体の為にもここの方がいいって思うから、今は一人で行きます。でも必ず迎えに来ます。だから待ってて下さい‥」

 シルヴィは母が微かに頷いた様に見えた。

 「それじゃあ‥」

 シルヴィは母の側を離れると、隣の居間に続くドアを開けた。

 そこには 中年の女性と少し若い女官と侍従がいた。

 ドアを閉めるとシルヴィは中年の女性に声を掛けた。

 「メリッサ‥いつも母様の側にいてくれてありがとう。」 

 「何をおっしゃるんですか。わたしは当たり前の事をしているだけですよ。急にどうなさったのですか?」

 「実はあたし勘当されたの‥シャインの家を出る事になったの‥」

 「ええっ!」

 メリッサは一瞬 驚いたような声を出したが、フッと優しげに息を吐いた。

 「何かするとは思っていましたが‥そうですか‥それで どうなさるんですか?」

 シルヴィは侍従と女官を見た。

 「ヒース キャサリン 二人共こっちに来て‥」

 二人はシルヴィの方へ来た。

 「今まで黙っていたけど、この二人は優秀なあたしの仲間なの。二人共 腕もたつし 我が家の専任魔法使いだったロザンの愛弟子でもあるの。二人とは前から親しくしていたけど、ロザンが自分が追われた後 心配して二人を送ってくれたの。」

 「師匠に力の限り守るようにと言われて来たら、シルヴィの所だった。」

 「俺達は師匠の言いつけ通り守るよ。」

 ヒースとキャサリンはにっこりと笑った。

 「ありがとう 二人共‥メリッサこの二人はこれからも此処にいてもらうから、 何かあったらこの二人に‥」

 メリッサは頷いた。

 「あたしは 色々な事を調べるつもりでいるの。そしてグロウの悪事を掴んでやるわ…まずはあなたのご主人のモリスを尋ねる事になっているの。モリスとは連絡をとって あたしの暮らす場所 働く場所 全て整っているの。だから心配しないで‥」

 「もう あの人ったらわたしに何も言わないんだから…もしかしたらまりーも一枚かんでいるでしょ。」

 シルヴィはコクンと頷くと慌てて言った。

 「ごめんなさい。あたしが黙っててってお願いしたの。」

 「いいんですよ。わたし達でシルヴィ様のお力になれるのだったらそれで…」 

 「ありがとうメリッサ‥それで街で暮らすにあたってお願いがあるの。」

 「何でしょう?」

 「あなたのご実家の姓を名乗らせて欲しいの…」

 「そんな事ですか。構いませんよ‥わたしの実家はかなり枝分かれしていますから…シルヴィ様一人がバートを名乗った所でどうって事ありません。ご自由にお使いください。何かの時の為に実家に連絡を入れておきます。そうすれば有力なバートの家にも連絡がいきますから、シルヴィ様は安心して動いて下さい。もしかしたら わたしの兄がシルヴィ様を尋ねるかもしれません。兄はローサ家の血を受け継いだ人に会うのが好きなんです。奥様にもお会いしたんですよ。もし兄が尋ねたらその時はよろしくお願いします。」

 「ええ メリッサのお兄様なら喜んで‥お待ちしていますと伝えて下さい。」

 「ありがとうございます」

 「あたしはそろそろ行くわ‥後の事よろしくね。それから必ず迎えに来ます。」

 「はい 十分お気をつけて下さい。」 

 シルヴィは頷くと北の居館をあとにした。








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