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沈黙の花  作者: ななせいな
一章 花屋
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〈1−5〉 趣味

 南の国、ペリス王国で盛んに栽培されている芋。

 そこでは常食されているのに、何故先日の夜会では中毒症状が起こったのか。


「同じ種類の芋でも、中には毒を含むもの、調理時に処理が必要なものがあるんです」


 何の感慨もなく、文字を読み上げるようにセレネは言った。


 芽が出ていたり、緑色に変色していたり。他には未熟で小ぶりなものなども毒を含む。


 馬車で一週間揺られていたというのなら、芽の一つや二つ出ていただろう。

 陽光が当たっていたなら、緑色に変色しやすい。


「水にさらしても、熱を通しても分解されないような毒です」


 だから、毒のある部位を取り除く必要がある。

 状態があまりにひどいものは、食べないのが吉だ。


 致死量はどれくらいか知らないが、相当な量を食べる必要があるだろう。まぁ、人によりけりだ。


 当たり前のことだが、体が小さいほど致死量が少なくなり、重症化しやすい。


 極少数だが、昏睡や死亡例もあるそうだ。

 今回は一番重い症状で、昏睡だったか。


 芋を主食として食べるペリス王国では、毒のある芋も、きちんと処理をしてから食べる習慣があった。


 言われなくてもできるような、いわば一般常識である。


 だがしかし、その芋がまだ普及していないシュタール王国の料理人たちは、それを知らなかった。


 芽は硬く、食感の邪魔になるかもしれない。

 けれどもそれをアクセントとする場合もあるだろう。


 毒を含む部分は苦みやえぐみを感じたり、舌に乗せるとピリピリとした感覚を感じることがある。


 だが、スパイスを強く効かせたり、酒が入っていたのならさして気にすることはなかったのかもしれない。


 それに、そういう独特な感覚を好む、変わった者もいるのだ。


(良いよなぁ、あのピリピリしたの食べたいなぁ)


 ここに一人。


 ちなみに言えば、毒だと知っていて食べたがっている。

 毒だから食べたがっている、と言ったほうが正しいかもしれない。


 何かもの言いたげな視線に気が付き、セレネは溢れてきた(よだれ)をごくんと飲み込んだ。

 植物のほとんどは網羅している。それがセレネだ。


(料理人は処理方法を知っていたけれど、敢えてしなかったという説もある)


 まぁ、どうでも良い。セレネには関係のない話なのだから。


 それに、見たところこの青年は柔軟な考え方をするように感じた。

 言わなくても考えはするはずだ。


 取り引きの目的であり、夜会にも出される食材。


 一流の料理人たちなら、前もって調理方法を調べていたのではないか、と。


 貧困地域の農村では、その栽培のしやすさから重宝されている芋。

 栄養価が高く、寒冷地で育ちやすいことから、このあたりの気候がちょうど、栽培に適している。


 なのだが、正しい処理方法を知らないと中毒症状を起こし、最悪の場合は命を落とす。


 このことから「悪魔の芋」と呼ばれたり、火炙りの刑に課されたこともあるとか、ないとか。


 冷静に考えれば、芋を美味しく炙っているだけである。

 黒焦げになっていたかも知れないが。


 一部からは毒草との扱いを受けているそうだが、何と勿体ないことやら。

 それで救われる命も、大勢あるだろうに。


「私が言えるのはここまでです」


 だから代金をくれ、と念を込めてセレネはノクスの方を見る。

 睨むと言ったほうが近いかもしれない。


 そんな視線をものともせず、ノクスは問う。


「最後に一つ、聞いても?」

「⋯⋯答えられることなら」

「その知識はどこで?」


 さて、どう答えようかとセレネは悩んだ。


 植物好きが高じ、薬の知識も加わったせいで解毒薬や嘔吐薬を作れるようになったセレネ。


 その知識を生かして、様々な植物を口にしては効用を試していた。

 勿論、中には毒を食らっては倒れるときもありました、だから知ってます――とはいえない。


 だからセレネは、こう答えた。


「趣味です」

「⋯⋯⋯⋯」


 何事もするりするりと答えそうな青年が、笑顔のまま黙った。

 色々言いたいことがありそうだが、すべてまとめて黙殺したといった感じに見える。


 まずいことを言っただろうか、とセレネは頭を悩ませる。


「⋯⋯話を聞いていたところ、毒を含んだ芋を食べた感想もあったのだけど、それは?」


 人の話をよく聞いている。

 セレネは表情一つ変えず答える。


「趣味です」

「君は、趣味で毒を食べるの?」

「そういう趣味はございません」


 そこはきっぱりと否定する。


 毒を食べるのが趣味ではない。植物を食べるのが趣味なのだ。

 それにたまたま、毒が含まれている。そう、たまたまだ。偶然だ。


 毒を好んで喰らう自虐趣味みたいに言わないでほしい。


 普通が分からない。だから、自分がどこにいるかも分からない。

 セレネはそういうタイプである。


 多少周りとズレているかな、まぁ良いや程度だ。

 特に気にしていない。


 端的に言えば、知的好奇心の向く方向が同年代の娘と違い、そちらに極端に注がれているだけなのだ。


「まぁ良いや。こっちへおいで」


 ちょっと嫌だが、行かねばなるまい。

 手招きするノクスに近づくと、セレネは小さな革袋を渡された。


 その重さは、どう考えても花の代金より多い。

 色をつけるにしても、つけすぎな金額である。


 喜ぶでもなく、訝しむ様子のセレネ。金銭関係はしっかりとしておきたい。


 ノクスの方を見ると、彼は人差し指を口の前に当てていた。

 縄で縛られた件と、夜会の件の口止め料と言ったところか。


 金で解決するのはどうかと思うが、高貴な身分の人とはそういうものなのだろうか。


 セレネは礼を言い、執務室を後にする。

「また頼むよ」という声は、正直聞かなかったことにしたい。

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