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沈黙の花  作者: ななせいな
幕間
14/42

〈幕間 1〉 花占い

ちょっぴり、乙女の夢を壊しちゃうかもです。

「花占いっていうのが何か、教えてほしいのだけど」


 困ったように言うノクス。

 憂い顔すらも麗しく見えるのは何故だろう。セレネは頭を捻るが、何一つ分かりそうにない。


 どうやら最近、宮廷で花占いなるものが流行っているとか何とか。

 顔だけは無駄に良い青年も、流行りに乗ってみたいらしい。


(貴族も庶民も、価値観は案外変わらないのかな)


 身分差をひっきりなしに感じているセレネは、どちらが正しいのだろう、と唸った。

 花占いは民衆の間から広まった、ちょっとした占いである。


 誰かに聞いたり、調べたりしたら分かると思いますけど――という言葉は、胸の奥にしまっておく。


 あまりにも綺麗すぎて、きっと友達がいないのだろう。

 誰も、神の贈り物と称される者と対等に並ぼうとは思えない。可哀想に。


 そういうことにしておこう。


「ねぇセレネ。何考えてるの?」


 頬杖をつき、ニコニコと顔を覗き込んでくるノクス。

 よもや、自分の人間関係を心配されているなんて思いもしないだろう。


「いいえ、特に何も」


 あっけらかんと答える。


「そう? 私の思い違いかな」

「そうじゃないですか」


 そんなことないけど、と声に出さず呟く。


 ノクスの背後に控えているアルカスを見ると、変わらず眉間にしわを刻んでいた。

 (あるじ)の友人関係でも心配しているのだろうか。従者というのも、大変そうである。


 話が脱線してしまったので、元に戻す。


「では、花を取ってまいりますので、一度戻ってもよろしいですか?」

「そこまでしてくれるの? ありがとう」


 どこか無邪気に礼をいうノクス。なんだか幼く見えてしまう。


 こういうものは、聞くより見るほうが早い。


 百聞は一見にしかずという言葉をどこかで聞いたが、どこだっただろうか。

 帝国のものだったか。いや、もっと遠い国の言葉だったか。

 言葉の発祥国を思い出しつつ、セレネは乗合馬車を待った。




 ◇◆◇




 同じ種類の花を十輪ほど籠に入れ、セレネは宮廷へと戻った。


 花占いを知りたい青年は、優雅に紅茶を飲みながら書類作業をしていた。

 それだけで何故、画になるのだろうか。地味に興味は湧くのだが、絶対に暴けない謎である。


 白い筒状花の花を一輪手にして、セレネは口を開く。


「これはマーガレットという花で、花言葉として一番知られているのは恋占いです。花占いとして使われる花は、これが一番多いかと」


 つまり、花占いというのは恋占いだ。マーガレットの花言葉そのままである。

 その他のマーガレットの花言葉は誠実、私を忘れないで、真実の友情など、様々なものがある。


 セレネは花弁を一枚ちぎる。そして口に入れ、もぐもぐごっくんする。


「一枚目が好き、二枚目は嫌い。これを花弁がなくなるまで繰り返します」


 最後の一枚が「好き」で終われば、想い人も自分を思ってくれている。


 貴人の前で「好き」だの「嫌い」だの言う必要はないと判断したので、セレネは気にせず無言で続ける。

 別に、想っている殿方などいない。それでもする理由は、花が美味しいからだ。


 まず第一に、セレネは人に興味が向かない人間である。

 友達がいないというのは、案外セレネにも言えていることかもしれない。考えると何だか虚しくなった。


 花弁をちぎっては口の中に入れ、ちぎっては入れを繰り返し、最後の一枚まで終わった。

 きちんと心のなかで好き嫌いを唱えていたが、まぁ結果は分かっていた。


「今回は好きで終わったので、恋占いの結果は好きということになります。よければどうぞ」


 セレネは花を一輪差し出す。ノクスはそれを受け取りつつ言う。


「一つ、聞いても良いかな?」

「何でしょうか」

「ちぎった花を食べる意味はあるのかな?」


 数秒の沈黙の後、セレネは正直に答える。


「摂取すると嘔吐や下痢を起こします。あと、樹液は肌の炎症を起こす場合があるので気をつけてください」

「うん、つまり毒ってことだよね」


 変わらぬ笑みで、ノクスは納得していた。


 そう、マーガレットには毒性がある。

 大して強い毒ではなく、軽い体調不良程度の症状なのだが、食べるのはかなりおすすめしない。


「嘔吐薬はありますので、食べたければどうぞ」

「用意周到だね。遠慮しておくよ」


 さらりと遠慮されてしまった。美味しいのに。


 しばし、二人で花弁をプチプチちぎるだけの珍妙な時間が流れた。


 アルカスの眉間のしわがどんどん深くなっていたので、一輪差し出す。そして、アルカスも花占いを始める。頬が少し緩んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。

 堅物そうに見えるが、案外お茶目なのかもしれない。


 持ってきた花が全てなくなると、セレネは尋ねてみた。


「全て『好き』で終わったのでは?」

「そうだね」

「そうですね」


 ほんの少し目を丸くするノクスとアルカス。

 セレネも全て「好き」で終わった。これにはきちんと理由がある。


「基本的に、マーガレットの花弁の枚数は二十一枚なんですよ」


 つまり、奇数だ。「好き」で始めれば「好き」で終わる。逆もまた然り。


 大抵は「好き」から始めるので、必ず「好き」で終わる。

 これが乙女の恋を裏切らないといわれ、こういう恋占いが定着したらしい。


 自分を勇気づけるような、安心させるような、おまじないということだ。


 極稀にだが、花弁の数が偶数のものもあるだろう。

 それを引き当ててしまった時はまぁ、気を落とさずにしてほしい。

 占いばかりを信じてはいけないのだから。


 セレネが帰り支度を始めると、少し裏返ったアルカスの声が聞こえた。


「⋯⋯ノクス様?」

「どうしたの、アルカス?」

「どうしたのと言われましても⋯⋯」


 どうしたのだろうと声のする方を見たセレネは、思わずじとりと半目になった。


(⋯⋯食べてる)


 視線の先にいた美青年は、机に散らばった花弁を手で集めて、一枚一枚丁寧に口にしていた。


 毒があると分かっておいて。

 あれが本当に、常日頃から毒見が必須であろう貴族なのか。


 側ではアルカスが静かにワタワタしている。そして、セレネに目で何かを訴えている。

 残念だが、言いたいことは言ってもらわないと分からない。


 この光景を見れば、一体何人が卒倒するだろうか、と他人事のようにセレネは考えた。


 良いとこのお坊ちゃんが花を食べるのもどうかと思うが、一度机に落ちたものを食べるというのは衛生上良いのだろうかとも思う。


「別に食べる必要はないんですよ?」


 お前が言うか、とでも突っ込まれそうだが、その役目を果たす人物は今ここにいない。


 ノクスは考え込むように花弁を咀嚼し、飲み込んでから笑顔のまま言った。


「そうだね」


 さも当然のように答えるノクス。アルカスは、すかさず残っている花弁を手で回収している。

 食べ物を残さず食べるのは良いことだが、セレネはもう一度言っておく。


「⋯⋯毒ですよ?」

「うん、知ってるよ」


 その言葉に頭を抱えたのは、予想通りアルカスである。苦労人は大変そうだ。


 驚くでも怖がるでもなく、ノクスはアルカスの手からまた一つ花弁をつまんだ。そして、口に入れる。

 お気に召しているようで何よりだが、麗しの貴人がこれで良いのだろうか。


 セレネは見て見ぬふりをして、頭を下げてから執務室を出た。

 その背中に、ノクスはのんびりと手を振り、アルカスは助けを求める視線を送っていた。

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