〈5−3〉 グループ作り
合宿が行われる屋敷は、実に様々な設備が充実していた。
薬師見習いたちが薬について学ぶ会場に選ばれたのも、十分納得がいく。
調理室、会議室、医務室、食堂や湯浴みをできる浴場。
外には訓練場や、薬草を採集できそうな森が隣接している。
まずは揃って会議室に移動し、合宿の説明が行われた。
「まず、この合宿では基本的に四人一組で行動してもらう。それに加えて、王国騎士団を一人、それぞれのグループに護衛として配属する。無論、彼らは君たちの手助けをしたり、助言をするなどと言ったことはない」
余談だが、この総監督官はかなり凄い人らしい。王族の体調を管理する侍医だとか、そうでないとか。
そんな人がこんなところで二泊三日も不在にしていて良いのかという疑問はあるが、王国騎士団が来ているくらいなのだ。
きっと、すごい集まりなのだろうなどとセレネはぼんやり考える。
総監督官は、その後もつらつらと説明を続ける。
まぁ、手元の資料に書いてあることを読み上げているだけだ。
文章も分かりやすく、丁寧にまとめられているので、理解するのに然程時間は要さない。
(なんか、合宿というよりは試験みたいだな)
上手く行けば資格も取れるというし、案外そうなのかもしれない。
一日目の午後には筆記試験がある。二日目以降は実技だ。
面接まであるので、試験といった方がしっくりくるまである。
「ねぇねぇ、セレネ」
特に何も考えずに話を聞いていると、隣に座っているミラが小声で話しかけてきた。
セレネは目だけ動かし、ミラを横目で見る。
くっちゃべっていると怒られそうだ。誤魔化す努力はせねば。
「どうしたの?」
「『きはんかん』って、なあに?」
ミラは指で指し示し、セレネに見せてきた。研修官紹介の部分だ。
最初のページなのだが、まだそこにいるのかと内心呆れる。周りはもっと進んだページにいるのに。
「規範官ね。薬師の責任、誓約、違反時の罰則なんかを教えてくれるの。席順的に、多分あの人」
そう言って、セレネは規範官の方に視線を向ける。
栗色の髪をさっくりと束ねた女性だ。人当たりが良さそうである。
見た目は二十代前後半ほど。研修官の中では一番若いように見える。
セレネとミラの視線に気がついたのか、規範官はにこりと笑いかけてきた。
今は説明中なので、二人は会釈を返しておく。
「あの人、すっごく優しそうだね」
ミラはとても嬉しそうだった。
まぁ何せ、師匠はあのじいさんだもんなぁ、とセレネは遠い目をした。
優しいという言葉とは、一番無縁に見えるじいさんだ。根は良い人なのだが。根は。
「では、最後に一言」
総監督官は参加者たちを真っ直ぐと見据え、口を開く。
「この場で失敗は許されるが、虚偽は許されない――これを心に留めておくように。では、各々グループを作ってくれ」
その言葉で、参加者たちはグループを組み始めた。
参加者はちょうど二十人。
四人一組を作るのなら、五グループできることになる。
「セレネ、一緒に組も!」
「うん、分かった」
即座にやって来た、というか隣にいたミラの提案を、セレネはすぐに受ける。
元から組もうと思っていたので、ちょうど良かった。
「リィナさんも、一緒に組みますか?」
部屋の隅でビクビクしているリィナに、セレネは声をかける。なんだか見ているだけで心配になる。
「い、良いんです、か⋯⋯?」
「勿論です」
「じゃあ、よろしく、お願いします」
少しはにかみながら、リィナはトコトコと近くまで歩いてきた。
これで三人。あと一人だ。
グループ分けが始まるなり、周りは一斉に組み始めている。もう大半は誰かと組んでいる状態だ。
まぁ、余り物にはなりたくないだろう。福があるとも言うのだが。
ミラは目の上に庇を作り、辺りをぐるりと見渡した。
そして、あっと声を上げる。
「あの人余ってるよ!」
「そういうのは大声で言わないの」
快活に失礼なことばかり言うミラを、セレネは少したしなめる。
聞こえているのかいないのかは知らないが、ミラはその余っている人のもとへ駆け寄る。多分聞こえていただろう。
ミラは遠目から見ても分かる勢いで話しかけ、すぐに引き連れて戻ってきた。
「はい、アルディラ・シュヴァルツ君です!」
「⋯⋯どうも」
アルディラはボソボソと小さな声で挨拶した。ミラと正反対の性格だ。
小柄なセレネやリィナよりも、頭一つ分背の高い男だ。
何も言わずとも、陰鬱な雰囲気がそこらかしこに撒き散らされている。何故、来たのか。
「ほらほら、もっと元気出してよ〜」
ミラはお構いなしに、アルディラの肩をバンバン叩く。それなりに痛そうな音がする。
「ねぇ、ミラ⋯⋯」
「ん? どしたの、セレネ?」
「その人と、面識あるの?」
セレネが半目になって問うと、ミラはぱあっと顔を輝かせ一言。
「ない!」
「「⋯⋯⋯⋯」」
ミラ以外の三人が、見事に沈黙した瞬間だった。
リィナは完全にセレネの影に隠れ、アルディラはとても迷惑そうにミラを見ている。
そりゃあ、初対面の人に馴れ馴れしく肩を叩かれたら、誰でもそうなるだろう。
(あとは、王国騎士団だけど⋯⋯)
王国騎士団はどのように選ばれるのだろうか? そう疑問に思っていると、一人の青年が近づいてきた。
帯剣しており、身につけている制服から王国騎士団の者だと分かる。
「王国騎士団自由部隊所属のルース・フィエルダだ。何かあったら、すぐに頼れ」
榛色の髪の青年は、腕組みをしてそう言った。
貴族の者なのだろう。いかにも傲慢そうである。
「ひぃっ、怖いよぅ⋯⋯殺されちゃうぅぅぅ」
「普通にしていれば、殺されませんよ」
今にも死んでしまいそうなリィナに、一応言っておくセレネ。
誰彼構わず殺されたら、たまったものではない。それは騎士でなくただの殺人者だ。
「貴様、殺人者を見るような目を向けるなっ!」
「ひいぃぃぃ、ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ」
ギロリと睨まれたリィナはセレネにしがみつき、ベソベソと泣きじゃくった。
完全に壁のような扱いをされているセレネは、大人しく遠い目をして壁役に徹することにした。
ちなみに、ミラはアルディラにノリノリで絡んでいる。
二人の温度差が激しいのは言わずもがなだが。
まだグループを作っただけなのに、セレネは三日分の疲労を感じた。
あぁ、やはり帰りたい。
諦観しているのはセレネ。元気にポンコツなのはミラ。
奇声を上げているのはだいたいリィナ。
陰鬱なのがアルディラで、うるさいのがルースです。
ひとまず、こうやって覚えておけば大丈夫です(多分)。




